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賊を求めて

復興作業がひと段落した。


村を中心にかなりの広範囲に塀と堀で囲って、一箇所だけ出入り口として開けていて、そこに簡易的な橋がかけてある。

山賊が攻めてきた時は橋を外せば良いけれど、仕掛けとかを作っちゃうと壊れた時に大変だから、出入り口とその橋はそのままだ。

入り口は一箇所だから何かトラブルがあったら村の男性がなんとかする予定。

今までは塀も堀も無かったんで、これだけでも大喜びされた。

ちなみにベルフィはこれらをあっという間に終わらして、今はボクにべったりと纏わりついている。


畑もそう。

ベルフィが村周辺の土地を凄まじく肥えた土壌にして、その後に村人さんで小麦やライ麦っぽいものを作付けする。

塀の中のかなりの広範囲を畑にしちゃったけど、それでも村人さんたちは大喜び。

山賊のせいで人手が少なくなっても苦にならないって感じで頑張っている。


村人さんたちは山賊に壊された家の修理、冬のための薪作り、見張り櫓っぽいものや、簡易的な門扉みたいなものを作っている。

元・木こりのヘルマン、そしてグスタフの怪力は色々大活躍みたい。


特にヘルマンは村の男の子たちに大人気。

ヘルマンは面倒見が良いらしく、多くの男の子に「ヘルマン兄ちゃん。もっと色々な事教えて♡」と纏わりつかれている。


村の男性たち…猟師さんたちは自分のお仕事に集中してもらっている。

ボクと村の女性…お婆さんたちで獲物の皮をなめしたり、保存食とかを作っている。


あと、オマケで温泉まで作ってみた。



そんな事をしていると、村の人たちは「次はいつ山賊がやってくるか」という恐怖も忘れて、毎日を前向きに生活するようになったんだ。


でも、攫われた女子供の身内の人たちはそうじゃない。

ボクが砂金を贈って「奴隷として売られた人たちを買い戻してください」と言ったところで、実際に彼女らが帰ってこないことには安心できないんだろう。


それに対して。


被害が少ない連中っていうか、特に村の男たちが色々とちょっかいをかけてくるようになった。

最初のうちはボクたちが騎士という事で遠慮していたんだろう。遠巻きに視線を感じる程度。

でも段々と慣れてくると「騎士様に感謝しております…」とか言いながら近寄り、ボクの身体を不躾にガン見してくる。

『男のチラ見は女にとってガン見』とはよく言ったもので、本人はその気はないんだろうけどね。


今、ボクは村での生活のために鷲の羽衣(外套)を脱いで、サーコートを着ている。

サーコートっていうのは鎧の上に着る上着みたいなの。

村の中で『死にやすく、漢気を鍛える鎧』だと場違いっぽいから用意したんだけど、案の定『黄金の腕輪(ドラウプニル)』が創っただけあってタイトなニット地の超ミニスカワンピースみたいなサーコートで、元の鎧(競泳水着)に重ね着しても身体のラインは丸見えだ。

でも腕輪製なんで、しゃがんでも裾がズレてお尻が見えたりはしないみたいだ。

それでも村の男たちは気になるみたいで、それに村には若い女性がいないから、ボクみたいに漢気に溢れた女騎士にも注目が集まっちゃうみたいだ。


あと…。

それとは別にヘルマンとボクのカンケイが誤解されちゃってるっぽい。

このまま長居しているとどんどん勘違いされちゃうな。


それにベルフィがセクハラしまくりなんで騎士としての威厳が損ないまくりなんだ。彼女にいくら「ダメェッ!」と言ったところで、「お姉さまが悪いのです♡」の一点張りで聞く耳を持たない。


そんなこんなで山賊が襲ってくるのを待ってたら、ボクの騎士としての評判にどんどん傷がついちゃう。何か策を練らないといけないんだ。


それなら…。



ボクはヘルマンとグスタフに「しばらく遠出してくるね」と言って姿を隠したんだ。





女性陣で山賊を誘き出す作戦を考えた。


作戦といっても単純だ。

ボクがセフレに変装して、スレイプニルには美女(スレイ)に変化してもらう。

それからボクたちが目立つ行動をしていれば良いんだ。

それでもダメなら、更にこっそりと森乙女(ドライアード)さんたちを召喚して、撒き餌っぽく村周辺を彷徨いてもらえばバッチリだ。


ちなみにこれは、最近ヘンな…その…ヘルマンとボクが男女の関係だって噂があるんで、『ジエラ』を一時的に隠す事にも繋がるんだ。

セフレならヘルマンの義妹だし…、ど、どんなにスキンシップしようとも噂になる事なんかないよね!


もちろん、山賊が襲ってきたらどさくさに紛れてジエラに戻って戦えばいい。

村人たちもボクたちの活躍を目の当たりにする。

そんで「山賊が退治された」という噂を流してもらって、周辺の村々を安心させてもらう。

もちろん「ジエラという英雄さま御一行が山賊を討伐した」という内容も盛り込んでもらう予定。


完璧だね!





「お久しぶりです。まさかここで会えるなんて驚きです」


「ふん。この姿になったところで砂糖菓子が貢がれんとはな。つまらん」



ボクとスレイは、たった今到着したっぽく挨拶してみる。

例によってボクは露出過剰な踊り子衣装、スレイはスリットが過剰なチャイナドレス。

村の男たちは喜んでいるけど、そんなのは無視してヘルマンたちと話を続ける。



「この村に来る途中、色々耳にしました。なんでも山賊が湧いていて治安が悪いとか」


「ああ。俺たちはジエラ様の指示で村の防衛強化に勤しんでいる最中だ」


「うむ! ジエラ様は山賊が襲って来たら殲滅するとの仰せだ! しかし連中がやって来る気配すらない。一度襲った村は再襲撃が後回しになっているのかもな!」



そうなんだよね。

きっかけがないと山賊たちがやって来ないんだ。

やっぱり森乙女たちに頑張ってもらわないとならないかな。



それはそうと、ボクの格好は踊り子衣装なんで、村の男たちの視線があからさまだ。

踊り子だから軽い女だって思われているのかも知れない。

なので義妹として堂々とヘルマンに引っ付いて男どもを追い払おうとしたら、ベルフィがセクハラも激しく纏わりついてくる!



「鎧姿も素敵ですけど、この衣装はお肌が映えて素敵ですねっ♡!」


「き、際どいコト言わないでぇッ!? そ、そこはダメェッ!」


「お姉さまが悪いのです!」



抱きついてくるベルフィを放置して、ヘルマンたちに作戦を話してみた。

ボクとスレイが色々目立つ行動をして、山賊を誘き寄せるって話だ。

この話をヘルマンと共に聞いていた村の男たちは不安そうだ。

スレイが「ふん。山賊とやらが現れたら我が馬蹄(?)で踏み躙ってくれん」とか言ってるけど、男たちにはボクたちが山賊に連れ去られるのではないかと心配してくれる。好色そうな視線も混じってるけど。

ヘルマンは…冷静っていうか無表情っぽい。



「…要は、お前たちを囮にして、俺たちが山賊たちを討つという事か?」


「はい。今のままだといつ山賊が襲ってくるか分かりませんし。ッあうんッ♡」


「……」



ヘルマンは何か言いたそうだ。

するとボクを置いて出かけるみたいだ。

愛馬であるグルファクシの手綱をひいている。



「んんンッッ♡… へ、ヘルマン義兄様(にいさま)…っ、ど、とちらへぇッ!?」


「ああ。作業がひと段落したからな。村の周辺を駆けてこようと思う。仮に山賊を見掛けたらアジトを聞き出そう」


「わあっはっはっは! 義兄者、俺も付き合おう!」



ヘルマンに続いてグスタフも!?



「ま、まって! わ、私もっ、お連れして…ェイィッ♡♡」



手を伸ばしても届かず、そのまま二人は馬上の人になって去っていっちゃったんだ。

そして残されたボクは村人(男)に奇異の目で見られている。

い、いくらセフレ(ジエラじゃない)っていっても、ベルフィとイチャイチャしていたらまた変な噂が…っ。

ぼ、ボクはヘルマンと噂になりたい…じゃなくてェッ!



「べ、ベルフィ、ここじゃあ、ダメェ…。皆に見られちゃ…うぅ」

「…お、お姉さまぁ…♡」(ぶばっ)←鼻血



ヘルマンたちが出発した後、ボクとスレイとベルフィは人目を避けるためにジエラの時に借りていた小屋に移動する。

小屋の中にはアースガルズ製の簡易天幕(ツェルト)が張ってあるから、小屋の隙間からツェルトの中で行われている事に気づかれない。

そして…例によって…なし崩しに二人から散々責められる事になる。

どうせサギニも参加してきて、きっと一対三で鍛錬(?)されちゃうんだ。

『鍛錬』…つまり男気を逆境に置く鍛錬っていうか、女に産まれてきた悦びを思い知らされちゃうっていうか…。


と、とにかく鍛錬なんだ!



◇◇◇



村のはずれ。

ヘルマンとグスタフは揃って馬を駆っている。

ヘルマンの愛馬(グルファクシ)はスレイプニルと同様の神馬だ。スレイプニルと比較して能力的に劣るが、それでも人間界の馬とは隔絶した存在である。


グスタフの愛馬は水妖馬(ケルピー)だ。

無論、神馬とはかけ離れた存在であるため、能力的には神馬(グルファクシ)に劣る。それでもグルファクシが力加減しているのか、二騎は自然に並走している。



「わあっはっはっは! 浮かぬ顔だな義兄者(あにじゃ)!」


「……」



その通り。

ヘルマンは義妹(セフレ)とスレイを囮にして悪漢共を釣り出す作戦が気に入らなかった。

かつて手合わせした経験から、セフレたちの腕前は把握している。

山賊に囲まれても…少なくとも危機に陥る事はないだろう。仮に逃げに徹すれば山賊たちから逃げ仰る事も容易なはずだ。

セフレに危険な事はないと思っても…、先ずは男が戦うべきだと思うのだ。


理由はそれだけではない。

先日の手合わせは、ほぼ互角だった。

そのためヘルマンは表には出さないが、セフレに対してライバル意識があるのだ。

セフレに先んじて山賊と戦う事で、対抗意識を解消しようと考えている。


なお、ヘルマンはセフレを女とは思っていない。

義妹として大切な存在とも思っていないかも知れない。

一番しっくりする表現は、ヘルマンにとってセフレは沓を並べる戦友なのだ。

無論、戦友とは言っても、セフレの後塵を拝する気は毛頭ないだけだ。




「…俺はセフレを囮に使う事に納得できない」


「わあっはっはっは! 俺も同感だ! 連中が来ないならこっちから出向くしかないだろうな! だが闇雲に走ってもどうにもならんぞ!」


「闇雲ではない。俺は村の連中からこの辺りの村々の方角と街道について聞き出している。襲われた村と山賊が出没しやすい場所から目星を付ける」


「さすがだな義兄者! ではさっさと山賊を片付けてセフレとスレイ嬢を驚かせてやろうとするか! わあっはっはっは!」



ジエラは村の防衛に腐心していたようだが、ヘルマンは最初から山賊を襲撃する事を考えていたようだ。

セフレが自らを囮にすると言い出した時に襲撃案を提案しなかったのは、情報収集が不十分だったためか。それとも無意識に「セフレを出し抜こう」と考えたためだろうか。


しかし現状の情報のみでは当てずっぽうに近い。

そんな、ぶらり、という表現がしっくりくる遠乗り…「確か、この方向に別の村があるのだったな」程度の情報のみで、いきなり山賊に遭遇する可能性は低いだろう。


しかし。



「む! 義兄者! 何やら人が争っている気配がするぞ!」


「ッ! このまま駆ける! 征くぞ!」


「我ら義兄弟の初陣といくか! わあっはっはっは!」



二人には武運があるようだった。



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