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英雄への第一歩




誰もいない林の奥。



「スレイ。元の姿に戻って!」


「うん? そうか、あ奴らには我が変化術を使える事は秘密であったな」


「ボクもセフレからジエラに戻るから!…『変身(エワズ)』」



ボクは元の姿…ジエラに戻った。

とはいえ肌が白く、髪がプラチナブロンドになって瞳が蒼くなっただけだけど。

そして次に。



「『守護(アルジス)』。死にやすくて漢気を鍛える鎧を!」



久しぶりに愛用の鎧に換装する。

鷹の羽衣を羽織れば出来上がり。鷹の羽衣は裾が短いんで、ボクのお尻がかろうじて隠せるくらいだけど、ボレロっぽくて丁度良いんだ。



「この姿も久しぶりだ! やっぱりボクには踊り子服よりも鎧が似合ってるよね!」



そしてボクは騎乗の人になる。



「よし! 準備万端! みんなの所に戻りますか!」





颯爽とスレイプニルを駆って皆の所に戻る。

そしてヒラリと地面に降り立つ。

久しぶりの再会という立場なんで、出来るだけ凛々しい態度を心掛ける。



「…久しぶりだねヘルマン。そしてグスタ…」

「きゃあぁぁッッ! お姉さまぁぁッッ♡!!」



ボクの挨拶も中途半端にベルフィが抱きついてきたんで、彼女を優しく抱き留める。



「ジエラ様。お会いできない間、自分なりに鍛錬に励んでおりました。お時間がある時にご助言頂ければ幸いです」


「わあっはっはっは! 前回会った時は黒い外套姿だったが、何とも華やかだな!」



そしてヘルマンから改めて近況を聞く。



「先日、この海にて巨大な害獣を退治しました。誰かの助けがあったはずですが、恥ずかしながら不覚を取り…軽くない怪我を負ってしまい記憶が飛んでおりまして…」


「そ、そう。まぁ、今が無事なら良かった。次に同じくらいの敵に遭ったら気をつけてね」


「はッ。そしてこれは私事なのですが…。ここにいるグスタフ、そして…ジエラ様の剣闘士奴隷だというセフレと義兄妹の契りを結びました」


「………セフレと…契る。ああ、何でもないよ。続けて!」


「貴女様の奴隷殿…セフレと勝手に契ってしまいましたが、決して鍛錬を疎かに致しません。互いに切磋琢磨し、貴女様の剣として大成する所存!」


「…う、うん。セフレはああ見えて、非力でか弱いからね。大切にしてあげてね」


「無論です。セフレは大切な義妹です」



ドキッ♡



「そ、そう。それと、セフレから聞いたんだけど、彼女、ヘルマンに助けてもらったって言ってたよ。それで君に感謝してっていうか憧れて義兄妹って言い出したのかもね。だがら兄と慕う君が他の女性に目移りなんかしたら…泣いちゃうかもしれない」


「俺が他の女性に、ですか? それはあり得ません」



ヘルマンは爽やかに笑ってくれた。

はぁ…。

やっぱりヘルマンって…素敵♡


な、なんか…。

ヘルマンとの道ならぬ禁断の恋♡的な展開が…。


いやいや!これも逆境なんだ!

妄想みたいにセフレとしてヘルマンとネンゴロになるワケにはいかない。

ヘルマンがヘンな気を起こさないように、凛々しさで圧倒しないと!

いや待てよ。ヘルマンの女除けの立ち位置として、ヘルマンに甘える妹を演じるべきかな?



気を取り直す事にして、今度はグスタフさんに向き直る。



「グスタフ様、ヘルマンとセフレがお世話になったようです」


「いやいや、()はやめて欲しい。もう俺は貴族ではなくなるのだ! この格好も流れの戦士として生きるためだ!」


「戦士? 普段着にしか見えませんが?」


「面目ない!正直に言うと今までの鎧は貴族としての特注品だった。だが今は俺の体型に似合う防具が無くてな! まいった! わあっはっはっは!」


「そうなんですね。ではグスタフさん。…貴方程の戦士が、そのような姿では格好がつきません。どうかボクに鎧と武器を贈らせて下さい」


「…何? 一体それは…??」



グスタフさんに鎧と武器か。

彼に初めて会った時からもうイメージは決まっているんだ。



「『守護(アルジス)』! グスタフさんには(日本の)僧兵鎧が似合うと思うんだよ…ね。…って、ああっ!?」



しまった!

最近特に何も気にしないで『黄金の腕輪(ドラウプニル)』を使ってエロ下着を作りまくっていたから、つい…!?


もしコレでグスタフさんを雷神(トール)さんみたいにアホなボンテージ鎧にしちゃったら!?

だけどボクが中止を願っても、無情にも彼は光に包まれる。





でも、光が収まり現れたのは…。

ボクのイメージした通り、いやイメージよりもカッコいい鎧に身を包んだグスタフさんだった。


和洋折衷っていうか、作務衣の上に西洋っぽい胴鎧を着込んだっぽいスタイルで、エロ(?)さや露出なんて微塵も感じさせない。


ボクがグスタフさんに対して全くエロ(?)を感じなかったから?

それともグスタフさんがボディビルとは無縁そうな体型をしているから?

グスタフさん自身、カラダのラインっていうか、筋肉が映える鎧を望んでいなかったから?

もしかして、ここ数ヶ月の間、山にようにエロ下着を作りまくったから、腕輪の欲求が満たされているとか?


……。

考えても仕方ない。

黄金の腕輪(ドラウプニル)』は気まぐれって事で納得しよう。

でも今後、男性に使うのはやめといた方が良いかな。


とにかく!

グスタフさんは見窄らしい服から一変して、和洋折衷な僧兵っぽくなった!


そう。

なんとなく、太めでガッチリなグスタフさんはお相撲さんっていうか武蔵◯弁慶っぽかったんだよね!

なら次は…。



「『勝利(テイワズ)。七つ道具を!」



するとグスタフさんの背に背負い箱が出現し、更にそこに武具が顕われた!

その七つとは…戦槌(メイス)鎖鉄球(モーニングスター)巨槌(ハンマー)、シャベル、戦斧(バトルアックス)、大鉈…だった!


あれ?

一個足りない…と思ったら、グスタフさんの手にメリケンサックが装備されている。

どうやら力任せに叩き潰す系な武器で占められたみたいだ。



「……」


「グスタフさん?」



グスタフさんは唖然としている。

ボクが何もない所から武器と防具を出したんで、無理もないかもしれない。

そしたらベルフィが、偉そうにグスタフさんに説明を始めた。



「驚きましたか! お姉さまは女神! それも美と豊穣と武の女神なんです! 武器と防具を創造するもの簡単な事なんです!」


「………」



…ま、またベルフィがおかしな事言ってるよ。

今まで美の女神とか豊穣の女神とか言ってたけど、今度は武の女神も追加されちゃったよ。

ボクは女神様でもなんでもなくて、単なる戦乙女(ヴァルキュリー)ですってば。


するとベルフィの言葉にショックを受けたのか、グスタフさんが神妙な表情で、そしてゆっくりとした動作で…ボクの前に平伏したんだ。



「ジエラ殿…いえ、ジエラ()! 俺は目が覚めました! 貴女は武の化身、 武の女神だったのですな!」


「あの…女神って…そんな…」



でもベルフィが「そうです! 私の女神です! やっぱりグスタフは分かってますね!」と大はしゃぎしている。



「俺は生まれて初めて女性に乞い願います! どうか俺をお連れください! 兄者と共に、武神であるジエラ様のために戦いたいのです! そして俺を武の極みにお導きください…!」


「うえっ!?」



いきなりの懇願にビックリしていると、ヘルマンも続く。



「ジエラ様、俺からもお願いします。グスタフはきっとジエラ様のお役に立ちます。ジエラ様のために命を賭して戦うでしょう!」



そしてベルフィも続く。



「お姉さま。グスタフが仲間になるんですか? それは良い事です!」



ベルフィはグスタフさんがお気に入りなんだ。

ヘルマンの時はあんなに渋ったのに、グスタフさんの事は嬉々として賛成している。


でもさ、元とはいえ貴族様を部下ってなんだか気がひけるなぁ。

それにヘルマンがいるのにグスタフさんも追加って、まるで「ヘルマンだけじゃ物足らない」って言ってるみたいで彼に申し訳ないし…。


でもヘルマンはグスタフさんの加入を願ってるみたいだし。


チラ、とサギニを見ると彼女は黙して語らない。

スレイプニルも黙っている。

特に反対意見もなさそう。


……。


一応、グスタフさんの心構えを確認してみる。



「グスタフさん。ボクたち…つまりヘルマンとボクは、激戦地で生命をかけて戦うって誓い合っているんです。それでもボクたちに付いてくるおつもりですか?」


「無論! 俺はナキア伯国の平穏のために当てのない旅に出る予定でした。武者修行のためとも言えなくもありませんが、本当に強くなれるか不安もあったのです。しかし武神たるジエラ様に出会い、確信したのです。俺の…この頑丈なだけが取り柄の俺が、更なる強さを手に入れる事ができる、と。その強さを戦場で発揮できるなら何処にでも赴きましょうぞ!」


「…強くなって、間違いなく(・・・・・)戦場で死んでしまっても? ボクと共に来ると言う事は、戦場で死ぬという事が確定してるんですよ?」


「それこそ本懐! 強くなれば誰かを救う事ができるでしょう! 死ぬ時は俺のデカい身体が盾となり、誰かを護る事が出来るでしょう!」


「…グスタフさん」


「わあっはっはっは! 強くなるためならば、俺の生命などジエラ様の良いように使って頂いて結構! 何卒、俺の忠義をお受け取り頂きたい!」



うん。

分かった。



「グスタフさん。いや、グスタフ。ボクたちと共に行こう。君が戦場で死ぬ時、君の(エインヘルヤル)はボクが(いざな)ってあげる」


「有難い! …ならば、一つ願いがあるのです! ナキア伯国公子グスタフ・リンドバリは既に死んだ!貴女の忠実な配下として、俺に新たな名を授けて頂きたい!」




そして。


ボクは、グスタフに新たな名前を与える事にする。

お相撲さんで、武蔵坊さんぽいグスタフに相応しい名を。

そして彼に似合った戦闘術を考える。



「ボクたちの新たな仲間…グスタフ・ゴッツァンデス・ベンケー。君には最強の格闘術である『ドスコイ』を授けてあげる」



『ドスコイ』とか言っているけど、名前は今思いついたんだ。もちろんそんな格闘術はない。

だから相撲と打撃系武器との融合戦闘術(笑)である『ドスコイ』を行き当たりばったりで開発するんだ!



「…おお! この俺、グスタフ・ゴッツァンデス・ベンケー! 武神であるジエラ様の忠実なる戦士として、必ずや『ドスコイ』を会得してみせますぞ! ジエラ様の敵は全て打ち砕いてご覧に入れる! わあっはっはっは!」



ヘルマンも負けじと宣言する!



「 俺も『ジゲン』を磨き、ジエラ様の道を遮る者は全て切り裂く覚悟!ジエラ様、 我ら兄弟の働きをご期待下さい!」


「うん! 君たちが偉大なる戦士になるよう導いてあげるよ!…『勝利(テイワズ)』!」



手の中に顕れたのは、黄金の槍…神槍グングニル!

精緻な紋様が刻まれている槍で、黄金のオーラが陽炎のように揺らめいている。

いかにも凄そうだけど…別に槍としての攻撃力は大した事ないみたい。

でもこれは戦争の開始を司る槍で、軍に対して投げれば戦が始まっちゃうらしいんだ。

しかも投げれば手元に戻ってくるという便利機能付きだ!



「な、なんだ、あの槍は…?」


「おお! アレが武神・ジエラ様の愛槍か!?」



ヘルマンとグスタフが驚いている。

ふふふ。

もっと驚いてもらおうかなっ♡



「ボクたちの征く先は、地獄みたいな戦場なんだ! そんな地獄のせいで泣いている…不幸な人たちがいる。そんな戦場で輝く事ができれば…泣いている人たちを照らす光になれるんだ! そのために死ねれば、誰かの心に英雄として遺る事が出来るんだ…!」




ボクは槍を構える。

そして「せっかくだし、戦うんだかどうだか焦れったい軍隊にでも当たりますように」とか何とか考えながら、身体を弓なりに引きしぼる。



「…これは、この槍は、そんな戦場(地獄)への宣戦布告だ!」



そして。



「ううぅぅ…りぇぇえぇいぃッ!!」

バオッッ!



神槍グングニルを誰もいない大空に向かって思いっきり放つと、一瞬遅れて衝撃波みたいなモノが周囲に撒き散らされる!



そして槍は一瞬で見えなくなった。

雲が蒸発して空も一瞬暗くなったから、多分あの辺りを飛んで行ったんだと思う。



「…………」

「…………」

「…………」



皆、声も出ない。


少し間をおいて皆が呟く。



「何という威力だ…。アレが城壁に打ち込まれたら、城壁もろとも全てが破壊されるのではないか」


「わあっはっはっは! さすが武神! もう笑うしかない!」


「はぁはぁ♡ 私とお姉さまを仲を邪魔する敵なんか滅ぼして下さいね♡」


「なんて素晴らしい♡ この想い、我慢できそうにありません。はぁはぁ♡」


(ふはは! さすが我が背を許しただけのことはあるな!)




スレイプニルに騎乗する。

ボクの左右には妖精(アールヴ)であるベルフィとサギニが。

そして目の前には二人の戦士…ヘルマンとグスタフが控えている。



さぁ、出発だ!




◇◇◇




後の世。



ヘルマンとグスタフ。



ヘルマンとグスタフの義兄弟は大陸戦史に遺る大英雄だ。

美しき女主人に従う彼らは、『穿抜(せんばつ)のヘルマン』『殿(しんがり)のグスタフ』として『双璧』と称えられることとなる。


だが謎の末妹の存在を知る者は少ない。

何故なら末妹はの正体は…武勇は…良くワカラナイものであったためである。



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