第七十七集 早川翠
9月10日 12:10 任田高校 体育館 早川翠サイド
「黙ってた…と言うよりは、話す必要がなかった…から…みんな強いから…私が居なくても大丈夫だった…入学できたのは、私もわからない…」
「だいたい理解した、ありがとな。」
「うん…」
よかったんだよな、優生…お前はこれで…
「んじな五十鈴、あとは任せた。」
「えっ、急に言われましても…」
「今日はもういいんじゃねぇか?琴里。」
「そうですね、今日はもう解散にしましょう。みなさん、お疲れ様でした。」
やっと終わりか、ったく、面倒なやつらだったぜ。
思い返せば、いろいろと懐かしいな。
俺ァちいせぇ頃から優生とずっと一緒だった。
住んでるとこもちけぇし、小学校も一緒だったから、今思えばおかしいことはなにもねぇ。
一番初めは小学校低学年の頃だ、優生から遊びに誘われ、断ったら泣き始めやがった。こいつぁタチわりぃヤツだとは思ったけど、結果一緒に遊ぶことになった。
それ以降、優生は毎日のように誘って来るようになった。気づけば中学生になった、俺ァ野球部に入ったが、優生も俺について野球部に入ろうとした。
初心者だから中学生からやるなとは言わなかったが、優生には向かねぇって言って、入部させなかった。あん時もボロくそに泣いてたな。
で、俺ァ部活に打ち込むことになり、優生と遊ぶ時間がどんどんなくなってった。
俺ァ部活でめちゃくちゃ頑張った、女だからとか、身長がちいせぇからとか、そんなことをねじ伏せるように頑張った。
結果、1年生ながらベンチメンバーを勝ち取った。
だが、もちろん、気に食わねぇやつらがいた。
2010年 某中学
「おい早川、調子に乗ってんじゃねぇぞ。おめぇみたいのがベンチ入りしたとこで、チビで女のおめぇが試合に出れるわけねぇだろ!」
「はっはっ!笑えるぜ、チビなくせしてよく頑張るよ。」
「まったくだ、もう頑張んのやめたら?そろそろ女チビの限界が来るぜ?」
どこにでもいやがる連中だ、こいつらに話す時間をかけるだけで時間の無駄。
「そうっすか、じゃあ、自主練あるんで。」
「おい待てよ。」
「なっ!」
その場から去ろうとしたら、髪を掴まれた。
「おいてめぇ!何しやがる!離せ!」
「ははっ!やっぱチビだと抗う力も弱いな!」
「こんなやつがベンチ入りとか監督の目も曇ったな!」
「なめた態度しやがって、オラァ!」
背中を思いっきり蹴られた、小柄だったから、かなり吹っ飛んでった。
「ははっ!軽い軽い!これが男と女、そして身長の差だよ!」
こん時の俺ァ、理不尽とか、怒りとか、そんなもんどうでもよかった。ただただこいつらを殺そうと思った。
「翠ちゃん!大丈夫!?」
そん時だった、優生が来てくれた。
「あの人ら、翠ちゃんに対して暴力の色してたから、つけてきたの、止めれなくてごめんね…」
「優生…お前、色ってどういうことだよ…」
この瞬間から、優生が変な力持ってるって知った。人の感情が色で見えてくる、そんな訳のわからない力が。
「大丈夫だ優生、蹴られただけだ、問題ねぇ。」
「ダメだよ!!」
「なんだよ、うるせぇな。」
「だって…しく…このまま翠ちゃんに行かせたら、翠ちゃんまで暴力の色に染まっちゃう…!」
俺の感情の色まで見えてやがった。本当だったら、あいつらを殴り飛ばしてやろうかと思ったけど、優生が泣きそうだったから、さすがにやらなかった。
「あ、あなた達!なんで、翠ちゃんにこんなことするの!野球部の先生に言ってやるからね!」
「あ?てめぇもそこのチビみてぇにしてやろうか?」
ここで、俺ァ我慢できなくなった。
「さっきから、チビチビと、女女と、いちいちるっせぇんだよ。だったら、高身長で男のおめぇらなら、大したもんってことだよな?」
「んだとてめぇ!」
「チビが調子にのんじゃねぇ!」
「翠ちゃん、ダメだよ!」
2人が殴りかかってきて、そしてすぐ側に優生がいる。相手は俺だから優生に害を及ぼすこたァねぇだろうと、俺ァ1歩前に出て。
「大丈夫だ優生、余計な心配すんじゃねぇ!」
自覚はなかったが、どうやら俺にも妖気ってのを持ってたらしい。使い方はよくわかんなかったけど、なんとなく無意識で妖気を拳に乗せた。
「オラァ!!!!」
「あがっ!」
「てめぇもくたばっとけ!」
「ぐはっ…!」
呆気なかった、高身長の男でも、やっぱ大したこたァねぇな。
「おいお前、やるか?」
「ひっ!ひぃぃぃぃ!!」
残ったやつは逃げてった、思い返せばクソダサかったな。
「翠ちゃん!!」
「なんだよ。」
「ダメでしょ!人を殴っちゃ!!」
「先に手ぇ出したのあっちだろ、トントンだよこれで。てかさっきからダメダメるっせぇな!」
「そ、そこまで言わなくていきじゃぁぁんん!うわぁぁぁぁんん!!!」
「わ、悪かったよ!だから泣くなって!!」
その後、俺ァ監督に退部届けを出して、野球部を辞めた。あんなクソッタレなとこで続けてたら、俺も腐っちまう。
そこからまた時間が経って、俺も俺自身の妖気に気づくようになった。
ちょっと妖気の知識がついてきて、優生の見えるもんについて理解した頃の話だ。
2012年 某中学
「み、翠ちゃぁぁぁん!!」
「優生!?どした!!」
「なにも見えないよぉぉうわぁぁぁぁんん…!!」
優生が急に何も見えねぇって言い出しやがった。いつも人の心まで見えてんのに、何も見えねぇとはどういうことかと思った。
「大丈夫か!?待ってろ、先生呼んでくる!」
急いで先生を保健室の先生を呼びに行った。
「ごめんなさい…特に異常があるようには…」
ダメだった…
目が見えねぇなんて、どうしたらそうなんだって思った。
「優生、ちょっと待ってな!」
思いついたのは、妖気が関わってるんじゃねぇかってことだ。通常じゃ考えらんねぇことなら、妖気だったらどうにかできんだろって、学校の電話でそういう所に言えば優生を治せると思った。
「聞いたこたァあんのは…そうだ!卯道って人だ!」
すぐに電話を掛けた、すると2つ返事で来てくれることになった。
「よし、優生、待っててくれよ。」
優生が心配だから、すぐに教室に戻った。
「うぅぅぅ…やめて…やめてよぉ…しく…」
「いつもいつも泣いてばっかでキモイんだよ!」
「泣けばどうにかなるって思ってんの?」
「今目が見えないんだって?もう失明したんじゃない?かわいそうに。」
優生が、俺の友達にいじめられていた。
確かに、優生はいつも泣いてばっかだ。だけどなんだ、それが優生だ、泣くって分かってんのに、わざわざ危ないことやらかすやつだ。
そんな優生だから、俺ァ…
「おいてめぇら、なに優生いじめてんだ…」
「あ、翠…」
「翠、これは違うんだよ?話を聞いて…」
「何が違う?泣いてる優生がなによりもの証拠だ、友達だと思ってた俺が悪かったよ。」
全員殴り飛ばした。
俺とは違って、こいつらは妖気なんか使えねぇから、手加減はしてやった。
「大丈夫か優生、すげー人呼んだから、もうちょい待っててな。」
「翠ちゃん…?…しく…うわぁぁぁぁんん…!!怖かったよぉぉぉぉ…!」
「大丈夫だ、もう大丈夫だかんな。」
俺ァ優しく優生を撫でた。
その後、卯道治っておっさんが来て、優生の目を治してくれた。
「珍しい力を持ってるっすねー、気をつけるっすよ、今後妖気を使わないように。いいっすね?」
優生の目にはかなりの量の妖気が流れていて、そんで優生が妖気を使おうとすると、目に流れてる妖気が全部そっちに行っちゃうから、目が機能しなくなるって話らしい。
だから、優生はもう妖気は使えねぇ。だけど、使う必要もねぇ、優生が戦うことなんてねぇんだから。
2021年9月10日 12:10 任田高校 体育館
今は、こいつらに出会えてよかったって思うぜ。優生を泣かせたけど、ちゃんと謝ってくれるやつらだ。そして、なによりも、ちゃんと強さを評価してくれるやつらだ。
こいつらになら、優生を預けても安心できる。
「おーい翠!俺らも行くぜ!」
大将のお呼びだ、そろそろ行くとすっか!
「あいよ!大将!」




