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とある勇者と魔術師


そんな妄想している間に、さらにヘキセンさんは杖にも魔術を付与したようだ。

何でもカテリーナさんが使える魔術は下級の基礎的なモノばかりなんで、それを強化する効果らしい。


まぁ、ヘキセンさんとしては弟子が心配なんだろうな。

でもボクも弟子(ヘルマン)の貞操が心配なんだ。

だからカトリーヌさん会わせるわけにはいかない。


そんなボクの気持ちも知らないで、カトリーヌさんはボクを尊敬の目で見つめている。



「ありがとうございます。ジエラ…様。お陰で人並みの恰好となる事ができました。これで一安心です」



人並み…、安心…。

そ、そうかなぁ。

あんなの着て街に行ったらそれなりに問題になると思うけど。

まあ、本人が満足しているならいいけどね。



「え。ボク、カトリーヌさんに〝様″なんて言われる資格ないですよ」


「いいえ。ヘキセン様の主人様なら、私にとっては支配者も同然、いやそれ以上の偉大なる御方でございます」



……。


カトリーヌさんってばなかなか礼儀正しいみたいだ。

これならボクが「ヘルマンはダメ」って言えば、ちゃんとその辺を弁えてくれるかな。


でもカトリーヌさんを見直そうとした矢先、彼女は内股でモジモジし始めた。

頰は上気して、目も潤んでいる。

どうやら発情しちゃっているみたい!?



「ど、どうしたのっ!?」


「…はぁはぁ♡ あ、安心したせいなのか……急に男が欲しくなって…身体が疼いてしまって…。まだこの世界に来て…男の精を頂いていないんです。あはぁん♡」



な、なにそれ!

発作的に男を欲しがるなんて!

やっぱりヘルマンに会わせるのなんてナシ!

そしてカトリーヌさんは杖をついて、「男…。男ぉ♡」と言いながらガクガクと腰を揺らし始めちゃったんだ。



だけどこの辺に男なんて…。



すると、カトリーヌさんが突然「近くに男がいるわ!」と叫ぶと、そのまま森の中に駆けて行ってしまった。



「あ、待って!」



ボクたちも慌てて後を追う。





そしてちょっと走ったところ。


山賊らしい死骸の山を前に、村人らしい男性が「僕は勇者だぁッ!」とか叫んでいた。

見るからにひ弱そう。

頭は大丈夫かな。


そしたらカトリーヌさんがいきなりその男性に縋り付いて、無理やりコトに及んでしまったみたいだ。



「ちょっと咥えてみてもいいかしら? 」「こ、こんなところで!?」

「三回転して四つん這いになってもいいかしら?」「こ、こんなところで!?」



茂みの奥からそんな声が聞こえる。

しばらく放っておこう。

むしろこのまま別れたいくらい。



するとサギニとヘキセン、そしてヴェクスが色々相談しているみたいだ。



「サギニ様。カトリーヌのニンジャとしての腕前は如何でしょう?ご覧の通り、男相手なら無双の強さだと思いますが…」


「むむ。そうですね…。男を殺害するのに特化したニンジャですか…。男から情報を得た上で殺す…。ヴェクストリアス、貴女と任務が被りますが、彼女をどう思いますか?」


「…申し訳ありませんが…。私はすぐ発情するような方とは…。しかしニンジャとしての実力は疑いようがないでしょう。私と別行動なら…」



ボクもヴェクスと同意見だ。

彼女たちニンジャは常にボクたちと同行していないとはいえ、何かのきっかけに会合する事もある。そんな時にヘルマンが襲われたら…。



「ボクとしては…彼女がニンジャになるっていうなら、君たちが一箇所に固まるよりは分散した方がいいな」



そう言うと、ヘキセンさんが「ならばあの村人に押し付けましょう」と提案した。



「あの男は山賊を退治し、自らを勇者だと嘯いておりました。ならば、勇者お付きの魔術師として共にいるがよろしいでしょう。かの娘とは魔術的に連絡を取り合う事もできます。自称・勇者に何か動きがあれば直ちに分かりますゆえ」



なるほど。

この人間界(ミズガルズ)で勇者ってのがよく分かんないけど、勇者を名乗るならそれ相応に何かしらが起こるに違いない。

それが何にせよボクたちが活躍するきっかけになれば…。



「よし、それで行こう! ボクたちは南に行くから、勇者君に南には行かないようカトリーヌさんに言っておいて」


「「「ははッ」」」



サギニたちニンジャ三人がボクの決定を受け入れる。

彼女たちはボクたちの周辺で哨戒活動や情報収集してくれる予定だ。四人目のニンジャであるカトリーヌさんは別行動が良いよね!


じゃあ彼を勇者っぽく仕立てるか…。



さっきチラっと見えた限り、彼の軟弱な手足や物腰は武術をやっているようには見えない。

でも、辺りに散らばる山賊さんの死体を見る限り、特殊な剣術でも使えるのかな?





しばらくした後。

ようやく発作(?)が治ったのか、しおらしくモジモジしているカトリーヌさん。



「…これは素晴らしいドレスですわ。全身を防護しているのに、…この通り何の支障もありませんでした♡」



カトリーヌさんがお尻を突き出すと、全身網タイツのとある部分に穴が空いている仕様だった。

そんな事報告しなくていいよ!


対してゲッソリしている村人さん。

彼はピエールを名乗った。

そしてあろうことか、ボクの事を見て「女神様がご降臨なさったのですか?」とか言っておもいっきり畏まっているようだ。



ヘキセンさんがカトリーヌさんに言う。



「師として命じる。この勇者・ピエールに誠心誠意お仕えして彼の助けること。あと、大勢でウロウロしてたら煩いからね、アタシの目が届かないところで活動しな。でも何か心配事があったら連絡するんだよ」



そしてヘキセンさんはボクに対して恭しく頭を下げた。

何か言えという事らしい。


え。

急に言われても困るなあ。


この村人…ピエールさんは、いかにも村人さんだから勇者に見えないよ。

そう言えば、そもそも勇者ってナニ?

勝手に名乗ってるだけ?

それともナニかのキッカケで目覚めたとか?


だけどピエールさんも大変だなぁ。

唐突に発作が起きちゃうカトリーヌさんと一緒にいたら、気が休まらないでしょうに…。



ま、それはともかく、ピエールさんはボクの仲間になるわけでもない。

それに突然話を振られても気の利いたことは何も言えないし…。

でもカトリーヌさんの面倒を見てもらうのに、「頑張ってね」だけってのも何だかなぁ。


じゃあ鎧をあげちゃおうかな。

グスタフの前例もあるし、ボクの『黄金の腕輪ドラウプニル』は、肉体が映えない場合はマトモな鎧を出せる可能性が極めて高いんだ。

いや、待て待て。

そんなにホイホイ鎧をあげちゃうなんて、ボクはそんなに軽い戦乙女ヴァルキュリーじゃないよ。

第一、ドラウプニル製の鎧はヘルマンにもあげた事ないんだし。

でもヘルマンにはボクの想いがこもった手作り鎧を装備してもらってるから比較にならないか。

そ、それはともかくっ。



このピエールさんは自称とはいえ勇者らしい。


そういえば勇者にしては見窄らしい剣だったな。

じゃあ剣にしようかな。

ボクが創る剣は『壊れない』ってだけの剣だし、まあ贈り物としては妥当だろう。

一応、万が一、悪人の手に渡る時の事を考えて使いづらい剣を渡すとするか。

装飾ゴテゴテの、マンガとかに出てくる「うわ。こんなに飾りが多かったら剣の重心もめちゃくちゃだ。こんなの使うやつはバカだろ」みたいなやつを。

無理して使うよりも、鋳潰して再利用した方が良さげっぽいやつを。



ふふふ。

これでケチな女って思われなくて済むよね。

しかも防犯(?)も兼ねている。

とっさに考えたにしてはボクって頭いいな!




「じゃあボクから勇者さんに剣をあげるよ。気負わず頑張ってね」



◇◇◇



ジエラたちが去った後。

残されたのはピエールとカトリーヌ。

そしてピエールの手にはよく分からない装飾がされた凄まじい宝剣が握られていた。



「ああ。まさか女神様が降臨なさるなんて…」


「素晴らしいです勇者様。メガミサマから期待されておられるのですね」


「…あ、あ、…」



ピエールはカトリーヌが恥ずかしかったのか、彼女の顔をまともに見られない。

彼は恥ずかしさを誤魔化すように思い切り宝剣を振り抜く!


剣は神具『黄金のチョーカー』によって創られた『不壊』の特性を持つ剣。

そして更に、ピエール自身に女神フーリンより与えた加護『ピエールの持つ剣の殺傷力増加』が相乗効果されている。


その剣を振り抜いた結果は凄まじいものだった。



ズギャンッッ!

ドゴォッ、ドガォッ、ガギンッ

メキメキメキッ…ズズゥゥン


なんと、剣の間合いに在ったモノは、木や岩、全て両断されてしまった!

それでいて当然ながら、宝剣には刃毀れはおろか傷一つない!

なお、ジエラが剣の重心をメチャクチャに設定したが、ピエール自身に剣の心得が皆無なので、特に問題とならないようだ。



「は、ははっ。凄い…。これは勇者の剣。そうだ! 僕専用の、女神様がお与えくださった勇者の剣だ! 女神様は僕に勇者に相応しい力と、そして宝剣を与えて下さったんだ!」



そんなピエールに、カトリーヌはしな垂れかかる。



「くすっ。勇者様ったら私の事を放っておいて、子供みたいなはしゃぎようですね」


「うッ。あ、あの…その…」



ピエールは現実に引き戻された。

今更ながらに美女カトリーヌとの行為を思い出し、顔を赤らめる。

彼女は彼が生まれてこのかた見たこともないような美女だ。

女神ジエラは美しすぎて現実味がわかず、何より宝剣を授かった時などは緊張して何が何だかわからなかった。

しかしカトリーヌとは肌を合わせた間柄である。



「改めてご挨拶を。私の名前はカトリーヌ。偉大なる魔女の弟子でございます。師の命により勇者様に尽くさせていただきます♡」



カトリーヌは「うふふ♡」と妖艶に笑う。



「あと…私のカラダは勇者様のお好きに使用して頂いて結構ですから♡ 必要とあらばいつでもおっしゃって下さいね♡ それこそ毎晩…いえ毎朝毎昼毎晩、時と場所を選ばずご奉仕させていただきますわ♡」


「ッ! ほ、奉仕…。さっきみたいなの…?」


「うふふ。お望みとあれば、もっと…凄いコトを♡」



勇者の旅立ちに、魔女の弟子が馳せ参じてくれたのも女神の采配なのだろうか。


それにしてもカトリーヌという魔術師は随分積極的なようだ。

出会って即座に夫婦の営みに突入するとは、きっと勇者であるピエールに余程期待しているのだろう。

ピエールは村に片想いの女性がいるが、勇者となったからには村娘ではなく目の前の美貌の魔術師を選ぶべきだろう。

ドギマギしながら頭をかいた。



「う、うん…、その時は…よろしく…」


「はい! 勇者様っ♡」



勇者ピエールは、これから自分を待ち受ける運命に武者震いする思いだ。

しかし、美しき魔術師カトリーヌと共にあれば、きっといかなる困難も打ち破れるに違いない、いや、きっと打ち破ってみせる! そう心に誓うのであった。



その後。

ピエールがカトリーヌを村に連れ帰った事で、彼女の淫らな衣装と美貌に村中大騒ぎになったのは当然の話。


村の男たちが下品な目でカトリーヌをジロジロ見るが、当のカテリーナはどこ吹く風。視線など全く気にしないようだ。

そして村の女性たちは、自分よりも顔も身体も遥かに素晴らしいカトリーヌに嫉妬剥き出しで、ピエールに「こんなハレンチな娘を連れ歩くなんて最低!」と八つ当たりする始末。


そしてその夜、カトリーヌの淫気に当てられた村の男が彼女を夜這いに訪れたのだが、それを察したピエールと、男たちの妻の間で騒乱となってしまった。



翌日。

カトリーヌは災いをもたらす女として、ピエールと共にカトリーヌは半ば追い出されるように村を後にするのだった。





後世。

勇者伝説に曰く。



世の平穏は終わりを告げ、盗賊が跋扈する時代。


そんなある日。


善良な村人であったピエール・ブルフィルムの前に、美しき女神が降臨した。

女神はピエールに『悪を許さぬ勇敢な心』『勇者に相応しい剣』を授けた。


女神は言った。

「遠くない将来、この世界を未曾有の混乱が覆い尽くすでしょう。ピエール、あなたは選ばれし勇者。勇者として為すべきことを果たしなさい」



そしてピエールは美しい魔術師・カトリーヌと出会う。

彼女は天啓によりピエールに出会ったのだ。

二人は運命に導かれるままに伴侶となった。


ピエールとカトリーヌ。

彼らの門出は村中で祝福され、そして同時に皆の期待を一身に背負って故郷を出立したのである。

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