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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第4章 邪竜の洞窟編

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第82話 仲間の為に

「だが、そうと決まればやることは一つだ。『天空の聖域』に乗り込んでユートとセレナを取り戻すしかねえ……!!」

「馬鹿なことを言うなアスタ。そのボロボロの身体で一体何ができる」



 ディストレスドラゴンに続くセアルとの戦いで、アスタ達のHPとMPは風前の灯火と化していた。



「それに七星天使の力はお前達も身をもって味わったはずだ。たとえ万全の状態で『天空の聖域』に向かったとしても何もできはしない。死にに行くようなものだ」

「それじゃセレナ達を見捨てろってのか!? このままやられっぱなしで終わるなんてオレのプライドが許さねえ……!!」

「私もアスタと同じ気持ち。だからゲートの場所を教えてサーシャ」

「私からもお願いします!」



 アスタ、スー、リナの三人は真剣な眼差しをサーシャに向ける。やがてサーシャは小さく息をついた。



「……駄目だ。その身体で『天空の聖域』に行かせるわけにはいかない」

「サーシャ!! お前仲間を何だと――」

「早とちりするな。私は〝その身体で〟と言ったんだ」

「……どういう意味だ?」



 頭に疑問符を浮かべるアスタ達に、サーシャは静かに右手をかざした。



「呪文【自己犠牲】!」



 サーシャが呪文を唱えると、三人の身体が温かい光に包まれた。



「凄い。身体の傷が治っていく……!」

「サーシャお前、回復呪文も持ってたのか!?」

「……残念ながらこれは回復呪文ではない」



 するとサーシャはその場で膝をついた。その表情はまるで全力疾走した直後のように疲れ果てていた。



「さ、サーシャさん!? どうしたんですか!?」

「……【自己犠牲】は自分のHPとMPを他者に分け与える呪文だ。私のHPとMPをギリギリまで削り、お前達三人に与えたんんだ」

「サーシャ、お前……!」

「『天空の聖域』に向かうべきではないという私の考えは変わらない。だがお前達のことだ、いくら私が止めても無駄だろう」



 サーシャは息を切らしながら、力無く微笑む。



「だが、ユートとセレナを助けたいという思いは私も同じだからな。これは私からのささやかな贈り物だ。ま、私一人分のHPとMPでは気休めにしかならないだろうがな」

「いや、十分だ。助かったぜサーシャ」



 それからサーシャは懐から四つ折りにされた紙を取り出し、リナに手渡した。



「サーシャさん、これは?」

「ゲートの場所が示された地図だ。まさかこのような形で教えることになるとは思っていたかったが……」



 リナ達は地図を広げ、ゲートの場所を確認する。



「うげっ、ゲートって人間領の北方面にあるのかよ。オレ達は転移系呪文なんて持ってねーし、普通に歩いたら三日は掛かっちまうぞ」

「そこは私が【生類召喚】で飛行モンスターを呼び出して空を飛んで行けば、時間は大幅に短縮できる」

「それだ! ナイスアイデアだぜスー!」

「も、モンスターに乗るんですか……!?」



 いかにも不安そうな表情でリナが言う。



「ん? どうしたリナちゃん、もしかして高所恐怖症か?」

「いえ、そういうわけではないのですが、モンスターに乗るのなんて初めてなので、途中で振り落とされたりしないか不安で……」

「なあに、オレも初めてだし大丈夫だって。なあスー?」

「うん。モンスターは【憑依】で常に私がコントロールするから心配は無用。アスタは途中で振り落とすかもしれないけど」

「おおい!! 理不尽にも程があるだろ!!」



 三人のやりとりを見て、サーシャは呆れたように溜息をつく。



「お前達、そんな話をしている暇はないはずだろう」

「っと、そうだった。それじゃ行くぜ、『天空の聖域』へ!」



 アスタ達はユートとセレナを取り戻すため、『天空の聖域』に乗り込む覚悟を決めたのであった。



  ☆



 少し時間は遡り、人間領の東方面にて。そこでは七星天使のガブリによる人間の魂狩りが引き続き行われていた。



「ンッフッフッフ。やっぱ人間の怯えきった顔は何度見ても飽きねえなあ……!!」



 とある町の路地裏で、ガブリは一人の若い女性を追い詰めていた。女性は恐怖に満ちた目でガブリの方を見ている。



「お願いします……どうか命だけは……」

「安心しな、奪うのは命じゃなくて魂だからよ。さあて、そろそろ鬼ごっこも終わりの時間だ……!」



 ガブリが【魂吸収】の呪文で女性の魂を奪おうした、その時。ガブリはセアルからの念話をキャッチし、面倒臭そうに舌打ちをした。



「何の用だセアル。こっちは取り込み中だってのによぉ」

『それは悪かったな。お前に報告することが二つある。一つ目は無事「狂魔の手鏡」の破壊に成功したこと。二つ目はこれからワシが「天空の聖域」に帰還することじゃ。今ワシはゲートの前にいる』

「ああっ!? 何回言ったり来たりすりゃ気が済むんだよ! まさかまた魂狩りを中断して戻ってこいとか言うんじゃねーだろうな!?」

『いや、お前は戻らなくていい。むしろ戻ってくるな。お前は人間領で魂狩りを続けていろ』



 ピクッとガブリの眉が動く。



「……けっ、そーかよ。で、帰還する理由は何だ? まさかマジで人間の魂を奪うのが辛くなって引き籠もることにしたのか?」

『ほざいてろ。ちょっとした事情ができただけじゃ。それが済んだらワシも魂狩りを再開する』

「あぁ? 何だよちょっとした事情って?」

『お前が知る必要はない。用件は以上じゃ』

「おい!! そこまで言ったんなら教えたっていいだろうが――」



 そこでセアルから念話が切れる。再び舌打ちをするガブリ。



「セアルの奴、勿体つけやがって……。あ?」



 ガブリは先程の女性が目の前からいなくなっていることに気付いた。ガブリがセアルと念話している隙に逃げたようだ。



「あーあ、やっちまった。まあ人間は腐るほどいるんだ、一人逃がしたところでどうってことねえか」



 ガブリは後頭部を掻きむしった後、不敵な笑みを浮かべる。



「にしても、戻ってくるなと言われたら逆に気になっちまうのが、オレの性なんだよなあ……!!」



 ガブリの意識が『天空の聖域』に向けられる。更なる波乱が生まれようとしていた。

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