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干支十二家妖魔日記  作者: りちこ
貴族騒乱編
77/193

第七十二集 魑魅魍魎

  9月9日 12:30 任田高校 体育館


  「では、今日はよろしくお願いしますね、皆さん。」


  先日の夏に続き、今日は五十鈴の特訓に付き合う日である。


  前は火事起こしそうになって消火してもらったのに、職員室に全員連れていかれたのが相当不満だったらしい。


  それで今日は五十鈴の特訓に付き合うということになった。相手は夏、せっかく覚えた筋肉妖気を忘れない為にも、慣れておきたいらしい。


  「おまんら、今日はわしが見とるから、前みたいにまた水遊びしだしたら、覚悟を決めるんじゃのう。」


  「「は、はい…」」


  ガヤは葉月先生、龍太郎、羽澤、そして俺である。羽澤はうちのクラスの陰陽スペシャリストだから、五十鈴が呼んだ。


  「では夏、行きますよ。」


  「おーよ!」


  事前情報で聞いたのは、五十鈴は陰陽を得意とするが、攻撃ではなく、幻惑を特に得意とする。だいぶ前に俺たちの記憶を消したのもその一部だ。


  だが使える相手は限られてくるらしい。記憶を消せたのも限られた範囲だし、相手の妖気の強さにも影響される。


  「幻呪符(げんじゅふ)魅鵜(みう)。」


  「ん?何が起きたんだ?」


  特に何かが起こったわけではなさそう。


  「どうしたのですか夏、斬りかかって来ないと特訓になりませんよ。」


  「それもそうだな!筋肉妖気!初夏ノ段・麦の秋か…な!?」


  口に出さなくてもいいだろそれ…


  それはそうとして、夏が攻撃をやめた。五十鈴はさっき幻呪符とやらを唱えてからなにもしてないのに。


  「夏、なんで攻撃を止めたんだよ。」


  「いや、攻撃をしようと思ったら、琴里の方から俺の麦の秋風が飛んでこようとしたんだ。」


  「やっぱり、夏には効きませんでしたか…」


  「やっぱりってどういう事だ琴里。」


  幻惑系だったらむしろ夏にはよく効くと思うんだけどな。どうしてだろう。


  「夏に幻惑はかけたのですが、夏の反応には敵いませんでした…」


  「つまり、どういう事だ?」


  「魅鵜(みう)は、受ける攻撃を相手にそのまま返す幻なのですが、反応されて攻撃を止められてしまうと発動しないのです。」


  「なるほどなぁ、今のは俺の勝ちってことだな!」


  頭の中お花畑なのかこいつは。


  「いいえ、まだです。続きと行きましょう、幻呪符・魑雪(ちせつ)。」


  「今度はなんだ?ん?琴里が3人!?」


  五十鈴が3人に増えた、今度は俺らも巻き込む幻か。


  「なんだよ琴里、攻めて来ねぇのか。」

 

  「せっかちなのは変わらないですね…では、水呪符・(ばく)。」


  五十鈴の頭上から激流が射出される、ただどこか違和感がする。


  「なるほどのう、ありゃただの子供だましじゃ。」


  「どういうことですか?」


  「なんだ幽奈、おまんにはわからんか。まあそうじゃのう、結論から言えば、琴里の分身には妖気がないんじゃ。」


  妖気がない、ということは攻撃にも妖気が乗らない。つまり分身にそれほどの意味は無いということか。


  「だが、幽奈みたいに妖気があるかないかがわからないやつには、あれは相当効くんじゃろうな。」


  確かに、妖気が分からなければ同時に3人から攻撃されると思ってしまうんだろうな。俺も一応わかる部類ではあるけど、健太みたいに妖気の流れ、増減はわからんからなぁ。


  「うぉっ!?3人で攻撃すんのはズリィだろ!!」


  「今更何を言っているのですか…」


  「だが!琴里の攻撃を受けるのが俺の責務!うぉぉぉぉぉ!!!」


  夏ってもしかしてM属性でもあったのか?今度鞭でしばいてやろうかな。


  そして術は夏に当たり、夏が吹っ飛んで、びしょ濡れになった。


  「あぁ痛ってぇ…でもなんだ、3人の割には火力が弱いような…」


  「また気づかれてしまいましたか…」


  「ん?なんのことだ?よく分からないけど行くぜ!」


  あいつが気づくわけねぇか…筋肉頭なんだし。


  「気づかれてないのに突き進まれるのは困ります!幻呪符・魎牙(りょうが)。」


  「今度はなんだ?って、琴里なんでそんなデカくなっちまったんだ!?!?」


  五十鈴がデカくなった?こっちから見たら普通通りだぞ。


  「どうせ幻覚だろ!気にしないで突っ込むぜぇ!!ってあっ…」


  「どうしました夏、来なければこっちから行きますよ。」


  五十鈴はとりあえず陰陽を使う構えをしたが、夏は何か見たかのような顔をしている。


  「琴里…お前デカくなるのはいいけど…パンツ…見えてるぞ…しかも黒って攻めてるなぁあがぁぁぁ!!!」


  五十鈴が陰陽の構えをしていたけど、夏の発言により顔面へのグーに変わってしまった。


  これは…何も見なかったことにしよう…うん…


  13:30 食堂


  夏があんな感じだったというのもあって、五十鈴の特訓は意外と早く終わった。まあ、あれは夏が悪い、仕方ないね、うん。


  「にしても、やっぱ琴里ってすげぇな!いい特訓になったぜ!」


  「私は全然いい特訓になりませんでしたけれどね…」


  そういう反応になるよな…


  でも幻呪符(げんじゅふ)か、また珍しい陰陽を使うもんだ。


  幻呪符、名前の通り幻を生じさせる陰陽。その幻は使い手によって様々である。


  例えば五十鈴の場合、自分を大きく見せたり、攻撃が返って来るように見させたり、分身を作ることが出来る。そしてなにより、過去に俺らの記憶を消したというのが1番よくわからない。うん、こういう時によくわからないというのもあれなんだけど、幻なのに記憶を消すってなんか違くない?ってなる。まあそこはいいや。


  で、幻呪符には明確な弱点がある。


  大前提として、幻呪符は相手にダメージを負わせることは出来ない。なにせ幻を見せるというのがメインだから、それ以上もそれ以下も出来ないということだ、これはまだいい。


  最大の問題は、効かない相手にはとことん効かないということだ。


  夏のように感覚でどうにか出来ちゃうやつもいれば、妖気の格の差で効かないということもある。つまり自分と同等くらいの相手には刺さる陰陽だ。


  ただ葉月先生や健太みたいに、妖気の流れが分かっているとしても、当たっても大丈夫な攻撃を避けなくてもいいと考えるには、少なくとも俺らにはまだまだ出来ない。なんでかと言うと、ついビビっちまうからな。いや、ね?ビビるでしょ?攻撃来たら、ね?


  「なぁ琴里、また明日も特訓しようぜ!」


  「私は遠慮させていただきます、夏が相手だと色んな意味で調子が悪くなってしまいます…」


  「そ、そこまで言う必要は…」


  「あります。」


  これはもう何言ってもダメだな。


  「そんなことはええんじゃが、琴里、おまんまだ1つ陰陽を隠しとったろ、どうしてじゃ?」


  葉月先生が問いかける、1つ隠すとは言うものの、なにをどう隠してるんだ?


  「なぜそう思うのですか?」


  「疑問になるのも当たり前じゃろ、気にし過ぎならええんじゃが。陰陽の名前に魑魅魍魎の魍以外が入っとったろ、魍だけないのはなぜじゃ。」


  言われてみれば確かに、魅鵜(みう)魑雪(ちせつ)魎牙(りょうが)、魍以外の文字が入ってる陰陽だ。


  だけどそれが何を意味するんだ?


  「昔聞いたことがあってのう、魑魅魍魎というんは、あの哪吒太子(なたたいし)が退治した4体妖魔なんじゃ。そして、その4体の妖魔を元にした陰陽があるとも聞くんじゃが、使用者は全員漏れなく、呪われちょる。」


  呪われ…る…


  「原因は知らんが、世間では祟りという扱いで済ましちょる。だが呪われてるからいうて、皆死んどるわけやない、使用者もその陰陽が呪いに見合うくらいの力があるから、呪いを払ったりしないんじゃろ。」


  その呪いがどういうものにもよるけど、呪われるまでして使いたい力なのかな。


  「存じております、葉月先生。ですが、私は呪いは怖くありません。どんな呪いが降りかかろうとも、私はこの陰陽で戦います。根元先生のためにも。」


  「洋海のやつ、ええ生徒を持ったのう、わしにゃ勿体ないわ。なら話はここまでじゃ、すまんかったのう。あと1つの陰陽、頑張って習得せぇよ。」


  「はい!」


  大きな力には大きなリスクが伴う、五十鈴も承知の上だろう。ただ大きな力とはいえ、夏にはそこまで効かなかったけど、まだまだ上があるということなのかな。


  ともかく今日はなんもしてないけど疲れた、早く帰って羽澤にご飯作ってもらって寝よう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 幻呪符、使い方次第では強力な手札になりそうですね。 格上に効かない等、弱点は確かにありますが、分身して本命の攻撃がどれか分からなくしたり、分身を囮にして背後から術をぶつけたり、応用力の問わ…
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