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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第9章 幻獣復活編

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207/227

第207話 敗北の覚悟

「!?」



 僕は顔を上げ、目を見開いた。たった今詠唱した【神罰の巨掌】だが、一向に発動される気配がない。まさか発動に失敗したというのか。奴がさっき唱えた呪文の影響か……!?



《残念だったな。【絶望の重税】を受けた者の所持呪文は全て、消費MPが4000となるのだ》

「何だと……!?」



 僕のMPは【弱者世界】の効力で2000となっている。これでは呪文の発動に失敗して当然だ。この期に及んでまだそのような呪文を隠し持っていたとは……!!


《自ら発動した呪文が仇になるとは、滑稽なことよ。これで貴様はもう、あらゆる呪文の詠唱が不可能になったわけだ》

「……!!」



 僕は悔しさを噛みしめる。先程発動しようとした【神罰の巨掌】は、消費したMPの数値だけ対象のHPを削り取る呪文。僕のMPと奴のHPは共に2000。この発動に成功していたら、MP全てを費やして奴のHPを0にすることができていた。それを紙一重の差で奴に阻止されてしまった。



『すみませんユートさん。僕がもっと早く気付いていれば……』

「……お前が謝ることではない。これは余の落ち度だ」



 たらればではあるが【弱者世界】が発動された瞬間に【神罰の巨掌】を詠唱していたら、幻獣に【絶望の重税】を使う間を与えることなく奴のHPを0にすることができただろう。予めその発想があったらと思わざるを得ない。



《我に奥の手を使わせたことは褒めてやる。だが、どうやらここまでのようだな》

「…………」



 全身から力が抜けていくのが分かる。ここまでやっても、奴には届かないのか……!?


 この時初めて、僕の脳裏に〝敗北〟の二文字が過ぎった。奴が何不自由なく呪文を使えるのに対し、こちらは呪文を一切使えない。これでは勝負にならない。


 負ける、のか……? 覇王である僕が、あの怪物に……?



「……ラファエよ。最後に一つ、聞いておきたいことがある」



気付けば僕は、内なるラファエの魂に語りかけていた。



「余が死ねば、同時に余の中に存在するお前の魂も消滅することになる。それでも構わないか?」



 僅かな間を置いて、ラファエは答えた。



『はい。元より覚悟はできています』

「……すまなかったな。お前を巻き込んでしまって」

『謝らないでください。それにまだ、勝負が決まったわけではありません』

「……ああ」



 そうだ、僕は最期の最期まで諦めないと決めたんだ。


 僕は拳を握りしめ、幻獣に向けて走り出す。呪文が使えなくなった以上、奴にダメージを与える手段は拳しか残っていなかった。



《往生際が悪いぞ。呪文【地界獄炎】!》



 真下から凄まじい炎が噴火する。僕は咄嗟に地面を転がり、ギリギリで回避した。



《呪文【天界雷撃】!》



 間髪入れず幻獣が追撃の雷を放つ。これは避けられない――



「呪文……【地層防壁】……!」



 その時、僕の背後で呪文を詠唱する声がした。大地が隆起し、僕を守るように土の防壁が形成される。この呪文、キエルか……!?



「ぐあっ……!!」



 雷撃が防壁に炸裂し、その衝撃波で僕は後方に吹き飛ばされた。



 覇王 HP 278/2000



 防壁のおかげで直撃は免れたが、HPは300以下まで削られてしまった。



「すまんな……今の俺にできるのはこの程度だ……」



 地面に倒れ伏したまま、キエルが弱々しく呟いた。どうやら意識が戻ったらしく、満身創痍ながらも僕を守ってくれたようだ。



《くたばり損ないが、余計なことを。だが所詮は苦痛を長引かせただけにすぎん》



 僕は歯を食いしばり、なんとか立ち上がる。



《まだ抗うか。いい加減大人しくなるがいい。呪文【天界重圧】!》

「ぐっ……!!」



 通常の20倍の重力が全身に掛かり、堪らず僕は膝をついた。今の僕にこの呪文から逃れる術はない。



「これが正真正銘の最期だ。呪文【天界雷撃】!」



 完全に身動きを封じられた僕に、幻獣が雷撃を放った。


 その瞬間、僕の脳裏にこの世界で過ごした日々が蘇る。覇王城でアンリ達と様々な遊戯で遊んだこと、サーシャ達と海に行ったこと、セレナとデートしたこと――


 思わず苦笑する。なるほど、これが走馬灯ってやつか。


 やれるだけのことはやったつもりだ。だが結局、この世界を救うことはできなかった。無念ではあるが、これはもう仕方のないことだ。皆、許してくれ……。



『ユート、諦めないで!!』



 その時、誰かの声が聞こえてきた。この声は……セレナか? ついに幻聴まで聞こえてきたのだろうか。



『どうしたユート。お前の力はその程度か?』



 続けて別の声が聞こえる。この小生意気な口調は、間違いなくサーシャだ。



『おらユート、しっかりしやがれ!』

『特別に私達が力を貸してあげる』

『お兄様、私達がついています!』



 アスタ、スー、リナの声が聞こえる。違う、これは幻聴などではない。紛れもなく皆の声だ。



「……!」



 伝わってくる。皆がそれぞれの想いと一緒に〝何か〟を僕に届けようとしている。まさか、これは……!!


 直後、幻獣の【天界雷撃】が大地に炸裂し、噴煙が巻き起こった。



《……何!?》



 幻獣が声を上げる。雷が直撃した地点に僕の姿がなかったからだろう。僕が完全に動けないと思い込んでいた幻獣にとっては想定外に違いない。



《どこに消えた……!?》

「ここだ」



 幻獣が見上げた視線の先に、僕はいた。幻獣の雷撃が大地に炸裂する直前、僕は空中に回避していたのである。当然僕が受けたダメージは0だ。



《馬鹿な……!!》



 幻獣が驚くのも無理はない。本来なら翼も持たない僕が空中に浮くことなどできるはずがないからだ。


 では何故、僕にこのような芸当ができたのか。それは――

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