第六十一集 主と従者
6月26日 17:30 洛陽闘技場
「断罪?クッハハ!何が断罪だ、てめぇにそんな資格があると?」
「資格なんかねぇよ、そもそもてめぇの罪は何をしたって許されるもんじゃねぇ。だからてめぇをここで始末して、少しでも償わせてやるつってんだよ!」
敵討ちなんて、じいちゃんや根元先生は望んちゃいねぇ。だから俺は、こいつを秩序を乱す妖魔として討伐する。
「魁紀、話聞いてたか?俺は風を飛ばせって言ったんだけど、それだと藤十郎が雷を纏わせたのが意味なくなるぞ。」
「あ、そういう意味だったの、ごめん、普通に切っちゃったわ。」
「切っちゃったちゃうわ丑崎はん…3人で協力せんとあのハゲ倒せへんで!そもそもお2人同じ学校やろ、わしよりは意気合うはずやろ!」
「「そんなのないに決まってるだろ。」」
「そんなアホな…」
だいたい豪と一緒に戦ったことなんてないぞ、相手にしたことならまだあるけど。
「もうええわ…好きにやっとってくれ…」
おー、そいつは助かる、好き放題やらせてもらうよ、楽しく全力でな。
「クッハハ!いいのか?3人でかかってこないと死んじまうぞぉ!?」
こいつの言うこともごもっともだ、3人でかからないとやりきれない可能性のが高い、だから豪に指示を煽ってもらうしか…
「あっはっは!!画竜点睛!!」
「「1人で先に突っ込むな!」」
「クッハハ!酒呑童子の力がなくとも、貴様の技が俺に通用するか!」
「ガハッ…!」
「辰仁家といえど所詮は人間、俺には敵わん!」
豪の画竜点睛にタイミングを合わせて腹に拳を当てた、酒呑様の力がないとはいえ、やはり妖魔と俺らじゃ差があるのか…
「ちっ、さすがに無傷とはいかねぇか、腰の一部分が抉り取られた。だがこんな傷など、すぐに治せる、このようにな。」
そう言いながら、茨木童子の腰は自然に再生していく。ただ違和感がある、前より少し遅いような。
「やはりあれじゃダメか…あっ、そういえば魁紀、湊からの情報だが、茨木童子に狐の尻尾みたいなものがついていたようだが、なにかわかるか?」
なにそれ、初耳なんだけど。どう見てもついてないじゃんあれ。
(その話なんだが、我も思ったことはある。)
(酒呑様もなにか感じたってこと?)
(左様、茨木に吸収された際、女狐の妖気を強く感じたのでな。もしや女狐が茨木になにかを埋め込んでるかもしれぬ。)
(なるほど、それで茨木童子が玉藻前にあんな忠誠を誓うのもおかしくはないか…)
(茨木は此度を除けば我を裏切ったことは1度もない、それほど我に忠誠を誓っていたのだ、だから我も信頼を置いていた。日光の際はさすがに驚いたが、女狐も関わってるのであればそう考えられるのも容易い。)
そういう事だったのか、茨木童子は玉藻前に操られていて、今までの事をやってきたということか…だけどあいつがじいちゃんと根元先生を殺したのは事実だ、いくら酒呑様の元配下でも、それは許されることではない。
(魁紀よ、我に考えがある。我と代われ、我が茨木を元に戻す。そしてその後は魁紀、お前に任せる。)
(でも…あいつは、あいつだけは俺がやらなきゃ!)
(今のお前に何が出来る、妖気は先程の状態と我が借りたのでほぼすっからかん。そして恐らくだが、その状態では干支神獣の気迫も出せまい。ただの人間の状態で茨木の相手を出来るとも思えん。)
それは確かにそうだ、妖気はもうほぼない、力も正直に言って出て来ない。せっかく根元先生が力を貸してくれたのに技1回出しただけでもうこんなだ…
(だから我に任せろと言っておる、我の妖気はもう回復しておる。元の茨木を引き戻せたら、始末はお前に任せる、それで良いではないか。)
(くっ…わかった…酒呑様、お願い。)
(最初からそうすればよかったのだ、では代わるぞ。それと、そこのガキ2人は邪魔だから帰ってもらう。)
あぁ…それは…そうかもね…酒呑様にとっては…
ともかく、酒呑様と入れ替わった。意識もハッキリしてるし、普通に全て見える。ただこの感覚は好きじゃないな…
「その姿、酒呑童子かてめぇ。」
「そうだ、日光ぶりだな、茨木よ。」
「これが…酒呑童子かいな…」
「あぁ…見るのは2度目だが相変わらず凄い気迫だ…」
「ガキども、帰れ。」
「「は?」」
いや…そういう言い方しなくても…
「帰れと言っておる、あとは我に任せよ。さもなくば、皆殺しにするぞ?」
「「帰ります!」」
凄い勢いで帰ってったなぁ…命の危険を感じるとどんな人間でもああなるものなのか…
「さて茨木よ、2度は言わぬ、もう一度我に仕えよ。さすれば命は保証しよう。」
「クッハハ!なんだよ、人間と関わってたら考えも甘くなったのか?仕えるわけねぇだろ!」
「そうか、ならばよい。貴様にかけられた呪縛、我が解いてやろう。」
「そんなもんあるわけねぇだろ!くたばりやがれ!!」
茨木童子が両手を構えてなにかを放とうとしている、酒呑様を通してわかることだけど、ものすごい妖気が集まっていく。
「てめぇの為の術だ!魔妖術・神鬼毒大砲!!」
紫色の、毒々しい砲弾のような術だ。もしかしたら、頼光の神便鬼毒を元にした対酒呑様の術なのか。
「茨木よ、このようなことをするのだから忘れておると思うが。」
そう言いながら酒呑様はただ右手を伸ばし、術を受け止めようとする。
「この我が、1度受けた術や技で、やられると思うたか?」
術は酒呑様の右手にぶつかり、弾けて散った。
「な、なん…だと…」
「思い上がったな、茨木よ。」
「バカな!玉藻前様が、俺のために、てめぇを倒すために作ってくれた術だぞ!!」
やはり玉藻前が裏で…
「終わってたまるか!魔妖術・嵐風!!」
「効かぬわ。」
風が酒呑様にあたる前に勝手に消えた、仕組みはよく分からないけど、1度見たか受けた技や術は勝手に無効にできるのかな。
「あの女狐が、誰かのために動く訳がなかろう。お前はずっと操られているだけよ。」
酒呑様は、ゆっくりと茨木童子に向かって歩いていく。
「来るな!来るなぁ!!」
茨木童子は酒呑様に術を放つが、全て消える。
「どうした、錯乱しているからか、尻尾が丸見えだぞ。」
怯える茨木童子の後ろに、狐の尻尾の様なものが見える。これが豪が伝えてくれた狐の尻尾か。
「女狐よ、茨木を返してもらうぞ。」
一瞬にして、視界が変わった。茨木童子の目の前にいたはずなのに、今は背中が見える。
「今解放してやる。」
酒呑様は童子切を抜き、そのまま茨木童子についた尻尾を切り落とした。




