第六十三集 日記
あれから、どれくらい経ったんだろう。対抗戦は中止になり、俺たち生徒は元の学校へ強制送還された。幸い重傷者は酉脇1人で、命に別状は無いとのことだった。残りはみんな軽傷で済んだ、これも真っ先に四天王と戦ったみんなのおかげだ。
源先輩は、知らなかったとはいえ、妖魔に協力して俺を陥れたとして、今は停学処分だ。本人も反省していたっぽいし、たぶんしばらく経ったら解除されるだろう。
四天王と言えば、今は任田高校で監禁されている。酒呑様といる俺がいるとの理由で、星熊童子から同じところに居させてくれとのことだった。
洛陽闘技場は後日調査に向かった人達が居たが、報告によると、茨木童子や玉藻前の姿は無く、残っていたのは根元先生の遺体だけだった。
そして今、俺たちにとって一番大事なのは…
7月20日 12:00 葉緑霊園 根元洋海墓前
そう、根元先生の墓参りだ。場所は学校からそう遠くない所、葬式にはみんな参加出来なかったから、今5組のみんなで墓参りに来てる。
最初は茨木童子に操られ、俺を嵌めようとしてた。そして元に戻ると、俺たちが思う以上にちゃんとした先生だった。それがずっと続いて欲しいくらい、楽しい日々だった。
そして最後は、自分を操っていた茨木童子と戦い、やられてしまった…
だけど最後の根元先生の顔は、笑っていた。子どものような、とても楽しい顔で笑ってた。最後まで全力で楽しんだ、でも…
「先生、それで逝くのは…ずりぃよ…」
涙が溢れる、ちゃんとした先生と過ごせたのはたったの2ヶ月、短いにも程がある。もっといろんなこと教えて欲しかった、もっと一緒に居たかった…
「やはり来ていたのですねぇ、5組の皆さん。」
紫先生だ、手に何か本のような物を持っているようだけど、紫先生も墓参りなのかな。
「こんにちは、紫先生。」
「こんにちはぁ、皆さんが今日来たのはぁ、偶然なのかなぁ?」
「偶然…と言いますと?」
「今日はぁ、根元先生の誕生日なのですよぉ。」
先生の、誕生日…知らなかった、知ってるのは今日が海の日だったくらい…あっ!
「そう、察しのいい子ならぁ、もう分かったんじゃないかなぁ。根元先生の名前はぁ、海の日から来てるのですよぉ。」
根元洋海…そういうことだったのね。
「いい名前ですよねぇ。あぁそれと、これを渡しておきますねぇ。五十鈴さん、受け取って下さいねぇ。」
「私が、ですか?」
「そう、あなたが持つべきものなのですぅ。」
俺たちの総班長だもんな、でもなにを渡したんだろ。みんな気になってる感じだから、五十鈴もそっと本を開いた。
「これって、日記ですか?」
「そうですぅ、根元先生が毎日書いてたんですよぉ。」
日付は5月10日からだ、確か日光の事件が終わってから初めて学校に行った日だ。
「土下座して謝罪したことまで書いてありますね。」
あれは驚いたな、やったの根元先生じゃないのに凄い謝ってたもんな。
「五十鈴さんが真っ先に俺を止めてくれた事で、気持ちを取り戻した。改めて教師として仕事ができるようになった。五十鈴さんには感謝してるって…先生…」
その事もあったから、最後に先生は五十鈴に託すって言った気もする。
「琴里琴里、続きは?」
「新井さんは高校生とは思えない体つき。田口さんは他のみんなとは違う妖気を持ってる。羽澤さんは聞いたところによると陰陽の使い手らしい、みんなからの信頼も厚い。松永さんは猫又を連れていて、実力者には見えるけどどこか抜けてる気もする。南江さんは…よくわからなかった。だそうですよ、班長の皆さん。」
根元先生らしいっちゃ根元先生らしい書き方だな。南江さんはよくわからなかったってプッ…!笑っちゃいかん、我慢だ。
「私だけ扱い酷くない…?」
実際よく分からないんだからいいんじゃないかな、南江に関してはそこらへんもう俺諦めてるし。
「根元先生…俺、もっと鍛えます!」
違う、そういうことじゃないぞ夏。
「俺も、もっと花怨を扱えるようにしてみせます。」
「私は、もっと陰陽に磨きをかけます…」
「もう抜けてるなんて、言わせない。ねぇ、にゃーちゃん。」
「にゃー!」
5人には負けてられないな、俺ももっと精進しないと。
「あと、丑崎さんにも、一言書いてあります。」
なんだろう、班長でもないんだけど。
「お前が人間でも妖魔でも、どっちでもいいんだ。お前がお前である限り、人間でも妖魔でも、みんなは助けてくれる。だからあんまし考えすぎるな、時たま顔が悩んでるように見えたから、そういうことなんだろ?もっと気楽にいけ!だそうです。」
わざわざ、そんなことまで…
「ではぁ、私はこれで失礼しますぅ。あと明日が終業式なんですけどぉ、皆さんは来ずにぃ、そのまま夏休みに入っちゃって下さいぃ。」
学校側も大変そうだな、こんなことがあったんだから、上のやつらから何を言われるかなんて想像もつかん。
「「わかりました。」」
紫先生は最後に俺らを見て、そして微笑みながら去っていった。
「私たちもここを出ましょう、大人数でいると他の方の邪魔になってしまいますので。」
そうだな、そろそろ出よう。
その後も、帰りながら五十鈴は日記の内容をみんなに話した。通常授業、任田祭、特訓と対抗戦でわかった俺たちの特徴や伸ばすべきところが全て書かれていた。特訓の内容も、最初から決められていた内容だったのだ。
なにより驚くべきなのは、これからの日記も書かれていたということ。1日1日の授業の内容はもちろん、夏になったらみんなで海に行ったり、祭りに行ったりしてはしゃぐ。秋には文化祭でみんなでダンス踊ったり。冬になったら校外合宿で雪だるま作ったり、特訓したりと…そして2年生上がる前には、みんな先生より強くなってるから、もう俺らに教えることは無い!って言いながら先生とみんなで勝負して、先生がぼろ負けする…
「私たちの…これからの1年間全てを…」
俺たち全員分のやるべき事、そしてやりたい事、最終的には全ての着地点まで、根元先生は予想して日記に書いていた。
「根元先生ぇぇぇ!!」
「なんで…こうなっちまったんだよぉぉ!先生ぇぇ!!!」
五十鈴と夏が泣き出した、そしてそれにつられて、クラスのみんなも泣き出した。約2ヶ月間とはいえ、凄く濃い時間を一緒に過ごした先生だ、いろいろ教えてくれて、いろいろ怒られて、そして一緒に笑って…
「みなさん、最後にもう1ページだけ、何か書いてあります。」
なんだろう、なにか隠してるとかそういうことないかな。
「何事も全力で楽しめ!お前らは俺の最高な生徒で、宝だ!です…」
何回泣かせに来るんだよこの先生は…涙腺が崩壊するじゃねぇか…
「もう!先生ぇのバカぁぁぁぁ!!」
南江が叫ぶ、確かにそうだ、俺もそう思う。馬鹿野郎…
「みなさん、先生の願いをみんなで叶えましょう!!」
「琴里、それはどういうことだ?」
「この日記に記されてることを、みんなでやるのです!つまりこの夏休み、みんなで海と、祭りに行きます!」
いいのか、そんな楽しいイベントを俺たちでやっていいのか!?
「根元先生のためにも、私たちが代わりに根元先生の日記を完成させます!」
「「おーー!」」
根元先生、見てるか。先生はいつまでも俺らの中で生きていく、見守っていてくれ。そしていつか、先生に貰ったこの力を、先生が俺にくれた時のように、他人のために使うよ。先生のおかげでみんながまた1つ強くなれる、2ヶ月間、本当にお世話になりました、ありがとうございました。
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