主従再会
突然だけど、本日ナキア伯国を出発する事になりました!
最初は滞在資格を得るために一ヶ月間働かなくちゃならなかったけど、蓋を開けてみれば…結構長い間お世話になっちゃった。
ナキア伯国に来たのは初夏の頃。
今は…そろそろ秋の気配が感じられるかな。
け、決して遊んでたわけじゃないんだ!
また流浪の旅に出るワケだから、夏の盛りを過ぎて、秋口の方が山の幸とかが美味しくなる季節ってこと旅には良いと思うんだ!
ちなみに娼館は引き継ぎ作業で臨時休業。
ヘキセンさんも最後の事務作業で忙しいみたい。
実は先日、新たなニンジャとして仲間になったヘキセンさんも伯国を出立する事になったんだ。
でも常に一緒にいるワケじゃない。
ニンジャのヴェクスと共に街の娼館とかに潜伏して情報収集とかしてくれるらしい。
でもヴェクスみたいに若くないから遣手婆さんになるのかな?
ちなみにヴェクスは長期不在中。
なんでもサギニがすごい精霊魔術を行ったんで、勉強のためにその影響とかを観察したいんだとか。
・
・
そしてここはナキア伯都郊外の浜辺。
塩田から少し離れた、誰もいないところでボクとベルフィ、スレイ、サギニはまったりとしていた。
海辺の街であるナキア伯国を出立するんで、最後に海を満喫する事になったんだ。
夏も終わりそう。でもそれでも海は気持ちいい。
クラゲもいなさそうだしね。
ちなみに出発前にヘルマンと此処で落ち合うことを伝えてあるんだ。
まだ時間もあるし、ちょっとくらい遊んでも良いよね♡
ざざーん
綺麗で平和な海。
先日、巨大な害獣が退治されたみたいだけど、それでも長年の風習はそう簡単には直らず、こんな綺麗な砂浜なのに人っこ一人いない。
「ううーん。ちょっとばかり開放的な気分になっちゃうかも♡」
「はぁはぁ♡ お姉さま、素敵過ぎますぅぅぅ♡♡」(ダラダラ…)←鼻血
「ふん。海…なぁ。別段面白くもないが、草原と違って広い……久しぶりに走るか」
「ジエラ様の艶姿が…♡ はぁはぁ♡ まだまだ修行が足らないようです」
ボクたちは水着に着替えている。
着替えるといっても、秘宝『黄金の腕輪』で一瞬だけどね。
英雄がだらけていると思われたら嫌なんで、今の所セフレとして黒髪黒目のままだ。仕事の時と違って素顔だけど、まあジエラとセフレが同一人物だなんてバレないだろう。
そんでもってマイクロすぎるハイレグビキニ。
これはジエラの時の〝死にやすい鎧“が競泳水着型なんで、似たような形状を避けるためだったりする。死にやすい鎧と似た水着だと万一バレる可能性もあるからね。
ちなみ腕輪製だからズレないから安心だ。
あと念のため、海に合わせて肌を小麦色に変えているから、真っ白い肌のジエラと見間違われることはないはずだ。
それにヘルマンとの待ち合わせ前にジエラに戻って鎧に換装すれば良いよね。
ベルフィはお子様なワンピース。ヒラヒラが可愛らしい。
美女姿のスレイは力の帯。相変わらずブレない。
サギニはいつものニンジャ装備。だけど覆面は外して武装は解除している。
そんなこんなで、みんなでめいめいに海を満喫している。
スレイは海の上を疾走している。
彼女の正体は神馬・スレイプニルなんで、どんな場所でも走れるんだ。だからって人間に擬態していても走れるなんて違和感ありまくりだけど。
そしてサギニはスレイの疾走に付き合ってあげている。
なんとサギニは水の精霊魔術で、疾走するスレイに大きな水弾を命中させようとしているんだ。これは彼女の修行にもなっているみたい。
「はははッ! 遅い遅い! そんなへろへろ弾なぞ脅威ではないわ!」
「くッ、当たれぇッ!」
ドドドォォォ………ッッ
そんな事言ってるけど、もし当たったら水圧でクシャクシャになりそうな程に水柱がすごい。
しかも物凄い連弾なんで、まるで水柱が大滝…いや水壁みたいで見応えがある。
そんなんでもボクにとってはアトラクション代わり。
水柱があがる海で泳いだり、ベルフィと一緒に波打ち際でパチャパチャと水遊びしたり、砂遊びに興じでいる。
ベルフィは波打ち際での遊びの時も、砂遊びの時も、ボクの股間やお尻、胸元が気になって仕方ないみたい。
視線があからさま過ぎて、ナニを考えているか丸わかりなんだ。
ううん。こういうのはよろしくないな。
ボクが男に戻った時は、こういうねちっこい視線をしないよう注意しないと!
それに、きっとヘルマンならボクがどんなに露出しようとも気にしないに違いない。
女性にイヤらしい視線を向けない…ヘルマンこそ男の中の男だよ。
そうしていると、スレイとサギニも鍛錬?を終えて波打ち際に戻ってきた。
「…ふう。久しぶりに疾走して満喫できた。たまにはこう言うのも良いものだ」
「くっ。一発も当てられませんでした。ニンジャとして更に修行あるのみです…!」
よーし、じゃあボクも修行するとしようかな。
娼館では家事労働中心だったんで、刃物といえば包丁くらいしか使わなかったなぁ。
一応、腰には三日月刀を佩いていたけど一度も抜かなかったしね。
そんな事を考えていると、こちらに近づいて来る人影が二人。
……。
ッッ!!?
ヘルマンとグスタフ様だ!
ど、どうして…って、もう約束の時間!?
海で遊ぶのが楽しくて忘れてた!
グスタフ様が同行してきたのは分かんないけど。
あわわっ。
髪と瞳と肌の色を変えているからといっても、さすがにあの二人の前では拙い!
黒髪黒目が金髪碧眼に変わったのに気付かれてもめんどくさい!
とりあえず素顔を隠さないと!
ええと…、ええと、…そうだっ。
ボクは『力の帯』で顔を覆うことにした。
神具だからだろう。帯は形が変化して、いつものフェイスヴェールっぽくなった。
更にもう一つの『力の帯』をヘッドヴェールに。
…水着にヴェールって変だけど、ここはコレで押し通すしかない!
「…確かセフレ殿か? 日焼けしているから直ぐに分からなかった」
「わあっはっはっは! 」
ちなみにヘルマンはいつもの黒い鱗鎧に長大な剣。
対してグスタフ様はみすぼらしい格好をしている。
「…おや? ベルフィ殿とサギニ殿も一緒か? そこにいるのは…確かスレイ殿? セフレ殿は皆と知り合いか? …ジエラ殿はご一緒ではないのか?」
ぎくうぅぅぅぅッッ!!
「あのあのあの! じ、実は…その、あの…」
・
・
動転していたんだと思う。
ボクは…あろう事か、自分の事を…
「ぼ、ボクは…ボクは…実はジエラ様にお仕えする奴隷…剣闘士奴隷なんです。ジエラ様の関係者って事は、娼館にいた時は内緒なんです。内緒だったんです…!」
「ほう…。剣闘士」
「そ、それでですね、彼女たちはジエラ様のお仲間なので、こうして情報交換したり、色々交流してるんです」
「なるほど」
無理があったかも?
でも誠実なヘルマンはボクの言葉を疑わなかったんだ。
それどころか、「俺もジエラ様にお仕えする身。では俺たちは同輩というワケか。よろしく頼む」と改めて挨拶してくれたんだ。
グスタフさんも単純?なのか「ジエラ殿にお仕えする剣闘士奴隷娼婦か! 色々あったのだろうな! わあっはっはっは!」と気にしていないみたい。
た、助かった。
でも、ボクが娼館を去ると同時にいなくなるはずだったセフレが…。
剣闘士奴隷として実在する事になっちゃった。
そこんところ、後で女性陣に共有しとかないと…。
万が一、ジエラとセフレが同一人物だってバレたら…下手をしたら…。
⬜︎ 妄想 ⬜︎
どさ
「……あっ」
ヘルマンにベッドに押し倒される。
「ああ…。ヘル…マン…」
「セフレ殿とは同僚として親交を深めてきました。親密と言って良い間柄なのは…貴女もご存知でしょう」
ううっ。
そうなんだ。
セフレとヘルマンは…いつの間には男女にカンケイに…。
「セフレ殿はジエラ様の仮の姿だという。つまり、貴女様は俺と主従を超えた男女の関係となりたくて、セフレとして俺に近づいたという訳ですね」
「…うぅ」
そ、そう思われても仕方ないよね。
「ジエラ様。もう正体を隠す必要もありません。昼に夜に、俺と…」
「…そ、そんなぁ♡」
い、今までも、夜はセフレとしてすっごい事ばかりしてたのに…。
ヘルマンにご奉仕しまくって、彼の熱い漢気を注がれ続けて、もうヘルマンのを完全に覚えちゃったのに、これ以上なんて…どんな事になっちゃうのぉ♡♡?
「セフレ殿は奴隷身分でした。ならば…ジエラ様、貴女には俺の愛の奴隷になって欲しい」
「…ボクが、ヘルマンの…奴隷…♡ 師匠なのに、奴隷だなんてぇ♡ 英雄には試練が必要だって分かってるけど、こ、こんな事って…♡」
「ジエラ様。いやジエラ、ベッドの中でだけ…オマエは俺の奴隷だ」
「はぁはぁ♡ヘルマン…♡」
「ヘルマンではない。ご主人様と呼んで欲しい」
「ああ、ヘルマン様…、ボクのご主人様ぁ♡♡ 貴方様の奴隷を末長く可愛がってぇ…♡♡」
⬜︎ ⬜︎ ⬜︎
……。
よ、良くないな。
漢気を逆境に置いて鍛えるには効果的かもだけど、うっかり皆の前でヘルマンを「ご主人様」なんて呼んじゃったら大変だ。
今の黒髪黒目の時はセフレなんだ。うっかりジエラと呼ばないように皆に言っとかないと。
「…? お姉さま? 顔を真っ赤にしてどうしたのですか? 口元がニヤけてますよ?」
「あいぇッ? あ、後で話があるから。…えへへ、ヘルマン様、ベルフィったら、ジエラ様にもスレイにも「お姉さま」ですから、紛らわしいですよね! はは、ははっ」
・
・
色々話をしたけど、先日ボクがヘルマンを突き飛ばしちゃった事については記憶が飛んじゃってて覚えていないみたい。
今は完治したけど当時は怪我をしたらしく、それは巨大害獣との戦いの際にできた傷だって思っているっぽい。
でも夢の中で恥ずかしいご奉仕しながら謝罪したから…ま、いいか。
夢の中だけどヘルマンも許してくれたし、黙っていよう。
ちなみにヘルマンがボクたちの水着姿に動揺したり好色な視線を向けて来ないのはいつもの事だけど、グスタフ様も同じだった。
「いやはや、海ではそのような衣装で寛ぐのですな! 庶民の女性はそういうものとは知らなんだ。わあっはっはっは!」とか言って笑っている。
…海で遊ぶ習慣がない以上、水着なんてこの世界にはないと思うけど。
それにグスタフ様はボクたちに好色な視線を向けないばかりか、笑いながらベルフィを肩車して遊んでくれている。好感がもてるぞ。
「ええっ!? グスタフ様が貴族じゃなくなっちゃたんですかっ!?」
「わあっはっはっは! 父のナキア伯には伏せてはいるが…既に貴族身分を示す徽章は壊してしまったから、法的には貴族ではないという事だ! 貴族ではなくなった俺はナキア伯国に居場所はない! …おや? 貴女は俺が貴族だったと知っていたかな?」
「は、はい。一度お店で、ジェローム様という貴族様とご一緒の時に…」
「そうだったか! …それはそうとジェロームだがな…」
そしてジェローム様が亡くなった事を知らされた。
なんでも乱心して処刑されたんだって。
彼はボクに執着してたっぽいから、コレで解放されたという思いはあるけど。
乱心して処刑されたって事は…今頃は罪人が行く霧国にいるのかな。そこで反省してくれれば良いけどね。
「俺もナキア伯国を旅立つ身の上だ。見納めだと思い、こうして平和になった海を見物しに来たのだ。しかし、ここでセフレ殿に出会うとは思いもよらなんだ! なぁ兄者!」
え?
兄?
そしてグスタフさんに兄呼ばわりされたヘルマンは、特に驚いた様子もなく「うむ」とか頷いている。
「え? ヘルマン様はセダ村出身で…この伯国を訪れたんですよね? 元とはいえ貴族のグスタフ様と…どうして兄弟…?」
「実は俺とグスタフは義兄弟となったのだ。俺よりグスタフが一歳年下なので、俺が兄というわけだ」
「わあっはっはっは!それに俺より兄者の方が若干だが背が高いしな!」
ぎ、義兄弟ッ!?
お、漢らしい…。
しばらく会わないうちに、そんな事になっているだなんて…。
でも義兄弟か。
いいな。
憧れちゃうなぁ。
ボクも混ぜて(?)もらいたい。
あ、そうだ!
せっかくだし!
「…ここでボクたちが出会ったのも何かの縁。ボクも腕には自信ありますし、どうかボクも兄弟に…三兄妹にしてもらえないですか?」




