海辺の誓い
そんなこんなでヘルマンたちと模擬戦することになりました!
ボクの義兄妹加入イベント(?)にスレイも「面白そうだ」と参戦を希望。
スレイはグスタフさんと戦ってみることになった。
ちなみにスレイは義兄妹に興味ないようで、それとは関係なくあくまで運動の一貫みたい。
まずはヘルマンとボク。
ヘルマンは黒い鱗鎧で完全武装。
そして長大剣をジゲン流トンボの型に構えている。
長身のヘルマンも相待って、すごい貫禄っていうか威圧感だ。あの剣の間合いに入ったら、即座に真っ二つにされちゃうだろう。
対してボクはマイクロ三角ビキニな水着姿。
そして三日月刀を構えているんだから周囲からしたら違和感しかないと思うけど、ボクはとしてはヘルマンに負ける気がしなかった。
でもヘルマンは水着姿のボクを見て「殺さない事は前提だが…もし怪我をさせてしまっては…」と気にしている。
するとサギニが「貴方如きが敵うお方ではありません」って発破をかけたんで、ようやくその気になったみたいだ。
ボクは三日月刀を用いた正当な剣術なんか分かんないんで、取り敢えず横半身で片方の刀をヘルマンに向けて、もう片方の刀を自分の身体に隠してみた。
ヘルマンはジリジリと間合いを詰めながら、必殺の一撃の機会を狙っている。
そしてジッとボクを見つめている。
先の先を取るのか、後の先を取るのか、そんなコトを考えているのかも知れない。
「………」
「………」
ああ。
やっぱりヘルマンってば…すっごい…イケメン♡
ボクの事をあんなにも真剣に見つめてる…。まるでボクしか目に入っていないみたいに…♡
⬜︎ 妄想 ⬜︎
「中々の腕前だ。是非、俺と義兄妹になってくれ」
「はい。喜んで♡」
それからボクたちは兄妹としと絆を深め合った。
ボクたちの関係は知れ渡り、ヘルマンにちょっかいかけてくる女性も皆無。
女たちは「あんな凄い妹がいるなんて…」って事で二の足を踏んでいるんだ。
ふふふ。
もっと兄妹の親密ぶりをアピールして、ヘルマンから女を遠ざけなくちゃね♡
そして
「…セフレ」
「だめぇ…。兄様ぁ、ボクたち、兄妹…なのに…」
「血が繋がっていない」
そんな…。
そんなぁ…♡♡
ボク、義妹なのに…、こんなコト許されないのに…
「セフレ…。お前は俺の女だ」
「だ、ダメ…。ヘルマン兄様ぁ…♡」
ボク…。
拒めない…よぉ♡
⬜︎ ⬜︎ ⬜︎
…。
ま、まずいなぁ。
ヘルマンが義兄妹の絆を…男女の絆って勘違いしちゃ…
その時だった!
ヘルマンの剛剣が唸りをあげるのと、ボクが三日月刀で受け流すのが同時!
ギャリィッッ
「ッッ!!?」
あぶなっ!?
妄想に意識が向いている隙を狙われちゃった!
でも身体が勝手に動いたようで、無意識に片方の三日月刀で受け流し、もう片方の刀でヘルマンの脇腹を捉える!
ギャリィン!
ヘルマンの鎧が火花を散らす!
でもヘルマンは僅かに顔を顰めた程度で、一瞬に距離をとってまた再びトンボの構えをとった。
つい思わず手が出た程度の剣撃だったんで、そんなに衝撃でもなかったみたい。
結果的に絶妙な手加減になったみたいだ。
それもそのはず。
ボクが装備した『力の帯』は手加減力(?)が増大するようにしてみたんだ。
これでセフレの時はジエラよりも格下になれるってワケ。
もし本来の力だったらトンデモナイことになってたよ。
それはそれとして…。
あぶないあぶない。
ヘルマンと義兄妹の一線を越えちゃう瞬間を狙われちゃった。
ボクもまだまだ修行が足らないな。
それにしてもボクの意識がヘルマンとの兄妹プレイにイッていたとはいえ、以前よりも技の起こりが分からなかった。
成長したねヘルマン!
きっと宮殿で暮らしていても、女なんかに脇目も触れず稽古していたに違いない。
よし!
今度はボクの番だ!
考えたんだけど、ボクは娼館の護衛として働いていた時、アラビアーンな踊り子服を着ていたって事で、踊り子…つまり剣舞っぽいのが似合ってると思うんだ。
でもアラビアーンな剣舞がよく分かんないんで、京劇っぽい動きも意識しつつ、取り敢えずそれっぽく踊りながら三日月刀を振るってみる。
「おおおおッ!」
「はぁッ!」
ヘルマンの豪剣を紙一重で躱し、そのままクルリと周りながら彼の小手のあたりを打つように踊る。
ヘルマンの剣を受け流し、そのまま彼の肩のあたりを打つように踊る。
力を込めず、滑らかな動きを意識して、ヘルマンに見られているのを意識して、あくまで優雅に。
つまり『剣舞』なんで、当然ヘルマンにも躱されちゃったり、剣先が掠ったりもするけど、良い感じに五分っぽい戦いができた。
やがて。
「…此処までにしよう」
ヘルマンが剣を下ろした。
「見事だ。軽やかな動きで終始翻弄されてしまった」
「ヘルマン様こそお見事でした。一撃でも当たったら絶命は免れません。冷や汗ものでした」
それから感想戦をした。
ヘルマンは何度も必殺の剣が躱されちゃったんで、もっと早く…雲耀の剣をモノにすると意気込んでいる。
それに「貴女の動きは俊敏だが、剣そのものが軽い。俺のような全身鎧相手には歯が立たないだろう」「そんな相手はヘルマン様にお任せします」とか言っちゃったりもした。
ヘルマンは模擬戦を始める前と比べてボクをみる目が変わったみたい。
きっと自分と同等の力があると認めてくれたんだろう。
えへへ。
これで義兄妹は確定かな?
そうすれば兄妹プレイ…じゃなかった、義兄妹としてヘルマンとお互いを高め合うことができるぞ!
・
・
次にグスタフさん対スレイ。
グスタフさんは素手で、スレイも武闘家で素手なんでこの組み合わせになった。
でもグスタフさんは平民が着るっぽい服で、スレイはスリングショット水着だ。ボクの時よりも違和感ありまくりだ。
「わあっはっはっは! スレイとか言ったな! 改めて言っておくが俺に捕まったら終わりだぞ! これでもオーク程度なら捻り殺せるのだからな!」
「ふん。この我を心配とは身の程知らずが。我を捕まえる? 数多の戦場を駆けたが誰も我の影にすら届かなかったわ」
そして模擬戦が始まる。
スレイに向かって猛然と突進してくるグスタフさん。
それに対しスレイは後ろ回し蹴りで彼の顔面を強襲する!
ゴシィィッ!
「グムッ!?」
グスタフさんは咄嗟に腕で顔面をガードするも、おおよそ人間を蹴ったとは思えない音がする。
そしてそのあまりに衝撃によろけてしまう。
バランスが崩れただけではないみたい。
衝撃を制し切れず、一瞬意識が飛びかけたっぽい。
でも…もし相手がグスタフさんじゃなかったら頭が吹き飛んでいたかも知れない。
「「「ッッ!!」」」
戦う二人と、周囲から感嘆の声が聞こえる。
「我の蹴りを受けて壊れないとは、中々の頑丈なヤツだ」
「突進する俺を止めるばかりか蹈鞴を踏ませるとは! なんという重い蹴りだ!」
「蹴りでグスタフをふらつかせるとは…信じられん」
「はぁはぁ♡ お姉さま、水着がズレて…はぁはぁ♡」
「ふん、ではコレでどうだっ」
スレイは倒立すると、まるでアクロバットかのように脚をリズミカルに振り回し始める。
倒立だけじゃない。
側転や逆立ちを交えて色々動いている。
見る者が見たら、それは地球世界の武術・カポエイラが元ネタだと考えるかも知れない。
生前、ボクは師匠から様々な武術を広く浅く指導されていたんだけど、カポエイラもその一つ。
その中途半端な知識を、暇な時間を使ってスレイに指導していたんだ。
他にも擢脚、テコンドー、ムエタイ、サバットなど足技主体の武術の基本動作をスレイに教えたんだけど…。
……。
どうして意味不明に腰を振ったり、おっぱいを寄せてあげて前屈みになったり、投げキッスしたり、「チョットだけヨ♡」ポーズが織り混ざってるの!?
お色気系踊り子さんとしてプライドでもあるの!?
グスタフさんが動揺しているのが分かる。
表情が真剣だから、スレイのお色気を交えた動きにじゃなくて、その合間に繰り出される蹴りを警戒しているんだ。
あ、グスタフさんに背中を向けて腰振り(?)してからのハボ・ジ・アハイアだ。
ハボ・ジ・アハイアは、相手に背を向けて床に手を置いての後ろ回転蹴りね。
グスタフさんは辛うじてガードに成功しているけど、それでも倒れない。
きっと「な、なんだコレは!? 動きが変則的過ぎてまるで分からん! 一体どこから蹴りが飛んでくる!?」とか考えてそう。
ドゴッ、ゲシッ、ガガガッ
あんなに足腰に力が入っていないように見えて一撃一撃が重いんだろう。
スレイは『力の帯』で脚力が増強されているんだ。
防戦一方のグスタフさんは、よろめきそうになると、逆方向から蹴られて倒れる事も許されない。
だけど。
「わあっはっはっは!なんという武術だ! 女の身でこの俺を圧倒するとは信じがたい!」
凄い。
グスタフさんは一方的にやられているのに戦う気満々だ!
「なかなかしぶとい。そら!」
スレイは最初と同じ後ろ回し蹴りを放つ。
最初と違うのはグスタフさんが単に防いだんじゃなくて、抱え込むように脚を捕まえたんだ。
「わあっはっはっは! コレを待っていたぞ!」
グスタフさんはスレイの脚を掴んだまま、思いっきりスレイを持ち上げる!
そして力任せにスレイ自身を振り下ろそうとする!
「むぅッ!?」
スレイの身体が一瞬で浮く!
凄まじい勢いでスレイの身体が宙に舞う!
そのままならスレイは顔面や上半身から地面に叩きつけられるだろう。
でも彼女は…あり得ない動き…まるで空中を蹴ったかのような動きで自身の軌道を変え、そのままグスタフさんの後頭部に膝蹴りするようにして、彼の頭を砂地に叩きつけたんだ。
ズシィィン……
…。
スレイ…スレイプニルは神馬だという。
スレイプニルに踏破できないところはない…つまり『力の帯』で脚力が向上した結果、空も走れるようになったって事?
「わあっはっはっは! いやいやまいった。降参だ!」
グスタフさんは砂まみれの顔をゴシゴシしながら笑っている。
スレイも「ふん。中々見どころのある男だ」と微笑みながら、ズレたスリングショットを直している。
どうやらスレイはおっぱい丸出しで戦っていたっぽい。スレイのスリングショット水着は『黄金の腕輪』製じゃ無くて『力の帯』なんで、動きによっては色々ズレてしまうんだ。
ボクはもとより、グスタフさんもヘルマンも特に気にしていなかったみたい。
ベルフィだけが「裸で戦うお姉さま…♡ 素敵♡」と鼻血を流しながら幸せそうにしていたけれど。
・
・
そして。
「うむ。俺に異存はない」
「改めて! 我らはヘルマンを長兄、俺を次兄、そしてセフレを末妹として此処に義兄妹となろう!」
「よろしくお願いします!兄様がた!」
やったね!
セフレとして二人と義兄妹になったぞ!
ヘルマンは言わずもがなだけど、中々どうしてグスタフさん…グスタフ兄様も漢らしい。
戦死すればきっと素晴らしい魂になるぞ!
そしたら戦乙女の皆んなも大喜びだ!
でも…なんとかして連れて行きたいけど、「戦場で死ぬまで戦って下さい」って言いづらいな。
ちなみにボクたちの誓いを見た女性陣の反応はというと。
「義兄妹ですか。私はお姉さまの妻ですから…グスタフとも義理の兄妹になるんですかね?」
「義兄妹なぁ。まぁジエラの義兄とは言っても、我の背は許さんがな」
「義兄妹ですか。私はジエラ様の側室ですから…ヘルマンとは義理の兄妹になるのでしょうか?」
みたいな事をぽそぽそ言っている。
際どい事言わないでよ!
ボクがジエラでありセフレだってバレちゃうじゃないか!
でもまぁ良い機会だ!
此処で出陣式といこう!
セフレはスレイを連れ立って、「急ですが、そろそろ出立しなければなりません。兄様がた、また何処かの戦場でお会いしましょう。サギニも良い機会だから、ちょっとヘルマンたちと模擬戦してみなよ」とか言いながら、誰もいない林の奥に方へと移動した。




