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南の寒村

カトリーヌさんの一件があった後は特に事件とかもなく、旅は順調に進んでいる。


ボク、そしてベルフィ、ヘルマン、グスタフは南の方へ向かっている。

南に向かった理由は…これから冬に向けて寒くなるんで、まぁ、南の方があったかいかなーという程度。


南では亜人さんや獣人さんが部族ごとに集落やら国を形成しているらしいから、あわよくば交流というのはアリかもだけど、ボクとしては(エインヘルヤル)が目的だから積極的に関わるつもりはないんだ。

何故って…アースガルズにいた時に、獣人さんや亜人さんの魂を見かけた事がないから。

獣人さんって、どの程度が獣なんだろ?

二足歩行する動物みたいなのかな?

それとも動物っぽい要素だけ残して、ほとんど人間なのかな?

よく分かんないから、実際に会ってみない事にはね。


それに亜人さんってエルフさんとかドワーフさんでしょ? 

エルフの上位種であるアールヴがアールヴヘイムに、ドワーフの上位種のドヴェルクがニザヴェッリルにいるんだもん。ボクがアースガルズに連れていくのはどうかと思うんだ。


もちろん困っているなら助けてあげようかな、とは思う。

そういうわけで関係はその程度にとどめて、そのまま南方を経由して帝国とやらに入国するんだ。


ちなみにサギニ、ヴェクス、ヘキセンさんのニンジャ組はボクたちとは別行動をしている。

周辺を哨戒中っていうか、そんな感じでボクたちに迫る何らかの事件を前もって調べてくれているんだ。


ちなみにボクたち何処かの街に腰を据えたら、ヴェクスとヘキセンさんは近くの娼館に在籍するっぽい。

確かに情報収集は酒場か女性が多くいるお店だよね。


そうそう。

魔術師であるヘキセンさんはボクらと別行動が多くなるんで、その前にグスタフのために馬を召喚してくれた。

馬といっても魔物だか妖精で、水妖馬(ケルピー)というらしい。

水陸両用で力もすごくあるんで、グスタフみたいな巨体が乗っても大丈夫みたい。


それともうひとつ。

ボクの愛馬であるスレイプニルと、ヘルマンの愛馬…グルファクシっていう名前らしい…は、顔見知りらしいんだ。

スレイプニルは「あのジジィ(・・・)、ヘルマンに目を付けたか…」とか言っていた。

しかもスレイプニルの説明によると、そのジジィさんは最悪の神さまで豪傑の(エインヘルヤル)のコレクターなんだって。

そのためにあの手この手でヘルマンを戦死させようと目論んでくる恐れがあるらしい。


でもヘルマンを狙うとはいっても、その神さまが直接やってくる事はないみたい。

あくまでもこの人間界(ミズガルズ)で戦争を起こして、その結果ヘルマンが戦死するよう仕組むみたいだ。

でも…それってボクにとって都合がいいんじゃあ?

ヘルマンの存在が戦争を引き起こすきっかけになるなら、ボクがしっかりすればいい事だ。

もし、ボクが知らないところでヘルマンが戦死しちゃうと、ヘルマンの魂はその神様の息のかかった別の戦乙女に連れていかれちゃうかも知れないけれど、ボクがずっと一緒にいれば大丈夫っ。

むざむざヘルマンを別の女なんかに渡すつもりなんかないしね。

それにボクにとっては戦いの機会が増えて軍関係者の間で噂になる。

仕官待ったなし!

やったね!





ボクはベルフィと一緒にスレイプニルに騎乗。

ヘルマンはグルファクシに騎乗。

グスタフはケルピーに騎乗。


グスタフは最初のうちは馬に乗り慣れていなかったからギクシャクしてたけど、あっという間に乗りこなして今では危なっかしいところなんてない。



午前中のうちは大きく移動する。

お昼のご飯どきになると大休憩。

森の恵みを調達して、それをボクがお料理。

グスタフが大喰らいで、はっきり言って10人前くらい食べる。季節が秋で良かったよ。


午後はヘルマンとグスタフの修行に付き合う。


夕方になるとサギニが帰ってきて、彼女から一日の報告を受ける。

そしてベルフィが一瞬で露天風呂を設営。精霊さんって凄い。

男湯と女湯で別れて、一日の疲れを癒す。

ボクたちのいる女湯はいつも通りにベルフィがセクハラするんで色々と煩い。

でも男湯からはグスタフの高笑いが聞こえてくるから、ボクの…その…セクハラに耐える声がヘルマンに聞こえないっぽくて助かってる。


そのまま野営。

皆んなで夕食を食べてから簡易天幕(ツェルト)を張って、ボク、ベルフィ、サギニ、スレイの四人で寝る。


ヘルマンとグスタフは露天のまま地面に厚手に布を敷いて寝るだけ。

でも野営地一帯はベルフィによる精霊の護りがあるから、雨とか寒さ、それに野生動物の被害からは無縁でいられる。


翌朝は夕食の余りを食べてすぐ出発。


こんな感じでアリアンサ連邦の南の国境まではあっという間だった。





国境は…いや、何と言うか、国境というよりは寂れた地方。

寂れた寒村が見える。

そしてそれなりに離れたところに大きな森がある。



「…あの森から…亜人さんや獣人さんの領域って事かな?」


「ハッ。元・冒険者のヴェクストリアスの話ですと、これから先はしばらく獣人たちが種族毎に纏まって住んでいるようです。またそれとは別に各種族がまとまって暮らす大集落…国があるとのこと」



そっかー。

一気にここまで来ちゃったから、取り敢えずこの村に一時的に腰を据えてみようかな。

村人さんなら森で狩とか薪拾いとかしてるだろうから、獣人さんとの交流や情報はあるだろうしね。





「…ようこそおいでいただきました。…歓迎いたします」



老年の村長さんは、全然歓迎していなさそうな顔で出迎えてくれた。



「ボクは旅の騎士・ジエラ。こちらは…

「お姉さまの妻のベルフィです」


「…。あ、それとボクの弟子のヘルマンとグスタフ」


「………」



ボクの紹介に無言で頭を下げる二人。

それから「このまま南に行く予定だけど、その前にこの村で色々話を聞きたい」と伝えてみる。



すると村長さんがゆっくりと口を開いた。

ボクたちが招かざる客、というよりは、色々あって疲れちゃったっていう雰囲気だ。



「‥せっかく立ち寄って頂いて申し訳ないのですが、ご覧の通り貧しい村です。何のおもてなしも出来ませんが、それで良ければ…」


「ありがとうございます」


「……それと…」



村長さんが口を噤む。

そしてボクとベルフィを眺める。

そしてトンデモナイことを言ってきた。



「…実は、この村は時折山賊が襲って来ましてな…。食料やら若い女を攫うのです。ジエラ様、ベルフィ様も危ういかと」


「えッ?」


「悪い事は申しません。この村を早いところお出になられるのが宜しいでしょう。そしてご迷惑でなければ、ご領主様に我らの窮状をお伝えして欲しいのです。ワシらよりも騎士さまからの方が、ご領主様にも届くと思いますので…」



何でも凄く強い山賊がいるみたいだ。

巨漢で、もの凄く凶悪な貌をしているらしい。

今まで領主さんが幾度となく討伐のために兵を送り込んだけど、その巨漢のせいで悉く全滅。

その結果、領主さんはこの辺りの治安回復を諦めているっぽい。



「あの…その…若い女性を攫うっていうのは…」


「…口惜しい限りです。山賊はうら若い娘を…弄び…攫い…売り飛ばし…。私の孫娘も…ううッ」



村長さんは山賊の…おそらく首領だと思われる男の手配書を見せてくれた。

手配書には顔が描かれていない。ただ、「ビクトル」という名前だけ。

なんでもその山賊は昔は小悪党程度だったけど、ビクトルという男が首領になって以来、勢力と凶悪さが増しているんだって。


許せないな…。

これは見過ごすわけにはいかないよ。

するとヘルマンたちも強く山賊討伐を訴える。



「ジエラ様! そのような人倫にもとる輩など討ち取るべきです!」


「うむ! 義兄者(あにじゃ)の言う通り! このまま見て見ぬ振りは出来ん!」



もちろんボクも同意見だ。

山賊がやってくるまでしばらくこの村に逗留させてもらおう。

村の復興をお手伝いして、再び略奪しにくる山賊を待ち構える。

そんでもってそのまま全員地獄(ヘルヘイム)送りだ!



「村長さん。ボクたちにお任せください。皆さんを脅かす山賊なんて全滅させてみせます」


「し、しかし、もし失敗したら貴女にも危険が…」


「大丈夫です。山賊なんかに負ける事はありません。それと…差し当たってコレを」



ボクはこっそりと『黄金の指輪(アンドヴァラナウト)』で砂金を創造する。

それをスレイプニルに備え付けた荷物から取り出すふりをして、袋に入れて村長に渡した。



「こ、これは…砂金!? こんなにたくさん!? あ、あの…この砂金に見合うもてなしは出来ないのですが…」


「それはボクたちの滞在費ではありません。これで売られた女性たちを買い戻してください」


「おお…!」



村長さんは涙を流して喜んでいる。

ヘルマンとグスタフも「さすがジエラ様だ」と満足そうだ。

ベルフィは暇そうで、ボクの腕に絡みついたり、グスタフによじ登ったりしている。

彼女はあまりこういう話に興味ないんだよね。

でもこれから忙しくさせてあげるよ♡





それからボクたちは村の人に紹介された。

村人たちの多くはお年寄り。そして若いのは男性がほとんどで、女性は若いのはおらずお年寄りばかり。子供たちは少ないし、皆元気がない。


差し当たっての問題は村の安全と食料問題。

これから冬になるんで備蓄食料が不可欠らしい。

いつもなら問題ないんだけど、今は山賊が奪ってしまうんだという。


そして話をしてる間、若い男性はボクやベルフィの事を…その…へんな目でジロジロ見ている。

ボクの格好は『死にやすく、漢気を鍛える鎧』の上に旅装である黒い外套…『鷲の羽衣』を纏っているけど、素顔のままなんだ。

ベルフィはいつもの格好。


男性たちがヒソヒソと話をしている。



「ご領主様の縁者か?」

「違うだろう。ご領主様の縁者の人間にエルフがお仕えしているなど聞いた事がない」

「それにしても…今まで見たこともないほどお美しい騎士様だ。俺たちと同じ人間なのか? 戦う姿など想像できないぞ」

「きっと騎士様にお仕えしている戦士様が頼りになるだろう。お強そうだ」

「エルフを見ろ。…何故あんなに足を晒しているんだ? 連中は慎み深い性格をしているはずなのに?」



………。

べ、別に良いけどね。

戦いが始まったらボクの力を認めざるを得ないだろうし。




それから用意された小屋にて作戦を練る。

戻ってきたサギニに、ヴェクスとヘキセンさんたちニンジャ組は先行して亜人さんたちの国に潜入するよう命じておく。



差し当たっての作戦はこうだ。


ベルフィには村周辺の土壌を豊かにしてもらう。そして山賊や害獣対策て堀と塀を作成。


ヘルマンとグスタフは村人さんと協力して森で資材調達。田畑の整備。塀とかも作ってもらう。


サギニは森の深いところを散策。ボクたちに害意があるそうな亜人さんや獣人さんが近づいて来そうなら、穏便に対処してもらう。


そんな事をしていれば、そのうち山賊がやってくるだろう。

そしたら皆殺しだ。


よし!

いい感じじゃないか!



今にして思えば、ボクがこの人間界(ミズガルズ)に来て、活躍と言ったらヘルマンと主従関係を結んだセダ村との一件…オーク退治だけ。

でもオーク退治は…ヘルマンとグスタフが活躍したって報告されたらしく、ボクの活躍には触れられていないっぽい。

あの時は領主軍が出張ったから仕方ないけどね。


でも今回は違う。

領主はお手上げ状態。

しかも山賊を滅ぼす事に加えて、寒村を復興させる。

それは最初から最後までボクの独壇場。

まさに英雄に相応しいイベントで、今後の武勇伝になるよね!


ついに本格的なジエラ伝説が始まっちゃうって事だよね!



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