成功したが失敗した話
アバターキャラと不老不死どちらにしようと悩んでいたら妹がアドバイスくれた。ありがとう
ああ、失敗したなと可愛い弟子の凱旋パレードを眺めて悔やんだ。
立派になった教え子。自分のような【化け物】に育てられたのに、勇者となって、魔王を倒し、誰もが褒め称える存在になった。うん、いい子に育ったものだ。
「さてと」
当初の目的を果たすには、罪悪感が芽生えてしまった。
ならば、出来ることは。
「――うん。逃げよう」
逃げの一択だ。
始まりはいつだったかと言われたら。正直、いつから話せばいいのか困る。
まあ、ありふれてはいないが誰しも抱く野望という、いわゆる不老不死の研究をしてしまったことがきっかけだろう。
当時魔術師の自分が試してみたい研究テーマで、当然自分だけではなく古今東西魔術に関わる者は全員大なり小なり思い描いたそれを。
――叶えてしまったのだ。
そこからはまあ、地獄だった。
最初は不老不死を謳歌した。死なないのならどんな無茶も出来るとばかりに貴重な素材を集めに危険区域まで立ち入ったし、ドラゴンとも対峙したりしてみた。
それで集めた貴重な素材で貴重な魔道具や薬を作って溜め込んでいたものだが、ある日突然気付いてしまったというか。
不老不死になったことで今まで魔術以外興味のなかった自分が周りに目を向ける余裕が出てきた。研究さえできれば味など二の次だった……というか食事をすることも忘れていたのだが、不老不死になったことで時間を惜しまず食事を楽しめるようになった。
食堂で出されるコロッケに舌鼓を打っていたが、そのコロッケの味が変わったことにある日気付いた。それに疑問を抱いて尋ねたら、
「ああ。コロッケを揚げていたおばちゃんが先日やめてね」
年齢的に厨房で立っているのがしんどいと仕事を辞めた女性が亡くなったという話がそれから数か月後に届いた。
それだけではなく。
いつも贔屓にしていた魔道具屋が代替わり……いや、年齢を理由にやめていったとか、周りに見知った人たちがどんどん消えていく中でいくら魔法研究したいからという理由だけで不老不死になった自分でも人間の心があったようで恐怖で……置いてかれることが恐ろしくなって狂っていったのだ。
参ったな……人の心などないものだと思っていたよ。とかつての自分なら笑っていただろう。
それから自分のしたことは自分がどうやったら死ねるかという研究ばかりだ。何せ、竜相手で燃やされても細胞から生き返るのだ。よほどのことが無いと死ねないだろう。しかも死んでみようと大怪我を負うとその痛みはしっかりある。不老不死の際に痛覚も消しておけば出血しているのに気づかず死ねたかもと吸血鬼に捕らえられて餌になり続ける人生を味わった時に感じたものだ。
まあ、その時も死ねなかったのだが。
魔物に食べられてもわずかに残った細胞から復活するし、まあ、喰われた分も再生するという恐怖体験がなかっただけでもありがたかったかもしれない。
何回か魔王と呼ばれる存在が現れた時には率先して殺されに行ったものだ。最初はその当時の勇者の仲間で仲間を庇って死んでみたが、時間こそ掛かるが復活をするし、目の前で死んだのを見せられた勇者一行のトラウマになっていたので反省はした。
どうやったら死ねるのかと冒険者として危険区域に行き続ければ死ねるかなと期待をしていたが、実績だけ積んでしまい、優秀な冒険者として一目置かれてしまった。
そんな【化け物】になってしまった自分の目の前に【化け物】と呼ばれている子供に出会ったのは何の因果か。
助けたのは気まぐれ。いや、誰も自分を殺せないのなら自分を殺してくれる【化け物】を育ててみようという打算。
自分を殺せるほどの力を持ってくれるようにスパルタで育てたけど、あの子はしっかり付いてきてくれた。勇者になるほどの実力者になるのは意外だったけど。
「殺してほしくて育てたけど……あの子の心に傷作りそうだな」
可哀想で出来ない。
「あの子必死に探しているけど、真正面で会ったら殺してほしいと懇願しそうだな……」
やっぱ、会えないな。
「うん。逃げよう」
逃げているうちに死ぬ方法が見つかるかもしれないし。
そんな結論に達する自分はやはり壊れているのだと思ったのだった。
勇者が真実を知ったら老衰で死ねる方法を探してくれる。
烈火の炎の陽炎さん好きだったな




