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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第5章 天空の聖域編

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第90話 救援

 それから走り続けること数分。僕は足を止め、周囲を見回した。



「確かゲートはこの辺りにあったはず……」



 最初にこの『天空の聖域』に来た時に見た景色を記憶の中から引っ張り出す。うん、やはりこの辺りで間違いない。


 しかし問題なのが、ゲートはセアルの【認識遮断】の呪文によって僕達の目には映らないということだ。あくまで認識を遮断されているだけなのでゲートそのものが消えたわけではないが、残念ながら一度見ただけで正確な位置を把握できるほど僕の記憶力は優れていない。


 こうなったらこの周辺を闇雲に走り回って運良くゲートに入れることを祈るしかない。ここまで来て最後は運任せというのはもどかしいが、それ以外に方法はないだろう。



「ユート!」



 そんなことを考えている時、セレナが叫んだ。顔を上げると、いつの間にか上空は数多の下級天使で埋め尽くされていた。二百、いや三百か? なんかもう数を数える気力も失せてきた。



「この短時間に随分とファンが増えたもんだな」

「そ、そんな悠長なことを言ってる場合じゃないでしょ!?」

「……だな」



 こいつらがいたんじゃゲートを探すこともままならない。面倒だが戦うしかない。



「アタシを下ろしてユート! アタシを抱えてたらまともに戦うこともできないわよ!」

「……いや、このままでいい」

「何言ってるの!? 今のままじゃ両手が使えないでしょ!?」

「いいからセレナは僕にお姫様抱っこされてろよ」



 敵はこれだけの数だ、セレナを僕から離した状態では守りきれなくなる怖れがある。もうセアルの時のようにセレナを人質に捕られるようなヘマはしない。


 両手が使えないのもちょうどいいハンデだ。なにより女の子を抱えながら戦うというシチュエーションは結構燃える。



「〝破滅一閃〟!!」



 僕はボールを蹴るような感覚で足を振り上げ、その風圧で上空の下級天使共を引き裂いていく。今までの〝破滅一閃〟は腕を使ったものだったけど、案外足の方が威力は高いかもしれない。



「呪文【落石警報】!!」



 天使の一人が呪文を唱え、真上から巨大な岩が降ってくる。



「〝破滅一撃〟!!」



 僕はその場で高く跳び上がり、頭突きでその岩を粉々に破壊した。下級天使共からはざわめきが起きる。



「大丈夫かセレナ?」

「う、うん。アタシは全然平気……。ていうかさっきから思ってたけど、こんな時まで技名を叫ぶ必要ってある? 今のもなんか無理があったし」

「いや、技名を叫ぶのと叫ばないのとでは威力が30%違う」

「そうなの!?」



 まあ30%は言い過ぎだろうけど(というか実際ほとんど変わらないだろうけど)テンションが上がるのは確かだ。



「呪文【五月雨光線】!!」



 別の天使が放射状に光線を放ってきた。全部避けるのは難しいと判断した僕は、光線がセレナに当たらないように身体を180度回し、背中でその光線を受けた。



「ぐああああああああああ!!」

「ユート!? しっかりしてユート!!」

「……ごめん、演技。これくらいじゃ僕は何ともない」

「あ、アンタねえ!! 今がどういう状況か分かってるの!?」

「分かってるよ」



 これだけ数が多いと時々ジョークでも挟まないとやってられない。一体いつになったら片付くのやら……。



「呪文【電撃祭】!!」



 くっ、また呪文かよ。呪文が使えない僕への嫌がらせのように……。



「ぎゃああああああああああ!!」



 再び僕は叫び声を上げた――と言いたいところだが、叫び声は僕ではなく下級天使共のものだった。そう、今のは僕ではなく下級天使共への攻撃だったのである。


 仲間割れ、というわけでもなさそうだ。それに今の声、なんか聞き覚えがあるような――



「呪文【災害光線】!!」



 また別の呪文を唱える声と共に、下級天使共が吹き飛ばされていく。今のも聞き覚えのある声だった。



「な、何だ!?」

「どこからの攻撃だ!?」



 動揺する下級天使共。【電撃祭】、それに【災害光線】。まさかと思いながら僕は周囲を見回した。



「リナ!! みんな!!」



 なんとリナ、アスタ、スーの三人が僕達の方に駆けつけてくるのが見えた。一瞬目眩が酷いせいで幻覚でも見えてるんじゃないかと思ったが、どうやら現実のようだ。



「助けに来てやったぜユート! って言いたいところだが、見た感じあんまり必要なかったみてーだな……」

「いや、正直マジで助かる。この数相手に気が遠くなりそうだったし」

「お兄様、ご無事で何よりです……!!」

「ああ。心配かけて悪かった」



 安堵の表情を浮かべるリナを見ながら僕は言った。



「セレナ……!!」



 スーが全身傷だらけのセレナを見て血相を変える。これまでスーはほとんど表情を変えることがなかったので、とてもショックを受けているのが伝わってくる。



「こんなボロボロになって……。ユート、いくらセレナが可愛くてエロい身体をしてるからって、これはあまりにも酷すぎる」

「僕がやったんじゃないからな!?」

「セレナ、私が来たからにはもう大丈夫。これ以上ユートに淫らなことはさせない」



 なんで僕が犯罪者みたいになってるんだ?



「えっと、スー? なんか勘違いしてるみたいだけど、ユートはずっとアタシを守ってくれて――」

「もう何も言わなくていい。セレナは私が守ってあげる。ユート、セレナを渡して」

「あ、ああ……」



 スーはヒョイとセレナを抱える。きっとこれ以上僕に負担をかけさせない為の冗談だったのだろう。冗談にしてもあんまりな気がするけど。



「にしても驚いた。アスタ達まで『天空の聖域』に来てたとは……」

「ついさっき着いたばかりだけどな。それより今の内に行くぞ! ゲートはこっちだ!」



 僕は頷き、アスタ達と共に走り出す。



「に、逃がすな!! 追えー!!」



 それでも下級天使共は追いかけてくるが、アスタとリナがそれぞれの呪文で反撃してくれる。これほど頼もしい救援はない。




「着いたぞ、あそこだ!」



 アスタが指差した先には〝ゲート〟があり、その傍ではサーシャが僕達を待っていた。



「……よかった。『天空の聖域』に着いた矢先に天使の大群が見えたものだから何事かと思ったが、ひとまず二人とも無事だったようだな」



 サーシャが僕とセレナを見て安心したように言った。ゲートが見えるということはサーシャが【解呪】の呪文で【認識遮断】を解除したのだろう。おかげで闇雲に走り回らずに済んだ。



「サーシャ、早速で悪いけどこれを解いてくれないか?」



 僕はセアルの【魔封じの枷】によって手首に装着された手錠を見せた。サーシャが【解呪】を発動すると、その手錠は綺麗サッパリ消えた。これでようやく呪文が使えるようになる。



「さて、全員揃ったことだし地上に帰還するぞ」

「ちぇっ。せっかく『天空の聖域』まで来たんだから観光とかしてみたかったんだけどなあ」

「つべこべ言わずにさっさと入れ」

「どわっ!?」



 サーシャに背中を押され、アスタはゲートの中へと消える。セレナを抱えるスーも後に続いた。



「何をしているユート、お前も早くしろ」

「……サーシャは先に行ってくれ」

「なに?」

「僕はあいつらに用がある。地上にまで追いかけてこられたら堪ったもんじゃないしな」

「……なるほど、分かった」



 サーシャもゲートに入り、一人残った僕は下級天使共と向かい合う。これまでの礼はきっちり返してやるとしよう。



「呪文【地獄の黒渦】!!」



 僕は文字通り黒い渦を上空に発生させた。そして呪文を使用したことで僕は覇王の姿に戻り、それを見た下級天使共は驚愕の表情を浮かべた。



「お、お前は覇王!!」

「まさか、人間に化けていたというのか!?」

「ふっ……今頃気付いたか。だが余の正体を知られた以上、貴様達を野放しにしておくつもりはない」



 僕は指をパチンと鳴らす。直後、黒い渦を中心に凄まじい風が巻き起こった。



「うわああああああああああ!!」

「助けてくれえええええええ!!」



 黒い渦は掃除機のように下級天使を吸い込んでいく。やがてその場にいた下級天使を一人残らず呑み込んだ。



「安心しろ。【地獄の黒渦】に呑み込まれた者は時が経てば戻ってこれる。もっとも何年掛かるかは知らないがな……」



 独り言を呟いた後、僕はゲートの中へ入っていった。


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