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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第3章 魂狩り編

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第59話 変身の難しさ

「っ!!」



 セレナもそのことに気付いたらしく、慌ててスカートを両手で押さえた。そして顔を真っ赤にしながら僕を睨みつけてくる。



「……見たでしょ」

「…………」

「なんとか言いなさいよ!!」

「……今日は水色なんだな」



 バキッ!!



「ぐはっ!?」



 セレナの跳び蹴りが僕の顔面に炸裂し、後頭部が後ろの壁に激突した。僕がドMだったらここで「ありがとうございます!!」とお礼を言っていただろうけど、残念ながら僕は痛みを喜びに変えられるほど器用じゃない。



「ほんっと最低……!!」



 セレナは踊り場で倒れる僕の横を通り過ぎ、下の階へと下りていく。



「待ってくれセレナ!! 今のも不可抗力で――」



 僕が言い訳をしようとすると、セレナは足を止めて振り返り、僕の顔をビシッと指差してきた。



「今後アタシに近付いたり話しかけたりしたらタンスの角に小指を百回ぶつけてもらうから!!」



 そう言い放ち、セレナは僕の前から去っていった。想像しただけで痛そうな罰だ。



「いてて……」



 僕は後頭部をさすりながら立ち上がる。僕だったから多少の痛みで済んだものの、普通の人間だったら今ので死んでたかもしれないぞ。


 それにしても、どうしてセレナとだけこういうラッキースケベ的なイベントが頻発するんだろう。この二日でもう三回(喫茶店のトイレ、アジトの地下訓練場、そして今回)も起きてる。まあ、僕としては嬉しい限りなんだけども……。


 なんにせよこれで一層セレナに嫌われてしまっただろう。土下座したところまでは良かったのに、結果的に更に関係を悪化させてしまった。明日は『狂魔の手鏡』の入手に向けて協力していくわけだし、セレナともできるだけ仲良くなりたいんだけど。いや、そもそもセレナは僕を仲間として認めてないんだっけか……。


 しかしここまでセレナとの関係がこじれてくると、サーシャが【未来予知】で視たという〝例のアレ〟がますます疑わしくなってくるな。本当にこんな調子でセレナは僕の事を好きになるんだろうか。



「……ん?」



 ふと足下に目をやると、何かペンダントらしき物が落ちていることに気付き、それを拾い上げた。多分セレナが僕に跳び蹴りをした拍子に落としたのだろう。きっと大切な物だろうし、早く届けないと。


 だが階段を下の方まで覗きこんでみても、既にセレナの姿はなかった。どこに行ったのかは分からないけど、一階か二階のどちらかにいるはずだし、探してみるか?


 でもさっきあんなことがあったばかりだから凄く気まずいし、それ以前にセレナに近付いたら「タンスの角に小指を百回ぶつける刑」が執行されてしまうので、そもそも届けることすらできない。どうしたものか……。



「ユート、こんな所で何してるの?」



 上の方から声がしたので顔を上げてみると、スーが階段を下りてくるのが見えた。左手に持っているのは絵本のようだ。



「スーこそ、そんな本を持ってどこに行くつもりなんだ?」

「子供達のところ。皆に絵本を読み聞かせてあげるのが私の日課だから」

「……そうなのか。でも今日くらいは休んでもいいんじゃないか? サーシャも明日に備えてしっかり休むように言ってたし」

「大丈夫。これは私の楽しみの一つでもあるから」

「……そっか」



 ここで僕に考えが浮かんだ。そうだ、スーに頼めばいいんだ。



「スー、悪いけど後でこれをセレナに渡しといてくれないか?」



 僕は先程拾ったペンダントをスーに差し出した。



「これ、セレナの?」

「ああ。さっきここで拾ったんだけど、僕ってセレナに嫌われてるだろ? だから渡そうにも渡せなくて困ってたところなんだ」

「……分かった。私が責任をもって――」



するとスーは言葉を止め、何かを企むように小さく口の端を上げた。



「やっぱり断る。ユートが拾ったのならユートが自分で届けるべき」

「は!? たった今分かったって言ったよな!?」

「気が変わった。ユートがそれを届けてあげればセレナの好感度も上がるはず。セレナは未来の彼女なんだし今の内にポイントを稼いでおかないと」

「なんでそうなる!?」

「ユートとセレナがキスするってことは、セレナがユートの彼女になることはほぼ確定してると言っていい。むしろキスまでしておいて彼女にしてあげなかったらセレナが可哀想だと思う」



 僕は思わず溜息をついてしまう。



「スーは本当にセレナが僕の事を好きになると思ってるのか?」

「思ってる。サーシャの【未来予知】に外れはないから。私も応援してる」

「応援してると言われても……」

「セレナの部屋は四階の一番奥だから。それじゃ頑張って」

「あっ、おい!」



 スーはペンダントを受け取ることなく、僕の前から去っていった。スーの奴絶対楽しんでるだろ……。


 こうなったらサーシャかアスタに頼むか? でも二人が今どこで何をしてるのか分からないし、こんなことで探すのも面倒だ。となると他に方法は――



「……よし、これでいこう」



 ある考えが浮かんだ僕は、ペンダントを持ったまま一旦自分の部屋に戻り、大きな鏡の前に立った。


 セレナは僕が話しかけることも近付くことも許してくれない。ならばセレナに僕が僕だと分からなければいい。つまり【変身】の呪文で別人に姿を変える方法だ。


 問題は誰に変身するかだが、セレナにペンダントを返しに行く途中で本人に遭遇するとマズいので、今どこにいるのか分からないアスタやサーシャに変身するのは些か危険が伴う。となると、ここはスーに変身するのが一番だろう。子供達に絵本を読み聞かせているのなら遭遇することもないはずだ。


 思えば人間時代の僕以外に変身するのは初めてだな。男が女の子に変身するってちょっとアレな気がするけど。



「呪文【変身】!」



 僕はスーに姿を変えるべく【変身】の呪文を使い、鏡に映る自分の姿を確認した。


 うーん……なんか違う。これはスーではなくスーに似た人だ。本人はもっと可愛かったはずだ。


 呪文【変身】は僕が脳内に浮かべた姿がそのまま反映されるので、正確なイメージが必要になる。今までは人間時代の僕にしか変身していなかったのでイメージが楽だった上、この世界に阿空悠人を知る人がいないので多少違ってても問題はなかった。


 だが今回変身するのはスーなので、セレナに違和感を持たれないように変身しなければならない。長年の付き合いならともかく、スーは今日出会ったばかりの女の子なので、正確にイメージするのが非常に難しい。


 更に容姿だけじゃなくスタイルも変えなくてはならない。特に問題は胸だ。スーの胸はお世辞にも大きいとは言えなかったが、決して貧乳というわけでもなかった。よって胸の膨らみ加減にも神経を使ってしまう。


 てか、なんかこれって余計に面倒なことをしているような……気のせいだなうん。



「……こんなもんかな」



 鏡の前で格闘すること約十分。ようやく納得のいく姿に仕上がった。うん、どこからどう見てもスーだ。胸がちょっと大きい気もするが問題ないだろう。あとはセレナにペンダントを渡しに行くだけだ。もっと他に良い方法があったんじゃないかと思ったけど、今は気にしないでおこう。

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