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干支十二家妖魔日記  作者: りちこ
妖術学校実力対抗編
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第六十二集 魂は巡り巡る

  6月26日 17:40 洛陽闘技場


  酒呑様が振る童子切は、茨木童子の尻尾を切り落とした。


  「あぁぁぁ!!あぁあ…がぁぁ…」


  尻尾を切り落とされた茨木童子は、発狂と言うべきか、錯乱と言うべきか、なんとも言えない状態になった。叫んだり、走り回ったりした。


  そして少し経つと、落ち着いて、仰向けになって倒れた。


  「茨木よ、気分はどうだ。」


  「しゅ…酒呑…様ぁ…」


  茨木童子はさっきとは打って変わって、話し方や雰囲気が変わった。


  「気を取り戻したか。」


  「俺は…なにを…うっ、頭がぁ…!」


  「しばし休んでおれ、お前の妖気はもうないのだ。」


  「はっ…申し訳ございません…」


  昔の茨木童子に戻ったようで、少しはホッとした、だけどここからが俺にとっての本番だ、こいつの処置を俺が決めなければならない。


  (魁紀よ、入れ替わる前に、少し茨木と話させて貰ってもよいか?)


  (うん、久しぶりにちゃんと話すからね、大丈夫だよ。)


  (感謝するぞ。)


  積もる話もあるはずだ、今まで何があったか、どうしてこうなったのかとかね。


  「茨木よ、どうしてこんなことになったのか、覚えているか?」


  「はい、あの時、俺は酒呑様の命に従い、人間に手出しをしないよう、逃げました。その後、何年経ったかは分かりませんが、偶然あの女狐に出会ったのです…」


  ここまでは操られていた時と言ってたことが一緒だな。


  「どうしてこんな所にいると聞かれたが、お前に話すことなんてないと言ったところ。どうせ主がいないんだから妾に仕えろと、女狐の9本ある尻尾の内の1本を、俺に植え付けました…」


  尻尾を植え付けただって?それで茨木童子を操っていたということか。


  「そこから俺は、本当に女狐に仕えたいということだけを考え、今までのことをやってきた。」


  つまり、じいちゃんをやったのも、根元先生をやったのも、元を辿れば玉藻前のせいってこと…


  「酒呑様、人間に手出しをしないという約束すら守れず、挙句の果てに敵に操られるなど、一生の不覚…」


  「もう良い、女狐に操られていたのだ、仕方あるまい。油断をしてなくとも、あやつの幻術には対処出来なかったであろう。」


  「勿体なきお言葉…」


  だけど、命令されていたとはいえ、全ての事件を実行したのは、茨木童子だ、それだけは変わらない。


  「茨木よ、ここからは魁紀に替わる、処罰を受けようが、施しを受けようが、素直に受け入れろ。お前がやってきたことは、人間にとっては許されないことだ、どんな事があっても、最後まで責任を持て。」


  「承りました。」


  茨木童子は体を起こし、酒呑様の前に跪いた。


  「最後になるが、昔は世話になった、大儀であったぞ。」


  「ありがとうございます…」


  (魁紀、あとは任せるぞ。)


  (うん、わかった。)


  酒呑様の意識が童子切に戻っていき、体の感覚が帰ってくる。そして目の前に、茨木童子が跪いていた。


  「お前が、丑崎魁紀か。」


  「そうだ。」


  「酒呑様が頼光と交わした約束を破ったのは詫びる、それ以外のことは詫びても詫び切れはしない。この首が欲しくばここで切り落とすが良い。」


  本当のこいつが戻ったところで、許すつもりもない。だけど、こいつをここで討ったところで、じいちゃんや根元先生が帰ってくる訳でもない。一体どうすれば…


  「決断は早くしろ、もうこの命、長くは持たないぞ。」


  「どういうことだ?」


  「女狐の尻尾が抜けた今、俺の命はそれと共に抜けて行ってるということだ。」


  「なんでだよ…本来のてめぇが戻ってきたってのに、てめぇにこれから文句を山ほど言ってやろうと思ったのに!なんで逃げるんだよ!」


  「クッハハ…その願いは叶わねぇな、だからやるならとっとと殺れ、時間がねぇんだ。」


  なんで…なんでだよ…


  (魁紀よ、もう自由にしてやれ。許せないことだとは思うが、終わりにしよう。)


  そうだな、そうだよな。全てに決着をつけてやらないといけない、茨木童子を討って、玉藻前をやっつける。


  「わかったよ、酒呑様もそう望んでる…」


  「最後まで申し訳ございません…」


  童子切を抜き、茨木童子の首に当てる。


  「茨木よ、此度も失敗かのう?」


  この声、なんだ…謎のおぞましさを感じる。


  「女狐め、わざわざここまで来やがったか。」


  「女狐って、玉藻前か!」


  「ほう、あんたが丑崎魁紀かのう?ええ顔しとるのう。」


  平安時代の貴族を思わせる様な長い和服、口元を隠す扇子、紫色の長い髪の毛、狐の耳に尻尾…あれが玉藻前…足が震える、穏やかな感じなのに、怖い…


  「丑崎、ここから離れろ。あいつが用があるのは俺だ、残った命、ここで使う。」


  「そういう訳にはいかないんだよ、俺はてめぇを!」


  「クハハ、だけどもうその願いは叶わねぇ。だから俺の最後の願いをお前が叶えてくれ。」


  「この期に及んでなにを!」


  「酒呑様を、頼む…」


  「なっ…!!」


  茨木童子に蹴り飛ばされ、闘技場の連絡通路まで飛ばされた。もう茨木童子と玉藻前の姿は見えない、このまま逃げろってのかよ…


  (魁紀、これでいいんだ、あいつは最後に、ケジメを付けようとしているのだ。あいつの最後の願い、そして初めて叶えられる願いを叶えてやってくれ。)


  (もう…わけがわかんねぇよ…!)


  わかったよ、妖魔って、めんどくせぇやつもいるもんだ…


  何故か涙が出た、自分の願いを叶えられないのに、今まで恨んでた妖魔の願いを叶えてやらなければならないもどかしさ。そして玉藻前に立ち向かえられない自分の弱さ、ただただ、悔しかった…


  17:55 洛陽闘技場


  「あらあら、人間を庇うとは、どういう風の吹き回しかのう。」


  「俺なりのケジメだ、妖魔らしく生きてきたが、酒呑様の顔に泥を塗った、今更未練はねぇ。だからここで、お前を道連れにしてやろってんだよ。」


  とは言うが、もう俺は何も出来ねぇ…立ってるのがやっとだ…


  「おもろいなぁ、あんたに何ができるか、見してもらおうやんか。」


  「散々俺をこき使いやがって、このクソ女狐が、尻尾の2本や3本、頂いていく!!」


  「そやけど、その願いは叶わへん。あんたの言葉やったな、茨木。」


  「クッハハ!勝手に言ってやがれ!」


  申し訳ございません、酒呑様、俺はここまでです、最後に一目会えて、俺は幸運でした。丑崎、もしまた会えるなら、今度は俺の全てをかけてお前を助けよう。


  魂は巡り巡る、それは人間も妖魔も変わらねぇ。さらばだ…

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