第六十八集 新学期
9月4日 7:30 自宅
「いいから!わしに護衛をもっと付けんか!さっさと護衛を付けろ!そうだ、小戌丸強、あやつだけでもわしに付けろ!」
テレビを付けたら、三大貴族の当主の1人が喚いていた。
「日光の件も、洛陽の件も、最近は妖魔が暴れ過ぎなんじゃ!早く何とかせい!」
「何とかしなくてもいいから妾を守ってくれたまえ、妾さえ生きておればどうにでもなる。」
続くように、1人の男と女も喚いていた。
これだからなぁ、貴族は好きじゃないんだよな。
三大貴族、それは平安時代かそれより前から続いている家のことだ。藤原家、源家、平家の3つだ。
ちなみに、これはあくまで大元の御三家みたいな物で、さらに細かく分けると大変なことになる。
「以上、三大貴族当主の皆様からのお話でした。」
「貴族って変わらないよねぇ、保身ばっかしか考えてない。」
「仕方ないんじゃないかしら、昔からいるお偉いさんなんだから。」
羽澤と鬼寅も同じ考えのようだ。あ、ちなみに鬼寅は材木座海岸の祭り以降、うちに住むようになってしまった、はい。
「貴族制度って撤廃出来たりしねぇかな。」
「無理よ、今の貴族は総理大臣よりも偉いもの。」
なにその社会、俺日本から離脱したい。
「まあそんなこと考えても、私らには関係ないことかな、ほら2人とも、学校行くよ!」
そうだな、新学期早々遅刻したくないし、学校行くか。
8:30 1年5組教室
夏休みが終わり、再び学校生活が始まる。教室にはみんなが集まっている、休みはいない。強いて言うとすれば…
「先生…来ませんね…」
五十鈴の言葉が教室に響く。もう2ヶ月も経つけど、根元先生がいないという事実に、心が追いついてこない。
「辛気臭いクラスじゃのう、こんなクラスじゃと洋海も報われんわ。」
知らないおっさん…人が入ってきた。右目には傷跡、顔の鼻から下は黒い布で覆われている。格好としては、なんか昔にいた流浪人みたいな全身ボロい布の服だ。武器は根元先生同様刀1本を腰に添えてる。
「すみません、あなたは?」
「わしゃ葉月大地、洋海の相棒じゃ。」
相棒?
「そんな話、根元先生からは一言も…」
「そりゃそうじゃ、わしゃ忍もやっとる人間じゃからのう、身元が割れるわけにゃいかんのじゃ。ほんで洋海は風神の力使っとったじゃろ?わしゃその逆の雷神の力が使えるんじゃ。」
忍、今時珍しいな。風神雷神、そういう意味でこの人と根元先生は対をなす存在ってことか。
「それでじゃ、今日からわしがおまんらの担任じゃ、安心せぇ、洋海の後任はわし以外じゃ出来ん、時間はかかると思うが、仲良くしてくれ。よろしゅう頼むわ。」
新学期早々、なにも告げられることはなく、俺たちのクラスに新しい担任が来た。みんなの口が開いたまま状況について来れてないのは、説明しなくても理解して頂けるだろう…
「よし、ほんじゃおまんら、今から始業式じゃ、体育館に向かうぞ。」
「「は、はい…」」
どういった経緯で葉月先生がうちの担任になったのか、何が出来るのか、どういう人なのかなどの説明がほぼなく、新学期が始まろうとしていた。
9:00 体育館
「皆さん、おはようございます、校長の藤原蓮火です。」
校長先生が壇上に上がった、ただなんだか具合が悪いような顔をしてる。大丈夫?話聞こか?
「今朝のニュースを見た方はわかると思いますが、貴族の方で少し問題がありまして…それで少し悩んでいるのです…」
わざわざ始業式で話すことかな…自分の家の問題を…
「三大貴族、しかも藤原家ともなれば、さぞ大変なことじゃろなぁ。」
ちょ、ちょ待てよ。今の声葉月先生だよな、腕組んで壁に寄っかかってるし!校長先生の話の最中になにぶっかましてんの!?
「ふふっ、変わらないですねぇ、葉月先生ぇ。」
「紫か、ご無沙汰やのう。」
「お久しぶりですぅ。でもぉ、校長先生の話の最中はぁ、あまり口を挟まない方がいいと思いますよぉ?」
「思ったことを言っただけじゃ、貴族の事が嫌いじゃないとしても、同じことを言ったわ。」
葉月先生と紫先生は前から知り合いなのかな、あの話の感じからして。
「すみません葉月先生、話してることはご最もです。皆さんにも説明しなければならないことですが、今朝のニュースで出ていた方の1人は、私のお父様でございます。」
お父さんって、小戌丸の兄さんを護衛に付けろとか言ったあいつか。
「日光の時はまだしも、この前の洛陽での事件のせいで、貴族達は保身のことしか考えておりません…」
「保身…か…めでたいのう、貴族の頭は。」
葉月先生から干支神獣の気迫とは違う気迫を感じる、殺気?なのかな…でも殺気だけでここまでの気迫があるとは…
「いや、これは失礼した。校長先生の話を妨げてしもうたわ、失礼失礼。」
「いえ…お気になさらないでください…あなたが貴族嫌いなのはわかっていますから。」
貴族嫌い、貴族嫌いなら俺もそうなんだけど、あそこまでの殺気を放つ程嫌いともなると相当なものだ。
「皆さんは今朝のニュースについては、あまり気にしなくても結構です。皆さんは勉強や訓練に励んでください、新学期も始まりましたことですので、これからも頑張ってください。私からは以上です。」
校長先生の話はなんだか閉まらない形で終わった。そして葉月先生についての謎がまた色々増えた。
9:40 1年5組教室
「さっきはすまなかったのう、おまんら。わしゃ貴族が大嫌いじゃからのう、ついああいう態度を取ってしまうんじゃ、いやはや面目ないわ。」
やりすぎたことかもしれないけど、実際自分のことになれば、俺もイラついた態度を取るだろうな、茨木童子が根元先生を殺した時は特にそうだった。
「それでじゃ、なぜわしがこのクラスに来たか、訳を話そう。」
この話を待ってた、何の連絡もなかったからな。
葉月先生は椅子に座り、語り出した。
「本来であれば、おまんらは1組と合併する予定じゃった。全員の成績も実力も優秀じゃから、1組と一緒に紫からいろいろ教わるはずじゃった。」
1組と合併か、張璇がいるから訓練とかは楽しそうだけど、雪代と千代川がなぁ…
「そこで校長の藤原がわしに声をかけてきた、洋海のクラスを継いではくれないかとな、土下座までされてしまったわ。」
校長先生がわざわざ…?
「さすがにわしも人じゃ、しかもわしの嫌いな貴族に土下座までされてしもうたから気分が悪くなってのう。仕方がないから引き受けてやったわ、洋海のためにものう。」
「他に受けた理由はないのですか?貴族嫌いな葉月先生なら、断ってもおかしくないと思いますが。」
五十鈴が問いかける、でもご最もだ、それだけじゃ引き受けた理由にならない。
「おまんが総班長の五十鈴か、いい面構えじゃ。そうじゃのう、おまんらだけに言うとくわ、貴族制度の撤廃をするためじゃ。」
貴族制度の撤廃、確かにそれが出来れば、世の中はもう少し動きやすくなる、でもどうして…
「貴族制度の撤廃…ですか…」
「そうじゃ、そしてこの話を持ってきたんが、校長の藤原じゃ。」
「校長先生が!?」
五十鈴が驚くのも無理もない、貴族である校長先生が自ら貴族の立場を捨てようとしてるということは、もしこのことが他の貴族に知られたら、校長先生は死ぬだけですまねぇってことだ。
「藤原は今の貴族、主に藤原の親世代が相当気に食わんらしくてのう。古臭い考えと保身しか脳にない貴族は存在しなくていいという発想らしい。そして貴族嫌いのわしに頼めば、引き受けてくれると思ったんじゃろ。」
自分の計画のために葉月先生を呼んできたわけか、でもそうだとして、一体どうやって撤廃させようとしてるんだろうか。
「ただ、どうやって撤廃させるかは、まだわからんらしいわ。」
「「えぇ…」」
「ははっ!そう困った顔はするな、わしの今の1番の目的はこのクラスの教師をすることじゃ。こう見えて洋海と一緒に教職免許は取っとる、剣の腕と妖術は洋海が上じゃが、陰陽と武術ならわしのが上じゃ。なんでも聞いてくれ!」
陰陽と体術か、俺が特に聞きたいことはなさそうだけど、忍なら忍術とか使えると思うし、そこは教わりたいな。あと気になるのは始業式で見せたあの殺気だな。
「ほんじゃ今日からわしらは新生1年5組じゃ、よろしゅう頼むわ!」
「「よろしくお願いします!」」
新しい担任である葉月先生を迎え、俺たちは新しい1年5組として再スタートした。そして色んな疑問と問題を抱え、前へ進むこととなった。




