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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第8章 謀略のガブリ編

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第179話 外道の末路

「安心しろ、そう悲観することはない。ちゃんと救済策は用意しておいた」

「救済策、だと……?」

「そうだ。これを受け取るがいい」



 僕は懐から筒状に丸められた一枚の紙を取り出し、それをガブリに投げ渡した。無論ただの紙切れではない。ガブリはそれを広げ、大きく目を見開いた。



「こいつは【不変証文】……!!」

「ほう、知っているのか。なら話は早いな」



 第五等星呪文【不変証文】――ゲートに入る前に僕が生成したもので、二者の間で重大な契約を取り交わす時に用いる証文である。その文面は以下の通り。




 執行者――覇王ユート

 対象者――七星天使ガブリ


 この契約はいかなる場合においても無効にならず、執行者(以下、甲とする)及び対象者(以下、乙とする)が存命である限り継続する。

 乙がこの証文を認識した時点で契約関係が発生し、以下の条件を満たした場合にこの契約は成立する。


 条件――甲が提示した要求を一つ、乙が実行する。


 契約内容――甲、及びその配下(かつて配下であった者、この契約以降に配下になった者も含む)は乙への攻撃と殺傷、ステータスへの干渉、洗脳、記憶操作、拘束の類を一切禁ずる。




 証文に目を通し終えたガブリが顔を上げる。



「つまりこの契約が成立すれば、テメーらは俺に一切手出しができなくなるってことか……!?」

「そうだ。貴様にとっても悪い契約ではなかろう?」

「……条件に書かれてる〝要求〟ってのは何だ?」



 ガブリの表情からはあからさまな警戒が見て取れる。それはそうだ、これほどの契約内容に見合った要求となれば、ただならぬ内容を想定するのが普通だ。だが僕が提示する要求は至ってシンプルだった。



「貴様に要求することはただ一つ。【運命共有】を解除し、あの人間共を解放せよ」

「……は……?」



 唖然とするガブリ。見るからに拍子抜けといった顔だ。



「聞こえなかったか? 【運命共有】を解除し、人間共を解放しろと言ったのだ」

「……それだけ、か?」

「そうだ」



 ガブリは訝しげに僕を凝視する。



「どういうつもりだ……それじゃあまりにも俺に旨味がありすぎるじゃねえか……!!」

「そうかもな。だが余にはもう、貴様から人間共を解放する方法はこれくらいしか思いつかん。その証文が偽物などではないことくらいは貴様にも分かるだろう」

「…………」



 ガブリは沈黙し、食い入るような目つきで再び証文に目を通す。



「この契約を受け入れるかどうかは貴様の自由だ。もっとも、あまり考える時間は残されてないかもしれんがな」

「あと15秒。14、13……」



 アンリのカウントダウンが始まる。これが0になった時、アンリはガブリを生かすか殺すかの選択を下す。それがガブリの思考を更に締め上げていることだろう。



「10、9、8……」

「ま、待て!! まだ俺は――」

「5、4、3……」

「くっ……!! 呪文【運命共有】を解除!!」



 カウントが0になる直前、ガブリが言い放った。その瞬間【不変証文】の紙が淡い光に包まれる。契約が成立した証だ。



「……契約を受け入れたか。まあそうだろうな」



 契約が成立した以上、ガブリの喉元に剣先を突きつけても意味はない。アンリは【怨念剣】から手を離し、それを地に落とした。



「……ククッ、ハハハハハ!! だが人間共を救った代償は大きかったなぁ! これでテメーらは俺に手が出せなくなったんだろ!?」

「そうだな。もう余にもアンリにも、貴様には何もできなくなった」



 たとえ証文を引き裂いたり燃やしたりしようが、この契約が破棄されることはない。執行者と対象者が生きている限り、僕とその配下はこの契約に縛られることになる。



「だったらあとは俺がテメーをぶっ殺すだけだ!! 何もできないまま殺される屈辱を思う存分堪能させてやるよ!!」



 ガブリの仰々しい宣言を聞きながら、僕は笑みを洩らした。



「――やれ、アンリ」



 そうして僕は、アンリに最後の命令を下した。




 ドシャッ。




「……あ……?」



 鈍い音が響く。口をポカンと開けながら、ゆっくりと目線を下に向けるガブリ。奴の心臓は【怨念剣】によって貫かれていた。


 無論、僕がやったわけでも、アンリがやったわけでもない。ガブリが自らの手で、心臓を突き刺していた。


 呪文【自害強要】――僕がその発動をアンリに命じたことにより、ガブリは自害したのである。



「ああ……あああああ! ああああああああああ!!」



 鮮血を飛散させながら、ガブリは狂ったように悶絶する。【運命共有】が解除された今、人間達が道連れになることもない。あれだけ深々と心臓を突き刺してしまっては、どのような回復呪文も無意味。もはやガブリに救命の余地はない。



「げほっ……ふざ……けんな!! 契約と……違うじゃねえかあああああ!!」

「何が違う? 確かに【不変証文】で交わされた契約によれば、我々が貴様を殺すことはできない。が、貴様が貴様自身を殺すことについては何の制約もない」

「な……ん……!!」



 これぞ僕が【不変証文】に仕掛けた最大の罠。奴はこの罠に気付かないまま契約を交わしてしまったのだ。


【自害強要】はレベル300未満の者を自害させる。よって本来ならガブリがこの呪文の効力を受けることはないが、奴は【弱者世界】の影響から逃れるために自身のレベルを300未満に下げていた。奴の策を逆に利用させてもらったわけだ。



「最初に言ったはずだ。貴様には極上の屈辱を味わいながら逝ってもらうとな。憎き仇敵の悪辣な策謀に嵌り、自らの手によって絶命する。貴様にとってこれ以上の屈辱はないだろう」

「冗談じゃ……ねえ……こんなことで……俺が……!!」



 これまで僕は圧倒的なステータスと呪文で敵をねじ伏せてきた。だからこそこんな形で自分が命を絶つことになるなど、ガブリは想像もしていなかっただろう。



「貴様は自分のことを外道と言っていたが、これが本物の外道というやつだ。せいぜいあの世で復習するがいい」

「くそ……があああああ……!!」



 自害しても尚くたばろうとしない生命力の強さは称賛に値するだろう。しかしそれも長くは続かず、既にガブリの肉体は消滅が始まっていた。



「呪って……やる……!!」



 最期の最期まで、ガブリは血の涙を流しながら、憎悪に満ちた目で僕を凝視していた。



「呪ってやる……呪ってやる……呪ってやる!! たとえこの魂が地獄の業火に焼かれようと……いずれテメーは道連れにしてやらああああああああああーーーーー!!」



 どこまでも怨念の声を響かせながら――ガブリの肉体は完全に滅び、無惨な最期を遂げたのであった。

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