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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第9章 幻獣復活編

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第196話 無限復活

「ちなみに本物の我は今、地上にて幻獣とユート様の闘いを見届けています。一世一代の大決戦、自分の目で見ないと損ですから」

「……覇王が幻獣と闘っているだと?」

「ええ。もっともかなり苦戦しているようですがね。流石のユート様も幻獣の圧倒的な力の前には為す術がないようです」



 幻獣と覇王の闘い。それはまさに亡きセアルが望んでいた形であった。


 伝承によると『幻獣の門』の封印を解いた者には、幻獣の力を何に対して行使するか決める権利が与えられる。その権利と幻獣の力をもって覇王を滅ぼすことがセアルの計画だった。


 セアルの願いを果たそうと思うなら、このまま覇王が幻獣によって滅ぼされるのをただ待てばいい。しかし門の封印を解いたのはセアルではない。仮に幻獣の力が全く異なる形で行使されているとしたら……?


 それ以前に、覇王が幻獣に抹殺されたとして、キエル自身はそれで納得できるのだろうか。セアルの本懐を遂げられたのならそれで満足だと、心の底から言えるのだろうか。


 答えは否、だ。自分との決着をつけないまま覇王が第三者に殺されるなど断じて認めない。覇王が死ぬとしたら、それは自分との死闘の果てでなければならない。たとえセアルの意志に背く行為だとしてもだ。今のキエルにはそれが一番の信念と化していた。


 そうと決まれば地上に向かわなくては。エリトラの分身の言葉が正しければ、覇王は幻獣と闘っている。覇王がそう簡単に死ぬとは思わないが、奴の発言から察するに戦況はあまり良くないと見える。


 だがその前に、キエルには一つだけ引っ掛かることがあった。何故エリトラは分身をこの場所に置いていたのか。


 キエルは『幻獣の門』に目を向ける。もしやあの中に、何か見られては困るものでもあるのではないか。そう思ったキエルは、門の中に向けて歩き出した。



「おっと」



 するとエリトラの分身がキエルの行く手を阻むように立ちはだかった。



「申し訳ありませんが、この先にお通しするわけにはいきません」

「……何故だ?」

「さあ、何故でしょうねえ」



 この時キエルは確信を得た。やはり門の中には何かある。おそらくは幻獣を倒す鍵となるようなものが。地上に向かう前に、まずはその鍵を手にする必要がある。



「そういうわけで、お帰りいただけますか?」

「断る、と言ったら?」

「力ずくで追い返させていただきます」



 戦闘の構えに入るエリトラの分身を見て、キエルは小さく口角を上げる。



「これは傑作だ。分身ごときで俺を倒せるとでも? 随分と甘く見られたものだな」

「ホホホ。それはやってみなければわかりませんよ?」



 そう言いつつも、元よりエリトラの分身にはキエルに勝つ気など更々なかった。覇王が幻獣に葬られるまでの時間稼ぎができればそれでいい。唯一幻獣を倒せる可能性のある覇王さえ消えれば、幻獣の障害は完全に取り除かれたも同然だからだ。そうなればキエルが何を得たところで脅威ではない。


 一方のキエルも、相手の目的が時間稼ぎであることは察していた。かつて七星天使がエリトラの故郷を滅ぼしたことに少なからず負い目を感じていたキエルだったが、分身が相手ならば話は別だ。



「……いくぞ」



 速攻で決着をつける――その闘志を胸に、キエルは拳を握りしめた。




  ☆




 幻獣の【地界獄炎】の餌食となり、HPが0となった僕は地面に倒れ伏した。



《……終わったな。だが嘆くことはない。貴様は他の者共よりほんの少し先に逝くだけ――む?》



 ゆらりと僕が立ち上がると、幻獣は言葉を止めた。それを見たアンリ達からは安堵の息が洩れる。そう、僕はまだくたばってなどいない。



《馬鹿な。今の一撃でHPが尽きていないだと……?》

「いや、確かに余のHPは一度尽きた。まさか余のHPが0になる日が来るとはな……」



 セアルが僕の闘いで使用した【最期の煌めき】のように、死体の状態で動いているわけでもない。今の僕は確実に生きている。



「種明かしをしようか。余は貴様の攻撃を回避しながら【未来贈与】【生命の光】という二つの呪文を発動させていた」

《……【未来贈与】によって【生命の光】の効力を未来に飛ばしていたのか?》

「その通りだ。理解が早いな」



 ラファエとの闘いでも使ったが、【未来贈与】は生命以外の物質や物体を未来に転送する呪文であり、それは呪文の効力に対しても有効である。僕はそれを〝自分のHPが尽きた未来〟に発動するように仕組んでおいたのだ。



「確か貴様は言ったな、我が呪文を受けた者は〝その命が尽きるまで〟回復呪文は適用できぬと。ならば一旦命が尽きれば、その縛りはリセットされるわけだ」



 幻獣の特性の盲点を突き、僕はHPの回復に成功したのである。【生命の光】がHP0の者が対象でも回復可能であることは既にミカが証明してくれている。



「ちなみにこの二つの呪文は特に制約などは存在しない。つまり余は何度殺されようが何度でも復活できる、擬似的な不死というわけだ」

《……フッ。ハハハハハ!》



 大気を震撼させるほどの幻獣の高笑いが広範に轟く。



《不死だと? 笑わせるな。MPという上限がある以上、いずれ呪文の発動にも限界は訪れる。貴様の言う不死など妄言にすぎん》

「そうかもな。だが余のMPは100億近い。無限に発動できると言っても過言ではないぞ」

《つくづく滑稽な奴よ。貴様はHPが0の状態から回復する度に〝死〟を体験することになる。MPより先に貴様の精神が限界を迎えないか心配だがな》

「…………」



 見透かされている。HPが0になった瞬間、まるで何も見えない闇の中に突き落とされ、永遠に閉じ込められたかのような感覚に陥った。なんとか平静を装ってはいるが、先程から全身の悪寒が止まらない。


 これが〝死〟というものか。無限に発動できるとは言ったが、正直何度もこの感覚に堪えられる自信はない。



《なんにせよ、貴様の息の根を止めるには多少時間が掛かりそうだな。ならば先に目障りなハエの駆除から始めるとするか》



 そう言って、幻獣はアンリ達の方に目を向けた。

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