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干支十二家妖魔日記  作者: りちこ
貴族騒乱編
78/193

第七十三集 おとん、おかん

  9月10日 9:00 1年5組教室


  「よしおまんら、各自で特訓せぇ、必要ならわしを呼ぶとええ、職員室で待っとる。ほんじゃあな。」


  葉月先生は学校が始まると、だいたいこんな感じで授業することなく、職員室に戻っていく。


  「葉月先生っていつもそうだよね、ホームルーム終わるとすぐどっかに行っちゃうの。」


  「そうだよねぇ、葉月先生いつも青くて黒いオーラ出してるんだけど、大丈夫なのかなぁ…」


  南江が言うと、松田も心配そうに続いた。


  青くて黒いオーラ、松田がオーラの内容をどう捉えているかは分からないけど、あまりいい意味では無さそう。


  「ま、松田さん。そ、そのオーラって、だ、大丈夫なの?」


  「うーん、悪くは無いけど、良いって訳でもないんだよね。落ち着いてはいるけど、なにか野心を隠してるって感じがするの。」


  野心か、だいたい想像つくな。


  「先生って確か貴族嫌いだったよな?」


  「そうだね、始業式の時殺気凄かったし…」


  健太と梁も察してるみたいだな。


  葉月先生はかなりの貴族嫌いだ、始業式の時も、教室に戻ってきた後も自分で言ってたくらいだ。貴族制度の撤廃をすると言うのはいいけど、あんまり1人で何か抱えて欲しくないものだ。


  9:10 職員室前廊下


  「待っとれよ、クソ貴族共が、絶対に引き剥がしてやる…」


  この15年間、おまんらを恨まなかった日はない。わしから家族を奪った罪、償ってもらうで…


  中1の頃、わしゃ妖術なんかと関わりはなかった。あの女妖魔が襲って来るまでは…


  15年前のある日


  「ただいま!」


  「おかえり大地、今日も早かったね!」


  どこにもあるような家庭じゃった、おかんがご飯を作って、おとんが仕事に行く、わしゃ学校に行く。そんな当たり前な日常じゃった。


  「今日はおとん帰って来るの遅いんか?」


  「うーんどうだろうなぁ、おとんからは何も連絡ないから、たぶんいつも通りに帰ってくるよ!」


  強いて言うなら、おとんが(しのび)だったということじゃ。ただ、それを差し置いてでも、わしゃ幸せじゃった。


  「早う帰ってきて欲しいなぁ、話したいこといっぱいあるんじゃ!」


  「もう、その歳でそんな語尾になっちゃって…おとんが帰ってくる前におかんが話聞くよ!」


  じゃが、そんな時じゃった。


  「2人とも!早く逃げるんじゃ!!」


  おとんの焦った声じゃった。あんなに焦った声は今まで聞いたことない。


  「お、おとん、どうしたんじゃ!」


  「いいから早う逃げるんじゃ!!」


  「ああああああああぁぁぁ!!」


  「なんじゃ今の悲鳴は…」


  おとんの声じゃなかった、安心はしたが、それどころじゃなかった。


  「希枝(きえ)!大地を連れて逃げろ!わしも後から行く!」


  「わかった!大地、行くよ!」


  「おとん!また後でな!話したいこといっぱいあるんじゃ!」


  「なんだ、わしそっくりの語尾になったな!話ならあとでいっぱい聞いてやる!今は行け!」


  「うん!!」


  おかんはわしを連れて、近くの駅に向かった。すぐに安全な街に行く予定じゃったが…


  だが駅に着いた時、なぜか駅は氷漬けじゃった。


  「な、なんじゃこれは…」


  ビビってそれしか言葉が出なかった。


  「希枝!大地!逃げろぉぉ!!」


  おとんの声じゃった、追いついたのかと思ったが、違った。


  「それらは、君の家族、かな?」


  1人の女がおとんの後ろから歩いてきた。黒いフードにマント、少し見える青白い肌。人間の見た目をしとったが、同じ生き物とは思えんかった。


  「おまん!これ以上近づくな!」


  「断るよ。死んだ人間の血が欲しいんだよ、許してよね。」


  平然としてる割にはぶっ飛んだ話をしちょった、こいつが噂に聞く妖魔なんじゃって初めて認識できた。


  「でも心配しないで、すぐに殺すような真似はしないから。氷漬けになって、ゆっくり残った人生を楽しんでね。」


  「おまん!なにを言うちょる!!」


  「では、さよなら。」


  「「大地!!」」


  女は手を前に振ると、吹雪が襲ってきた。


  じゃがおとんとおかんは、2人重なってわしを庇ってくれた。ビビって動けなかったわしを…


  「良い家族だね、では残った人生を楽しんでね。」


  女はそう言って立ち去った。そして半分氷漬けになった両親と、わしが残った。


  「危なかったな、大地。」


  「大地、大丈夫?」


  おとんとおかんは、氷漬けになってもなお、わしのことを心配してくれちょった。


  「わ、わしぁ…」


  「心配すんな大地、こんくらいの氷じゃわしらは死なん、大丈夫じゃ。」


  「おとんの言う通りよ、あの女もいなくなった事だから、早うお逃げ。」


  「そんこと出来るわけないじゃろ!わしがおとんとおかんを助けるからな!」


  両親を置いて逃げれる訳がなかった、わしは必死に氷を手で温めて溶かそうとした。


  「諦めの悪う子じゃ、誰に似よったんか…」


  「今更自己紹介?おとんも随分諦めが悪いでしょ。」


  「冷てえ…でも2人とも、わしが絶対助ける!」


  おとんとおかんはその時も、笑って話しちょった。こんなことさえなければ、わしらは…


  「なんでわしがこんな目に合わないきゃいけないんだ!!無能な護衛め、あんな妖魔からすらわしを守れんとは何事だ!!」


  その時だった、氷漬けにされとるおっさんがおった。護衛が無能とかほざいてるこいつが、今の藤原家当主、藤原長政(ふじわらながまさ)じゃ。


  「なんじゃあれは…」


  「あの方は…三大貴族の藤原家次代当主、藤原長政様じゃな。次代がかなり心配されるお方じゃ。」


  そんなやつがこんな所で氷漬けになるとか、残念じゃなと思っていた。


  「まだ生きてるか!今すぐ助けるから待っててくれ!」


  救助隊が来てくれたんじゃ、3人くらいおったし、これならわしらは助かると思った。


  「おい!そこの救助隊!早くわしを助けんか!次代の藤原家当主を放置したお前らにいい未来があると思うなよ!!」


  「ちっ、こっちはオイラがやるから、2人はそっちに行ってくれ。」


  1人はこっちに残ったが、2人は藤原の元へ行った。まあどっちにせよ、家族全員助かると思って、安心していた。


  「あ、ありがとうございます…」


  「いいっていいって、坊主はよく頑張ったな。」


  「わしゃなにも…」


  「そんな顔をするな、うちに子供は3人いるけど、こんなに親のために張り切ってるやつなんていないぞ。まあ1人は生まれたばっかだから仕方ないけど…」


  この時名前は聞けんかったが、この人は今の小戌丸家の当主、小戌丸一(こいぬまるはじめ)じゃった。今の妖術救助隊に長男の(つよし)、国立対妖魔守護大学に次男の(まさし)、任田高校1年2組に三男の(ただし)


  今となっては3人とも優秀なやつらじゃ、小さい頃はそんなんじゃとは思えんが…


  「お前は無事のようだな、お父さんとお母さんが守ってくれたんだな。よし、今2人の氷を…」


  「おい!そこにおるお前!なぁにをしておる!!早くわしを助けんか!」


  2人の救助隊が向かったはずじゃったが、藤原はそれでも助けろと喚いていた。


  「3人でわしを助けろ!そして安全な場所まで3人でわしを護衛するんじゃ!!早くせんか!!お前は、小戌丸一ではないか!早く来んか!誰のおかげでお前がその立場にいると思っておる!」


  「ちっ、これだから権力を持った貴族は…」


  当時は事情を知らんかったからこの時は何も言えんかったが、妖術救助隊の設立には藤原家が関わっちょる。設立に関わっただけで自分の権力振りかざしてきたっちゅうわけじゃ。


  「おとんとおかんは助かるんよな!」


  「あぁ、大丈夫だ、オイラが必ず助ける。お二人さん、オイラに命を預けてくれないか、この子は必ず安全な場所に届ける。それと同時にあのおっさんもどうにかしないといけない、オイラが戻って来るまで、もう少し踏ん張ってくれないか。」


  小戌丸さんの提案には正直乗れんかった、今ここで助けんとあとで殺されるかもしれんのに、おとんとおかんを置いて行くのはアホな考えやと思った。


  今ならわかるが、小戌丸さんも立場のある人や、上の人に逆らえん時は必ずある。じゃから仕方なかったんじゃ…そうわし自身に思わせたかったんじゃ…


  「大丈夫じゃ、大地のことは頼みます。」


  「こんな氷、頑張って耐えますよ!」


  「感謝する…坊主、大地って言ったか、いい名前だ、行くぞ。」


  「おとんとおかんは助けないんか?」


  「後で必ず助ける、だから今はオイラと一緒に逃げるぞ。」


  わしもやっぱガキじゃった、助けると言ってくれたから普通に信じた。


  「では、また後で。」


  「おとん、おかん、待っとるからな!」


  最後におとんとおかんと話したのは、それが最後じゃった。


  小戌丸さんはわしと藤原を助けた後、すぐに現場に戻った。じゃが時すでに遅しじゃった。現場には完全に氷漬けになったおとんとおかん、そして2人の足元に落ちたおとんの忍者刀だけじゃった。

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