第五十九集 裏
6月26日 16:00 洛陽闘技場
「魁紀?」
「丑崎さん?」
「魁紀君!どうしたの!?」
夏、五十鈴、南江の声が聞こえる…そして今気づいた、体が動いている、茨木童子に向かって歩いてるのがわかる。
「なんだ?てめぇもなんで動いてやがる!」
俺にも分からない、だけど、今一つだけ、分かることがある。
「日光の時は殺し損ねたが、今度こそ息の根を止めてやるよ!クッハハ!!」
こいつを今…殺したいということだ…
「お前を…殺す…」
「なんだ?頭にきたってやつか?クッハハハ!」
「黙れ…」
「じいちゃんが俺に殺されたのを知って!そして目の前で先生を殺されたのが気に食わなかったのか?クッハハハハハ!くだらねぇな!お前のじいちゃんは死に際までお前のことを思っていた、その時お前は何をしていた?根元が必死に戦ってる時お前は何をしていた?何もしてねぇだろ!ただただ見ているだけ!待っているだけ!そんなんで頭に来たとか笑わせるな!」
「てめぇがじいちゃんと根元先生を語ってんじゃねぇよ…」
怒りの感情しか湧いてこない…こいつを殺して、じいちゃんと根元先生の無念を…
「ゴクゴク…プハァ!うめぇなこの酒は!力が湧いてくる!妖気が膨れ上がってくるこの感覚!童子切と酒呑童子の力を手に入れ、そしてこの酒を飲んだ俺は!無敵だぁ!!」
酒呑様がずっと飲もうとして飲まなかった酒か、関係ねぇな。
「吽那迦よ、我が敵を屠るために力を貸せ…突き屠れ…幽丑気…」
自分でも知らない力なのに…名前を…使い方を知っている自分がいる…だけど…不思議に思うことはなかった…なんでかって…あいつを殺すためなら…俺はなんでも!!
「てめぇだけはぜってぇに許さねぇ…肉体が死んだら精神を、精神が死んだら魂魄を、てめぇのことを徹底的にぶっ殺してやる…」
「あの力は…」
「姉上、あれについてなにかご存知ですか?」
「あぁ、干支神獣の裏の力だ。話だけ聞いたことはあるが、発現方法、使い方は全く分からぬ。」
「そんな力が…なぜだ魁紀…」
茨木童子…てめぇだけは…てめぇだけは!
「クハハッ!何が何だか知らねぇが、お前に勝ち目はねぇんだよ!」
「黙れ…」
「生意気な!死ねぇ!!」
「幽丑砕…」
刻巡が黒い炎を纏った…何だこの力は…何も分からない…
「なっ!?速いっ…!!」
「避けんなよ、左腕しか飛ばせなかったじゃねぇか…」
頭を狙ったはずなのに、やはり速いな、無駄に。
「次は外さねぇぞ…」
「クハッ!小賢しい!これでも喰らえ!神便鬼毒!!」
頼光の技か、確か酒呑様を殺すために編み出した技。酒呑様に対しては特に効く毒を妖気で作って斬撃にしたとかなんとか。
だが…
「遅せぇ…やっぱり、てめぇに童子切は扱えねぇよ、酒呑様含めて返してもらうぞ。」
「あっ!あがぁぁ!!!」
右腕も切った、童子切も取り返せた。こいつの見た目も徐々に元のこいつに戻っていく、もうこいつに要はねぇな…
「じいちゃんの遺言を伝えてくれた礼だ、お前の遺言も聞いてやるよ。ほら、言いたいことがあるなら言え。」
「クハハッ!こんなんで俺が負けたとでも思うのか?調子に乗るなグハァッ…!」
うるせぇな、つい切っちまったじゃねぇか。
「痛ぶる趣味はねぇ…言いたいことあるなら早く言え。」
「痛ぶっといて何言ってやがる…ならきちんと聞いておけ、俺の遺言は…お前の願いは、何一つ叶わねぇ!あめぇんだよ!!」
「ガハッ……」
「「魁紀!」」
「「魁紀君!!」」
「あめぇあめぇ!やはりてめぇは人間だ、甘すぎなんだよ!クッハハハハハ!!」
胸を貫かれたか…こいつ…いつの間に腕を再生させやがった…あぁそうか…根元先生が残した傷じゃねぇから、そりゃ再生するか…だけど不思議なことに、意識が飛ばねぇ…なんでだ…
(たわけ、お前が童子切と我を取り戻したからだ、魁紀。)
(酒呑…様…)
(随分と辛そうではないか、そしてその妖気、危険だな。)
(俺…自分でもわからねぇんだ…この力がなんなのか…)
(その話はまた今度だ、今の状態だと、我も力を貸すことはできぬ。一刻も早く通常の状態に戻さなければ…)
でも…どうやって…どうやれば戻れる…
「魁紀!!」
「鬼…寅…?」
鬼寅が…なぜ…抱きつく…なぜ…動けた…
「何してるのよ!そんな力に溺れて!あんな奴にやられて!」
「俺…は…」
「あんたのおじいさんも!根元先生も!こんなこと望んでないはずよ!」
じいちゃん…
「……」
根元先生…
「全力で楽しんでこい!!」
先人達が残したものを…そう…俺たちが生きていかないと…じいちゃんと根元先生に…顔向けできねぇ…
「ありがとな…鬼寅…」
「私は何もしてないわよ、ふん。」
「なんだそれ、かわいいかよ。」
「かっ、かわいい!?!?ってあんた!いつの間に傷治ってるのよ!」
あっ、ホントだ。
(あっ、ホントだ。じゃないわ、我が治してやったのだぞ。そしてあの娘やるではないか、娶ってやらぬのか?)
(娶るわけないだろ…)
でも、鬼寅のおかげでさっきの力の感覚はなくなった。一体なんだったんだろ…
(酒呑様、ありがとな、回復してくれて。)
(あの娘のおかげだ、礼ならやつに言ってやれ。)
(それもそうだな、後でちゃんとお礼をしよう。あと酒呑様、今回は俺に茨木童子の相手をさせてくれ。)
(よいのか?我がやれば直ぐに終わるぞ?)
(うん、これは俺がやらないとダメな気がするんだ。だから、お願い。)
(よい、わかった。)
(ありがとう。)
酒呑様には本当に顔が上がらないな、いつもいつもなにもかもやってもらってるばっかりだ。だから今度こそ、俺がやらないと。子孫として面目が立たん。
「茨木童子、今度こそ最後にしてやるよ。」
「クッハハ、ごちゃごちゃ喋ってる間に回復したぜ?傷は消えねぇがお前に勝つには十分だ。せっかく勝てるところまで来たのに、残念だったなぁ?クッハハハハハ!!」
「いや、結果は変わらねぇよ、俺が勝つ。」
「魁紀のやつ、笑ってる。」
「そうですね、根元先生みたいですね。」
(酒呑様、俺以外のみんなを旅館に転移させられるか?)
(容易いことよ、だが少しだけ妖気を使わさせてもらう、茨木に吸われて妖気がなくてな。)
(あぁ、問題ない。)
みんなには悪いけど、この戦いは俺だけで決着をつける。
「みんな、また後でな。生きて帰るから、待っていてくれ!」
「「魁紀!!」」
(はぁっ!!)
16:30 らく道旅館
「あの時と同じ、また酒呑童子に助けられたのですね…」
「まさか我らも一緒だとは…酒呑様…」
「迷ってる時間はないですね…みなさん!怪我人の手当を!!四天王!あなた達も手伝って下さい!」
また前みたいに待ってますからね、丑崎さん!
16:30 洛陽闘技場
「前と同じだな、茨木童子。」
「クハハッ!同じだと?笑わせやがる。酒呑童子の力を使えねぇお前に!俺を殺れるわけねぇだろ!」
「そいつは試してみないと、わからねぇな。」
やったことはないけど、童子切と刻巡の二刀流を試してみるか。
「なんだ、その構えは。刀と大太刀の二刀流なんざ聞いたことがねぇ。」
「知らないのか?二天一流ってのがあってね、あれがまさに大小一振ずつだ!」
「はっ!バカが!魔妖術・妖嵐!」
妖魔独特の妖術か、そして禍々しい風、その風系統の妖術…根元先生の力か…どこまでおちょくるつもりだ!
「ならば!魔妖術・牛鬼弾!」
こっちもお前らの力を使うまでよ、あんまり気分は良くないがな。妖魔牛鬼をイメージした波動弾だ、受け取れ。
「ガハァッ!!なぜだ!なぜ貴様がその妖術を使える!」
「なぜって、俺には酒呑様の血が通ってるからな!」
「まだだ、俺はこんな所で終われねぇ!」
「だが、その願いは叶わねぇ。詰みだ、茨木童子!丑火損!!」
今までにない炎を、刻巡と童子切でこいつに叩きつける!




