第七十五集 特訓 〜新井班〜 弐
9月10日 10:40 任田高校 体育館
天上院が通の断空の盾を壊すと言ってから10数分は経った。だが全く先に進む気配がない、むしろ通の妖気が持つのかどうかが心配になってきた。
「て、天上院、くん。そろそろ、や、やめない?」
「まだだ!まだ俺は諦めていない!」
「ねぇ魁紀君、そろそろ止めた方がよくない?」
南江の言う通りだ、割とお互い限界に近いはずだ。天上院はさっきから殴りまくりだし、通は早川とやり合ったあとだからもう無理だ。
「そうだな、もうこれ以上やったら、特訓にならなさそうだしな。」
さてと、2人の間に入って和解させようか。
「おい天上院、そこまでにしとけ…」
「まだだ!対妖魔格闘術・羅漢門!」
「おいおい、ちゃんと人の話を聞けってうぉぉあああああ!!」
天上院に服を掴まれ、バランスを崩されて、一回転して地面に投げ飛ばされた…おいおい、めっちゃ痛てぇじゃんこれ、受け身取ってなかったら大怪我してたぞ…つかこいこれ通に使おうと思ったのかよ…
「あ、丑崎、すまん…つい…」
「ついじゃねぇよ…めっちゃ痛てぇぞ…」
さすがは対妖魔格闘術だな…うん…いろんな型があるようでいい勉強になったわ…
「ともかくだ天上院…特訓は終わりだ終わり…一旦休憩挟め…通が倒れちゃうだろ…バタ…」
「「魁紀!!」」
「「魁紀君!!」」
受け身取ったとはいえ完璧じゃなかった、こりゃ、俺も少し休憩かな…
11:20 任田高校 体育館
意識が徐々に戻ってきた、うん、まさか意識無くなるまで行くとはな。天上院、なかなか強えじゃん…
さてと、このまま倒れてる訳にはいかねぇ、そろそろ起きなきゃな。
「お、起きた。」
目を開くと、そこには羽澤の顔があった。
「あぁおはよ、まずこれはどういう状況だ?」
状況がわからん、なんで目ぇ開いたら羽澤がいる。そして何故か頭には体育館の床とは違う感触がある…おっとこれはもしや、膝枕というやつか!!
「そうだね、まず魁紀が天上院君に投げ飛ばされた後、なんか話してたけど、すぐ気を失ってたよ。」
そんな感じか…
「で、魁紀の言う通りに、みんな休憩に入って、そろそろ再開する予定だよ。」
なるほどなるほど、特訓はちゃんと続きそうでよかった。ただ…
「なあ羽澤、これは一体…」
「あー膝枕?どう?いい気分でしょ。」
そんなにドヤ顔で言われてもな…でも確かに、これは悪くない。
「せっかくだし、もう少し寝てていいか?」
「足が痺れるからダメ。」
はい即答…
仕方ない、家帰ったらやってもらおう。
「そんじゃ、特訓の続きと行こうか。夏、次は誰がやるんだ?」
「おう!起きたか魁紀!そうだな、次は孔貴に行ってもらおう。」
ここで再び新顔登場、天上院と同じく、軽く紹介しよう。
鳴宮孔貴、第一班所属、妖術コース。短い金髪のツーブロで、首に孔の字の刺青が入ってる。服装は普通の学ランだけど、学ランの全ボタンとシャツの第二ボタンまで開けているので、首の刺青がよく見える。
武器は刀で、名前はわからん。妖術コースだからたぶんそれなりの剣士だ、うん。
「特訓と言ったって、ただ試合するのが果たして特訓になるのかねぇ…」
「やらないよりかはマシですよ、試合を通して分かることもありますから。」
鳴宮のぼやきに五十鈴が返す。確かに特訓と言うほど特訓かどうかはわからんけど、夏と五十鈴がやりたいって言ってるし、実際通の盾を前にどう戦うかも1つの勉強になるからまあいいんじゃないかな。
「はいはいわかりましたよ、総班長殿。」
「よ、よろしく、鳴宮、君。」
「大丈夫大丈夫、僕そんなに強くないから、心配しないでー。」
「え、えぇ…」
強くないって言うやつに限って強いんだよなぁ…
「先に言っておくと、僕は対妖魔剣術の直心影流を使うんだけど、全然芸が無くてね…刀も後家兼光っていい刀なんだけど、僕にはもったいないんだよね。」
名前はわからんけど、名前がちゃんとついてるってことはいい刀のはずだ。
「まあこんなこと言ったからって、やらなきゃいけないらしいから…参る。」
鳴宮が構えを取ると、空気が変わった。とてもじゃないけど、最初に自分で言ってたように強くないようには見えない。
「ねぇ魁紀君、鳴宮君のオーラが消えたよ。さっきまで薄い青色だったのに。」
鳴宮のオーラが消えたと松田は言う、オーラが無くなることはどういうことなのかはよくわからんけど…
「それって結構おかしいことなのか?」
「うん、だって、なにも感じてない、なにも思ってないって事だもん。」
それは確かにおかしいな、なにも感じない、なにも思わない。特訓してる最中にそんなことは無いはずだが…
「な、なんだか…いやな、よ、予感が…」
「対妖魔剣術・八相発破。」
早川と天上院とは打って変わって、最初の場所から1歩も動いてない。
「うっ…!しゅ、守護の!盾!!」
少し焦って守護の盾を放った通。黄金で透明な盾が現れたが、焦ったのが原因となったか、守護の盾は破られた。
「さ、さっきの2人とは…違う…」
通は自分と、鳴宮の状態が分かっているかのように言う。
「ほら、言ったでしょ、僕はそんなに強くないって。8回も突いてやっと盾を壊せたんだもん。」
「「8回も!?」」
観戦の俺らが全員口揃えて驚いた。そりゃそうだ、あんな一瞬で8回も突いたとなると、最早人間業じゃねぇぞ。
「僕に出来るのは、速いだけだ。力も弱いし、頭も弱い、教えられた通りにやるしかないのさ。」
やっと夏の班からゴリラじゃないやつが出てきてホッとした…
それはさておき、いくら焦って妖気制御が乱れた守護の盾とはいえ、そう簡単に破られるもんじゃないはずなんだけど。
「な、鳴宮、くん。8回の、突き、全部同じ場所、だった、ね…」
「いやぁたまたまだよ、そんな芸当、滅多に出来ないよ。」
滅多にできないって言ってるけど、その滅多をこの時に持ってくるとはすげぇこった。予想だけど、鳴宮はたぶん、自分で思ってる以上に、器用だと思う。
力が弱くとも、正直問題ない、それ以外のとこを伸ばせばいい。となると、力の代わりになるのは器用さだ、8回の突きを全て同じ箇所に突くのはたまたまじゃ出来るもんじゃない。
2回連続ならまだしも、それが3回4回以上となるともう話が違う。
だったら、最初の頃の梁みたいに、サポートを受けながら技の方を特訓すればもっと出来るかもしれん。
「鳴宮、しばらくうちの班の梁と健太、そんで松田と一緒に特訓しないか?」
「え、そんなに期待されると困るんだけど…」
めっちゃ困惑な顔された…
「いいと思いますよ、鳴宮さん。第五班のみなさんは特訓のスペシャリストのようなものなので、信じて大丈夫ですよ。」
そんなに特訓に打ち込んだ覚えはないけどまあいいか。
「そういうことなら、よろしく。」
「あーそうだ、気になった事があったんだけど。」
「ん?なんのこと?」
最初のオーラが無くなった原因を探らねばな。
「構えを取った時さ、なんか考えてた?」
「構えを取ってた時?特になにも考えてなかった、と言うより、無意識に構えを取るんだ。僕の家はそういう訓練をしてるから、癖のようなものだよ。」
なるほど、無心の構え的なやつか。だったら納得だ。
「よし、じゃあ次はどうする?」
「そうですね、残りは真木さんなのですが。」
「私はぁ、遠慮しておこうかな…」
「どうしてですか?今後またなにが起こるかは分かりませんので、この機会に訓練した方がいいと思いますよ。」
あんまり乗り気ではない真木に、五十鈴が問いかける。
「うぅぅ…だって…私…なにも出来ないんだもん…」
五十鈴の言い方がちょっと怖かったか、真木がちょっとずつ泣き始めた。
「その、泣かせるつもりは…」
「琴里ちゃんは何も悪くないよ。」
五十鈴と真木の間に、羽澤が割って入った。
「優生ちゃん、あなたなんのためにこの学校に来たの?ちゃんと理由があって入ったんでしょ?そして、入れたってことは、ちゃんと評価されるた点があるってことでしょ?だったら、やれることをやらなきゃダメだよ。何も出来なくて泣きたいのは、あなただけじゃないんだから…」
「羽澤…さん…」
羽澤の表情が、少しだけ入学当時の顔になった。
羽澤も同じ境遇だった、なんなら羽澤のがもっと辛い思いをした。なにも出来ずにお母さんと弟を目の前で殺されて、それでかつ敵討ちも出来なかった。言ったことは厳しいけど、真木を思ってのことだろう。
「おいてめぇ羽澤、なに優生いじめてんだよ。ぶっ飛ばすぞ。」
「事実を言っただけだよ。それに、あなたと私じゃ相性が悪いから、ぶっ飛ばせないよ。」
「ナメてんのか!!」
「そこまでにしてください、先程葉月先生が言ってたことをもう忘れたのですか!」
また喧嘩になりそうだった所、五十鈴の一喝で一応は収まった…と思う…
「はぁ…ごめんね優生ちゃん、きついことを言ってしまった。」
「うぅぅ…だ、だいじょうびゅ…しく…」
だいじょうびゅって…大丈夫じゃなさそうだけど、まあ時間が解決してくれるだろ。
「ったく、優生のことを知りもしねぇでベラベラベラベラと。」
その言い方だと、真木には何か特訓できない事情があるんだろうな。今後のため、聞けるなら聞いておきたい。
「黙って聞いてれば…!」
「待て羽澤。なあ早川、その真木のことってのを、なにか知ってるな?」
羽澤がまた熱くならないように話を遮って、早川に知ってることを話してもらおう。
「知ってるも何も、ガキの頃からずっと一緒だからな。」
幼なじみと来たか、なんかうちのクラス幼なじみ多くね?
「なら今日は特訓中止して、その話を聞かせて貰えるか?」
「丑崎さん、それは…!」
「琴里、今日はこんくらいにしとこうぜ。俺らももっと互いのこと知っとくべきだと思うぜ。」
「夏まで…分かりました、今日は特訓中止して、話をしましょう。」
ゴリラのくせにいいこと言うじゃん、助かったぜ夏。
「どうだ魁紀、今の俺、かっこよくねぇか?」
「その一言さえなければかっこよかった。」
「ガーン!!」
それは口に出して言うことじゃねぇぞ。
「ではみなさん、ベンチの所へ行きましょうか。」
五十鈴の指示で、みんな揃って壁側のベンチに座った。
「では真木さん、あなたの話を聞かせて頂けますか?」
「いいのかよ、優生、その話しても。」
「うぅぅ…しく…大丈夫…いつかは、話さなきゃだから…」
よし、ちゃんと話してくれそうでなによりだ。
「じゃあ俺が優生の代わりに話すぜ。」
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