第六十七集 花火
7月23日 17:30 材木座海岸
花火まであと1時間半、もうそろそろ花火の時間とか言って屋台エリアに戻って来たけど、全然暇だわこれ…
「花火全然先じゃない。」
「うん、ごめん…」
普通に間違えた、よくよく考えたらそうだよな、今の時期の18時ってまだ明るいもんな、そんな時間に花火上げたところで意味無いもんな。
「魁紀ぃ!助けてくれぇ!!」
「魁紀!今までどこ行ってたのよぉ!」
夏と羽澤か、どうした、そんな何かから逃げてるような顔は。
「どうしたお前ら、なんかあったのか?」
「なんかあったじゃねぇよ!琴里が、琴里のやつが!」
「とにかくおかしくなっちゃったんだよぉ!」
よくわからんが五十鈴がなにやらおかしくなったみたいだ。だけど何が原因でそうなるんだ?
「あら、丑崎さん、今までどこに行ってたんですか?探しましたよ?」
五十鈴が来た、そして後ろにはなにやら疲れ果てたクラスのみんながいる。
「なぁ五十鈴、みんなはどうしたんだ?妖魔にでもあったのか?」
「いえ、金魚すくい、射的、輪投げなどなど。祭りにある遊びをみなさんで全力で楽しんだまでですよ。」
笑顔で言うことじゃねぇぞそれ…しかも祭りの遊びでそこまて疲れ果てることはねぇだろ…
これはダメだな、嫌な予感しかない、逃げなきゃ死んでしまう可能性すらある。
「魁紀、私も金魚すくいやりたいわ。」
「ごめん鬼寅、今それところじゃないんでな、また今度だ。」
とりあえず逃げるのが先だ!
「あぁ!魁紀!俺らも着いてくぞ!」
「置いて行くなんて酷い!同居してるのに!!」
「うるせぇ!あんな怖いオーラ放ってる五十鈴が居て逃げないわけないだろ!」
逃げる前に、鬼寅の手を引いて一緒に逃げようとした。
「どう…きょ…」
「鬼寅?」
「魁紀のバカ…」
なんだ、どうして今バカって言われなきゃいけないんだ?
「いいから行くぞ!」
「私も、家に住ませて。」
「今そんなことどうでもいいだろ!とにかく逃げんぞ!」
「どうでも良くないわ、住ませてくれないなら、今ここで魁紀を拘束して五十鈴さんに差し出すわよ?」
こいつ、なんてこと考えてやがんだ…
はぁめんどくせぇ!
「あぁ分かった!好きにしろ!逃げるぞ!」
「…ふん。」
なんだよそのよくわかんない顔は、満足してるのか怒ってんのか…
17:50 材木座海岸 海岸沿い
「はぁ…はぁ…結局さっきのとこに帰ってきた…」
「魁紀…はぁ…助かったぜ…」
「ありがとうね魁紀…はぁ…もう疲れたよ…」
「ふんっふんふーん♪」
ご機嫌な方が1名いらっしゃるようで、ともかく疲れた、てか花火まであと1時間くらい、それまでどうすりゃいいんだ…
「せっかく砂浜なんだし、筋トレでもすっか!」
「うんうん、夏君だけでやってて。」
「ちょ酷くね!?」
それが正しい反応だ、1人で筋トレしてろ。
「魁紀、さっきのこと、忘れないでよね!」
「ああそうだったな、ちょっと羽澤にも言っておかないと。」
「ん?どうかしたの?」
「鬼寅が、今度からうちに住むことになったから、よろしく。」
「えっ?いやまあ部屋は余ってるし私は構わないけど、魁紀はいいの?」
「さっき逃げるためにそう約束したからな…」
「あぁ…なるほど…」
すまんな羽澤、これから作るご飯の量が1人分増えてしまった、頑張ってくれたまへ…
「鬼寅真由だわ。よろしく頼むわね、羽澤さん。」
「幽奈で大丈夫だよ、これから同じ屋根の下で暮らすんだから。あ、今度一緒にお風呂入ろうね!真由ちゃん!」
「そ、それは、結構だわ。」
「あららぁ、断られちゃった…」
羽澤は残念そうにしてるけど、聞く前に分かることだろ、この鬼寅が一緒に風呂に入りたがるわけないだろ。
「か、魁紀が一緒なら…考えてやらないこともないわ。」
「「却下だ。」」
「魁紀、君はちゃんと一緒に入ってあげて?ね?」
「どうしてそうなるんだ、いい年頃の男女が同じ屋根の下で暮らすだけならまだしも、同じ湯船に入るわけねぇだろ!」
「ふふふ、ならば魁紀、俺が代わりに入るとしよう!」
「夏君は今黙ってて!」
「あっはいすみません…」
夏って女子に弱いのか?それとも五十鈴や羽澤のような気が強い女子に弱いのか?
「魁紀、ちょっとこっちに来て。」
海の方に呼ばれる、また何の話だ。
「魁紀、分かってるの?真由ちゃんの考えてること。」
「分かってたら困ってねぇよ!羽澤はわかるのか?」
「うん、わかる。」
「すげぇなお前!」
「なんでこんなわかりやすいことなのにわからないのよ!」
「わかんねぇよ!」
こんなずっと交わることのない会話をしばらく続けた。
18:10 材木座海岸 海岸沿い
「よし、とりあえず魁紀はとんでもない鈍感だということがよく分かった。」
「誰が鈍感だ、これでも殺意や悪意にはビンビンに敏感なんだぞ。」
「そういうのには敏感にならなくていいの!もう、遥ちゃんからもそんなこと言われなかった?」
そう言えば言われたな、討魔酒場で。
あの時は確か鬼寅が見舞いに来てくれたあとだな、俗に言う鈍感ってタイプかなって言われてたっけ。
「班員に鈍感が居ると大変なんだよ、作戦理解してくれないとかあるから…」
「そうか?うちの班は基本的に班長が突っ込め!って言うだけだぞ。」
「遥ちゃぁん…」
南江は班長には向いてるしちゃんと配置も出来るけど、結局突っ込むタイプなんだよね。
「まあとにかく、ちゃんと相手の考えてることをよく考えるように。じゃないとその鈍感は直らないよ?」
「そうか、肝に銘じておく。」
別に鈍感じゃないと思うんだよね、本当にわからないんだから。
「絶対わかってない気もするけどもういいや、戻ろ?」
「今バカにしたよね、絶対バカにしたよね。」
そんな俺を置き去りに、羽澤は2人の元へ戻って行った。鈍感ねぇ、自覚ないんだけど、そう言われてるってことはそうなのかなぁ…気をつけよ。
「おい!みんな見てみろよ!」
なんだよ夏、もううるさいのは大丈夫だぞ。
と思ったら、綺麗な花火が上がった。
「綺麗…」
鬼寅の口から零れるとは思えない言葉だったが、本当に綺麗だった。
「願い事をしないと!」
「それは流れ星の時にやることだ。」
「筋肉量がもっと増えますように。」
「お前は本気で願い事頼んでんじゃねぇ、てか願い事なら口に出すな。」
羽澤にしろ夏にしろ、いつも通りなのは感心するが花火が上がった時はな。
「た、たーまやー!」
そうだ、鬼寅のようにたーまやーって叫ぶんだよ。
「お前、ちゃんと子供心持ってんだな、ちょっと意外だ。」
「意外ってなによ、悪かったわね。」
「いいや、ちょっと面白かっただけだ。」
「腹立つわね。」
おっと、ここら辺にしておこうか。
「みんなで言おうぜ!」
「そうだね!」
「乗ってやるよ、せーの!」
「「たーまやー!!」」
花火は上がり、祈る者もいれば、見届けて叫ぶ者もいる。祈るもんじゃねぇけどな。
夏が始まる、それは学生にとって休みが始まることを意味する。高校生になってから初めての夏休み、夏休みなのに、心が休まない。
根元先生ならどうしていただろうか、根元先生ならもっと楽しく、もっと全力だっただろうか、わからない。だけど1つ言えるのは、きっと全力で楽しんでいる、間違いない。
俺たちはそれを引き継ぐ、託されたことを、クラスみんなで。先生の日記を、俺たちで、書いていく。
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