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ナキアの街が見えてきた

よろしくお願いします。

◇◇◇




「あっ! 見えてきました! あれがナキアの街です!」



馬車から身を乗り出すエル君の指差す遥か先。

視界いっぱいに、かなりの範囲の下り勾配がみえる。


広範囲にわたって緑色、白、茶などの色が無秩序に点在していて、あまり美しくないマーブル模様を構成していた。それらを全て突っ切るようにして今にも消えそうな曲がりくねった線、いや、道が伸びている。そしてその道の先には灰色っぽい固まりが見える。


明らかに人工物であるそれは、ボクたちが今いる場所から見下ろした位置にある。

ここからだとかなり遠いけど全体像が良く見える。


海から少し離れたところに小さなゴマ粒みたいなのがゴチャゴチャと集まっているけど…。きっと建物…つまりアレがナキアの街なんだろうね。




そして、街なんかよりもボクの心を鷲掴みにした真っ青な……海。




海だ、海っ!

しかも季節は夏♡


折角水着みたいな鎧が出せるんだもん。

思いっきり泳いでみたい!




「キレイな海だね!何だかドキドキしてきたよ!」


「…私はお姉さまと共にいるときは、いつもドキドキです♡ はぁはぁ♡」



ボクと一緒にスレイプニルに乗ったベルフィは、例によってボクのおっぱい枕を堪能しているようだ。

姿を隠しているけど、サギニも並走してくれている。



「ベルフィたちは海とか湖とかで泳いだりしたことある?」」


「…? …泳ぐ? ですか?」


(ジエラさま。妖精国(アールヴヘイム)には湖はあれど海などありません。それに泳ぐなどということは、森に住む我らにとって未知の行為です)



ベルフィたちは水泳が想像できないみたいだ。



「じゃあ、ひと段落したらボクたちで海で遊ぼう! 泳ぎはボクが教えてあげるから。新しい水着も用意しなくちゃね?」


「は、はい、お姉さま♡ お姉さまと…み、ず、ぎ…で、水辺で遊ぶ? …なんだか分かりませんが…すっごく楽しみです。はぁはぁ♡」


(…ジエラさま。不束者ですが、手取り足取り、ご指導よろしくお願い申し上げます。はぁはぁ♡)


「う、うん。…う?」



するとゾクリとする視線を馬車から感じた。

見るとエル君の肩越しに、こちらを爛々とした目で凝視する…エル君と同じくらいの根暗そうな少年がいた。

そういえばあんな人もいたっけなぁ。

あの人って影がうすいけど貴族の人なんだっけ?

エル君に聞いてみ……いや、怖いから無視しよう。



ボクとベルフィが話をしているかたわら、エル君とヘルマンが話に興じている。

ヘルマンも馬に乗りつつ、エル君の乗る馬車と並走している。



「…大きい街だ。先程のジエラ様の言葉ではないが、俺も年甲斐もなくワクワクしているな」


「ここからは見えませんが、あの……ほら、白っぽい岩がごつごつした尾根があるでしょう? その向こうは遠浅の海になっていて、大きな塩田があるんです。この街は国に必要な塩のを一手に賄えるばかりじゃなくて、他国にも卸すことすら可能なくらいの一大生産拠点なんです。だから他国に対して発言力が強いんですよ!」


「ほう…」


「はい。でも発言力が強くてもナキア伯国は遠く離れれば離れるほど下々の者たちには評判が良くないようなんです。我が伯国を訪れるのは避暑目的の貴族たちくらいで、あとは商人くらいなんです。もっと旅人で賑わってくれれば良いんですけど」



……?

エル君の話に違和感を感じる。

ちょっと聞いてみよう。



「…今は夏だから観光客で賑わったりしないの? 海水浴とかさ。こんなにも綺麗な海なんだよ?」



エル君はヘルマンとの談笑を邪魔されたと感じたのか、一瞬顔を強張らせたけど、ボクの質問に答えてくれた。



「…? 何ですか、カイスイヨクって?」


「え? 海で遊んだりしないの?」


「しませんよ。ジエラさんの故郷では遊んだりしたんですか?」


「うん。泳いだり、釣りしたり、船で遊覧したり、その観光客を相手に宿泊施設を中心とした街が出来ている程だよ」


「それは楽しそうですね。でも、このナキアの街では絶対に無理です」


「…? どうして?」



エル君は顔を曇らせる。



「…お忘れですか? この街の海にはドラゴンが棲んでいるんです。ドラゴンは水棲ですから浅瀬には上がってこれません。ですから僕たちは塩田を作る事が精々で、海には出られないんです。噂話によると、海がある街には川船よりも大きい船が並び、交易とかが盛んらしいですが…」



ボクはエル君の説明にポムと手を打った。


そうだった。

ドラゴンを倒さなきゃね。

あまりにも綺麗な海にテンションが上がっちゃって忘れてた。



1・竜退治で名声を上げる。

2・好待遇での仕官。

3・戦場で活躍。

4・戦死♡



今のところ、これに勝るスケジュールは存在しないんだ。



「よし、ナキアに到着したらさっそくドラゴン退治だ。ベルフィ、ヘルマン、『竜殺し』の称号はいただきだよっ!」


「ちょっ!? ジエラさん本気なんですか!? ドラゴン退治なんて冗談では済まされないんですよっ!?」



するとグスタフ様も馬車から声をかけてきた。



「わあっはっはっは! ジエラ殿! 人間には分際というものがある! 我らのような普通の人間にはドラゴン退治など荷が重い。重すぎるのだ。第一、ドラゴンは海にさえ出なければ全く危険はないのだから、敢えて退治する必要もあるまい!」



馬に乗った取り巻きさん連中も「左様でございます」「まことに、まことに」とか言っているから、ナキアの皆さんはドラゴンを斃すなんて想像もつかないんだろうな。



ふふふ。

でもボクには出来ちゃうんです♡

普通の人間には出来ないことをやれちゃうからこそ、ボクは英雄になる運命にあるんです♡


でもここは論より証拠。

ここで心配されたり議論するより、実際に斃せば済むことだ。

だけど「ドラゴン討伐に行ってきます」「行ってらっしゃい」とはいかなそうだ。


…勝手に行って倒しちゃう?

いや、ダメだ。

「ジエラが斃した? 信じられない」って言われたら元も子もない。


あ、そうだ!

「キレイな海が見たいです♡」とか言って貴族様の誰かを伴って海に近づいて、ドラゴンを挑発(?)して、貴族様の立会いでドラゴンを斃せば、何の疑いもなくボクが『竜殺し』の英雄だね!


ボクって頭良いな!




「……ああ、すごくキレイな海ですね…。ドラゴンが棲む怖い海だなんて信じられない。もっと近くで見たいなぁ♡ でもボクだけじゃ…ナニか起こったら怖いし…。誰かついてきてくれないかなぁ♡」



ボクは周囲の人に聞こえるように言ってみる。

怖いもの見たさっていうか、多少のあざとさを醸し出すカンジで。



「お姉さま、私がいるじゃないですか? 海から魔物が現れるようなら海の一つや二つ干上がらせますよ?」


「ジエラ様、ドラゴン退治の下見ですか? 俺もお供しますが?」



ベルフィってばメチャクチャ言わないでよ。

ヘルマンもネタばらししちゃダメ。


すると白馬に乗ったジェローム様がやってきた。

彼は馬車には乗っていなかったみたいだ。

それにしても片腕を三角巾で吊って、顔には包帯を巻いているから痛々しい。

無理して馬に乗らなくたって良いのに…。


しかも無事な片方の手に持った綺麗な花をボクに捧げてきたんだ。

この人は一々カッコつけないと気が済まないの!?



「ジエラ殿、海が見たいのなら私の高台の別荘など如何ですかな? そこでベッドで愛を語…あ、失敬。先走りすぎましたね。…侯国での予定を語ろうではなああぁぁッッ!??」

ヒヒーン!



そしたら突然白馬が前足立ちで暴れてしまい、そのままジェローム様は転落してしまったんだ。



「じぇ、ジェローム様っ!?」

「お怪我は!?」

「しかし、こんなにも平坦な道で馬が暴れ出すなんて…」



ジェローム様はまたしても怪我をしてしまった。



…姿は見えないけど…またサギニの仕業だよね?

何だかジェローム様ってボクと仲間の仲を裂こうとしているから、サギニに目の敵にされているんだ。

命が保てば良いけど…。



でもボクの『海に行きたいな♡作戦』はジェローム様の落馬事故でうやむやになっちゃったんだ。



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