とある魔術師
ッ!!?
ハダカのお姉さんが!
ヘキセンとヴェクスと一緒に、すっごいエッチな身体つきをしたお姉さんがやって来た。
アレがサキュバスさんか…。
絶対にヘルマンは渡さないぞっ!
気合いを入れていると、ヘキセンさんとヴェクスがボクとサギニの前で跪く。
「ジエラ様、サギニ様…。この者がこの世界に迷い込んだサキュバスの王…淫魔王のカトリーヌでございます。ご覧の通り、男を惑わす事に慣れておりますれば、御身のお役に立てるかと存じます」
「カトリーヌと申します。しがない淫魔でございますが、お命じ頂けるのであれば視界全ての男を一斉に腎虚させる事も可能でございます。どうか私めをお使い下さい」
「……」
見ただけで…その…。
と、とにかく、見れば見るほどエッチなお姉さんだ。
身体は負けてない…、い、いや、ボクの身体がエッチってワケじゃないけど、とにかく表情や仕草が凄いんだ。
しかもオシャレのつもりなのか、お腹に銀色のイレズミみたいなのがある。
例えるならエッチな撮影で『痴女物』『淫乱物』で引っ張りだこにされちゃうイメージしか湧いてこない。
ううん、清純派のボクとは相容れないな。
だからといって邪険にする事はできないんで、ボクも自己紹介する。
「ボクはジエラ・クッコロ・フォールクヴァングです」
「サギニ・クッコロです」
サギニも名乗ると、カトリーヌさんにニンジャとしての心構えを説いている。
既に配下にする気満々みたいだ。
でもボクとしては彼女とは距離を取りたい。
彼女に恨みはないけどヘルマンに悪い影響があると思うんだ。
それはともかく、彼女に服を与えないと。
「カトリーヌさんは気にしないかも知れませんが、この世界に来たからには裸は良くないですよ。良かったらボクが服を用意してみてもいいですか?」
「有難い事です…!」
カトリーヌさんの代わりにヘキセンさんが感謝してくれた。
そして、サキュバスさんだから人間とは常識が違えば雰囲気も違うからって魔術師っぽい格好と、魔術師っぽい杖も創る事になったんだ。
魔術師なら変わり者でも「魔術師だから仕方ない」ってなるんだって。
そしてサギニが「彼女にもニンジャ服を」ってリクエストしてきた。
彼女の言うニンジャ服って…要するに全身鎖帷子でしょ?
『黄金の腕輪』に任せたらどんな衣装になっちゃうんだろ?
そんな裏事情を知らないカトリーヌさんは「創る?」と、首を傾げている。
艶やかな黒髪を指で掬いつつ、白い指を口元にあてがう仕草もエッチっぽい。
うーん。
サキュバスさんで魔術師か。
サキュバスさんだけあって、カトリーヌさんはすっごいカラダしている。
って事は『黄金の腕輪』が通常運転しちゃう恐れがある。
つまり…エッチな魔術師服&網タイツにしちゃうかも知れない。
……。
ま、いいか。
別行動をお願いするつもりだし、それにエッチな服になっても「サキュバスだから」で誤魔化せる。ボクのせいじゃない。
「『守護』! カトリーヌさんに相応しい、ニンジャっぽくて魔術師っぽい服を!」
ボクの声と共にカトリーヌさんが光に包まれる。
そして。
カトリーヌさんは黒いローブに身を包んでいた。
正面から見ると、彼女さんのメリハリの効いたワガママボディがくっきりはっきりと分かる、ピッチリした肩出しボディコンスタイルな黒いローブ。
あれ? 意外に普通?
…まぁ、これくらいなら…。
「こ、これは!」
そう言いつつ、くるりと回って腰を突き出すカトリーヌさん。
「ぶっ!?」
そのローブは背中が全開で、腰から下は…彼女のお尻の形がハッキリ分かるようなタイトなドレスだ。
でも問題なのは背中の腰から裾にかけてスリットが入っていること。
普通に立っているだけなら…辛うじて問題ないけど、少しでも大股に歩いたり座ったりしたらお尻が丸出しに…!
確かにあんなタイトなドレスじゃスリットがないと動きづらいと思うけど、ナニもこんな風にしなくても…。
でもスレイのチャイナドレスも体の外側に豪快にスリットが入っているせいで、前は股間近くまで、後ろはお尻の肉が片方見えちゃってるから…似たようなものかも知れない。
そして身体の側面は剥き出しなせいで、横乳が見えまくっている。
当たり前のようにノーブラじゃないか。
よく見えなかったけど、ショーツは穿いているのか疑わしい。
あと、ローブの下は例によって全身網タイツみたいだ。
…多分…やっぱり全裸に網タイツなんだろうな。
「いや、そのあの……」
ともあれこんなローブを作っちゃった!
ボクのせいじゃない。
カトリーヌさんがサキュバスだから!
ヘキセンさんは「淫魔らしい魔術師のローブです」と満足気だ。
そしてカトリーヌさんも「はぁん♡」と悩ましげな吐息を漏らしつつ、「素晴らしいです。気分が昂揚します」と大満足のようだった。
「こんなローブを纏う魔術師は見たこともありません。これは特別なローブなのですか?」
「え、えっと…」
「デザインは腕輪が適当に決めているだけだよ」、だなんて言えない。
カトリーヌさんも満足しているっぽいし、ここは自信を持って断言するんだ。
「うん。これはね、その…あの、なかなか着こなせる人がいないんだ。カトリーヌさんは…うん。君しか似合わなそうだね」
うん。
似合ってる。
カトリーヌさんによって男性は性的に捕食されちゃいそう。
「私の横を通り過ぎた男は、全て美味しく頂いちゃいました♡」って感じだ。
まさに『悪・即・斬』ならぬ『男・即・食』って感じだ。
つまり男喰いの魔術師。
よく分かんないけど。
………。
気を取り直して次は杖だね。
これは腕輪みたいな特別仕様なんて事故はないから気が楽だ。
ボクが武器だと認識した形状ならなんでも創れるんだから。
『黄金のチョーカー』に指を当てて、「『勝利』。…うーん。魔術師の杖ってこんな感じかなぁ」と唱えてみる。
すると、黒光りした禍々しい杖が現れた。
ゲームや漫画に出てくるような、そのデザインに意味があるのか不明なヤツだ。
この杖も多分にもれず、昏い色の宝石っぽい謎な石があちこちに埋め込まれている。
カトリーヌさんは、またしても大喜び。
「太くて、黒くて、長くて、ゴツゴツしてぇ♡」と、杖に頬ずりしている。
「こんなので良いですか? ローブも杖も見てくれだけで、なんの効果もないですけど」
まぁローブは鎧でもあるから、あんなんでも強力な鎧だけどね。
それに杖も『壊れない』杖だから、杖術として戦えばそれなりに強いかもしれないけど、こんなサキュバスさんが杖術なんて想像できない。
するとヘキセンさんが悪巧みを考えついたようだ。
「このローブに何の効果もないというなら…、サキュバスらしく、男との戦いに上位に立てるような仕様にしようかねぇ。ならばアタシが『このローブ姿を見た男は能力値が下がる呪い』を付与しましょう。女慣れしてなければない程、強力に効くヤツを」
え。
女性に不慣れな程、能力値が下がる!?
へ、ヘルマンって…女嫌いだし…。
もしかして…。
あの男性特攻効果なローブを着たカトリーヌさんに迫られたら…。
⬜︎ 妄想 ⬜︎
「うふふ。このローブを前にしては、どんな屈強な戦士といえども無力よ♡」
「ぐぅぅッ!? な、何故だ!? 身体がいうことを効かん!」
艶然と微笑むカトリーヌ。
そしてヘルマンは彼女に組み伏せられ、ベッドに押し倒されてしまっている!
「あらあら。私のようなか弱い女にいいようにされてしまうだなんて情けないわ。だけど安心して。貴方が私の身体を貪ってくれれば、この呪いは解けるから。
「な、なんだと?」
「だ、か、ら♡ 私を抱きまくって♡ そうでなければ貴方は弱いままよ」
「ぐぐぐ…!」
ヘルマンは苦悩する。
ヘルマンはジエラに仕える忠義の戦士。
そしてセフレという義妹がいる。
実はヘルマンは義妹であるセフレを女性として大切に想っていたため、他の女性には目もくれなかったのだ。
しかし、ヘルマンは淫猥なる魔女・カトリーヌによって囚われてしまった。
しかも弱体化の呪いをかけられ、それを解くには彼女の身体を貪らねばならないという。
ヘルマンのセフレへの想い。
そして何より、ジエラへの忠義。
ヘルマンは苦悩の末…。
・
・
チュンチュン
朝。
ヘルマンの逞しい胸板に寄り添うようにして、カトリーヌがウットリしている。
「凄く良かったわ♡」
「ぐむ…」
なんと、ヘルマンはカトリーヌの言うがままに、彼女の身体を堪能してしまった!
そこへヘルマンの愛する義妹・セフレが訪れる。
甲斐甲斐しくも、セフレは毎朝ヘルマンを起こしているのだ。
「ヘルマン義兄様。朝…だけ…ど」
ベッドを共にするヘルマンと、見知らぬ美女。
それを見て硬直するセフレ。
「に、義兄様ッ! だ、だ、だだ誰なの、その女!?」
激しく動揺するセフレ。
セフレは義兄であるヘルマンと恋仲であったはずだ。
それなのに、ヘルマンは知らない女と!
「セフレ、誤解しないでくれ!」
やはり動揺するヘルマン。
彼の態度はまるで浮気がバレてしまった男のそれだ。
カトリーヌは二人の関係を悟る。
震えるセフレを好色そうな流し目で見やると、勝ち誇ったように微笑んだ。
「あらぁん♡ 貴方の大切なお兄様は私を激しく抱いてくれたのよ♡ んふ♡ 引き締まった彼のカラダ。とっても素敵だったわぁ♡」
「あ、ああ…」
後ずさるセフレ。
そして「義兄様の裏切り者ーーッ!」と、泣き叫び…
⬜︎ ⬜︎ ⬜︎
ダメダメ!
この妄想はナシ!
絶対にカトリーヌさんはヘルマンに会わせないぞ!
ヘルマンの女性関係は、義妹であるセフレが管理するんだ!
あ、そうだっ!
セフレがカラダを張ってヘルマンを女に慣れ…
ッッ!?
それダメッ! ダメダメダメッ!
ボクは英雄になるんだってば!
いくらセフレとジエラと別人だって設定とはいえ、そんな事出来ないよ!




