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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第9章 幻獣復活編

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211/227

第211話 闘う理由

 僕の力によって人間を滅亡させた後、『闇黒狭霧』によって人間の死体を半悪魔に変えて蘇らせるというのがアンリ達の計画だった。無論、そんなこと僕は微塵も望んでいないが……。


 四つの材料の内三つはペータ、ユナ、エリトラの手により集められたが、まさか最後の一つをキエルが所有しているとは思いもしなかった。



「それは『闇黒狭霧』の生成に必要な材料の一つ……だな?」

「ほう。やはり知っていたか」

「何故、貴様がそれを……!?」

「お前がこの世に蘇る前から、悪魔共が『闇黒狭霧』を利用して何かを企んでいることは聞き及んでいた。そこでセラフィ――かつての七星天使の第一席は、それを阻止するべく俺にこいつを確保しておくよう命じた。一つでも材料が欠ければ『闇黒狭霧』が生成されることはないからな」



 なるほど。どうりでいくら探しても見つからなかったわけだ。


 その時、ある考えが僕の脳裏に浮かんだ。四つの材料が全て揃った今、『闇黒狭霧』を使えば幻獣の呪文によって死した者達を蘇らせることができるのではないか……?


 人間を半悪魔として蘇らせるという行為が果たして正しいことなのか、それはなんとも言い難い。だが今は形振り構っている場合ではなかった。



「キエル。その〝エンダードの眼〟を余に渡せ」

「悪いが断る。俺とて腐っても七星天使の一人。人間の死体を半悪魔として蘇らせるなどという所業は断じて見過ごすわけにはいかん」

「何……」



 そこで僕は、ようやくキエルの真意に気付いた。何故キエルがこのタイミングで〝エンダードの眼〟を僕に見せてきたのか。



「どうやら察しがついたようだな。そう、こいつを賭けて改めてお前に決闘を申し込む。こいつが欲しければ、この俺を倒して奪ってみせろ」



 キエルを倒さない限り『闇黒狭霧』によって死者を蘇らせることはできない、か……。



「どうだ? これならお前が俺と闘う十分な理由になると思うが」

「……貴様は最初からこうなることを予測していたのか?」

「まさか。俺にそこまでの先見性はない、たった今思いついたことを言ったまでだ。さあどうする覇王?」

「…………」



 答えを出すのに、そう時間は掛からなかった。僕も心のどこかでは、キエルとの闘いを避けて通れないことは分かっていたのかもしれない。



「いいだろう。貴様の思惑に乗ってやる。その決闘、受けて立とう」

「ふっ。そうこなくてはな」

「だが数多の者達の命が懸かっている以上、本気でやらせてもらう。覚悟はいいな?」

「覚悟などとうの昔にできている」



 一定の距離を置いて、僕とキエルは向かい合う。ラファエの魂を眠りにつかせて正解だった。あいつならこんな闘いは絶対に止めようとしただろう。



「さて。闘いの前に、まずはこの鬱陶しい呪文を解除してもらおうか」



 上空に広がるオーロラを見ながらキエルが言った。【弱者世界】は今も発動中であり、僕のステータスも補正されたままだった。



「貴様と余のステータスには圧倒的な差がある。この空間はちょうどいいハンデになると思うが?」

「そんな情けをかけられた上で貴様に勝っても何の意味もない。それに、幻獣との闘いで貴様は既に満身創痍のはず。ハンデならそれで十分だ」

「ふん。満身創痍は貴様も同じだろうに……」



 僕は指を鳴らし、【弱者世界】を解除した。



 覇王 Lv999


 HP 278/9999999999

 MP 56/9999999999

 ATK 99999

 DEF 99999

 AGI 99999

 HIT 99999



 そして今一度、自身のステータスを確認する。この通りHPとMPは風前の灯火、特にMPが深刻だ。やはり幻獣との闘いの爪痕は大きい。


 それともう一つ、深刻な問題がある。幻獣を葬ったことで「回復呪文を適用できない特性」と「全所持呪文の消費MPを4000にする【絶望の重税】」の影響は消えたが、【永遠解呪】と【絶望の宣告】によって消滅した呪文が元に戻ることはなかった。幻獣を葬ればあるいはと期待していたが、そんなご都合主義は存在しなかったらしい。


 よって【生命の光】でHPを回復させることは永久に不可能となった。もっとも今のMPではどちらにせよ発動はできなかったが。



「貴様に良いことを教えてやる。余のHPは残り僅か。MPも低等星呪文を一回唱えるのが限界といったところだ」

「ほう。敢えて敵に情報を与えるとは余裕だな。ならば俺も、呪文を使うのは一回だけにさせてもらう」



 このキエルの発言に、僕は眉をひそめる。



「……あくまで対等に拘るつもりか?」

「それもあるが、俺は元から呪文頼みの戦闘スタイルではないからな。やはり一番頼れるのは俺の拳。呪文を使うのは一回で十分、と言い直してもいい」

「ふん。言ってくれる」



 HPは残り僅かなのはキエルも同じはず。よってこの闘いは必然的に短期決戦となるだろう。つまりそれは、一瞬でも気を抜いたら死に直結することを意味している。


 暫しの間、僕とキエルは互いを静かに見据える。ついにこの時が来た。キエルと闘う、この時が。


 思えば今まで色々なことがあった。最初にキエルと出会ったのは雑貨屋だったな。屈強な男がピンク色のエプロンを身に着けている光景はかなりシュールだったのを覚えている。公園で着ぐるみに入って風船配りのバイトをしたこともあったな。キエルが着ぐるみを引き裂いてクビにされたのは気の毒という他なかった。


 だが、今は思い出に浸っている場合ではない。僕は何としても〝エンダードの眼〟を手に入れ『闇黒狭霧』によって死者を蘇らせる。その為なら、たとえ相手がキエルであっても――



「いくぞ、キエル」

「……来い」



 斯くして、僕とキエルの決闘の幕が切って落とされた。

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