第百五十七集 仮定の話
1月17日 13:00 京都タワー前
最後に大男と出会ってから4日、大男ところが妖魔すら現れなくなってしまった。
「おい、どうなっとんねん…平和すぎるやろ!いや平和でええけど!」
「さすがに妖魔すら出ないとは思わなかっですね。」
「ねぇあたしも帰っていい?時間の無駄なんですけど。」
「まあまあ午上さん、もう少し根っこの気を強くしてやっていきましょう。」
ここまで平和だとさすがに捜索以前の話になる、吉留さんの所に妖魔の情報も大男の情報も入ってこない。規制を受けてるとは思わないけど、ここまで京都が平和だと疑いたくもなる。
「もう1時間だけ捜索しましょう、1時間経っても何も起こらなければ、今日の捜索は切り上げても大丈夫です。」
「その方がええやろな、このままやと無駄に体力を消耗させるだけや。」
「ですが、私の所に何かしらの情報が入ったら、すぐに捜索に出かけますので、そのつもりでお願いします。」
寝てる時じゃなきゃいつでもいいや。
「ではあと1時間、ここら辺を捜索しましょう。」
こんなとこで妖魔湧いて欲しくはないけどな。
14:00 京都タワー前
結局何も起こらなかった…マジで1時間京都駅周辺を1周しただけで終わった…
「ホンマにもう帰ってええんちゃうかわしら?」
「本当にそう、時間が無駄すぎ。」
「待ってください、今報告が入りました。五条駅付近で妖魔が発生、数は多くありませんがすぐに向かいましょう!」
おっ、やっと来たか。今度こそあの大男とっ捕まえて吐くもん吐かせてやる。
「ほんなら走ったらすぐやな、行くで!」
「なんで猿が仕切ってるんですか。」
「なんか文句でもあるんか!」
「文句しかないに決まってるじゃないですか!」
「喧嘩なら終わったあとにしてください、2人とも。」
このどうでもいい所から喧嘩に派生できるのある意味この2人の才能だと思うんだよね、俺。
14:08 五条駅 出口
「まだ夜やないのに珍しいやないかい、影鎧武者が5体、1人1体でちょうどええな!」
影鎧武者、かつての戦場で戦った武士どもの亡霊、未だ戦いを忘れられずに妖魔として蘇ったものである。黒の鎧に黒の剣を携え、兜の中から覗く目は血のように赤く、鋭い光を放つ。
本来であれば夜でこそ真の力を発揮するのだが、今丑崎たちの目の前の影鎧武者のように、昼間に現れるものもいる。
「そんな面が倒れるようなことをする暇はありません、周りに住む民がまだ難から避けられていませんので、すぐに終わらせます。蛇眼!」
あーあ、全部石になっちゃったよ。
「昼の間に出てきたことを後で悔やむことですね。」
「おい蛇、お前が全部石にしてもうたら慈心来んとちゃうか?」
「「あっ…」」
確かにぃ…倒すもんいなくなったら来るもんも来ないな…
「今すぐ解き放ちます。」
「いやもうええて!今更遅いわボケ!もう崩しとき。」
気持ちはわからなくも無いけど面倒事増やさないで…
「さすがねー律、こんくらいだったら石化は余裕なんだ。」
「ええ、昼に出てくる影の鎧を着た武の者なら尚のことです。」
漢字4文字のものをそこまで長く延ばせるのある意味才能だと思う。
「ですが思うこともあります、前に猿と魁紀さんの3人で大男と出会った際、妖魔出現とほぼ同時刻に大男が現れていました。距離が離れてるから来れない可能性もありますが、そもそもここが大男が来る範囲外ではないでしょうか。」
「根拠はありますか、小戌丸さん?」
「あくまで仮定の話ですが、大男が出現したのは清水寺と稲荷大社、どちらも日本の歴史的建造物です。もし大男が慈心で僧侶としての矜恃や未練がまだあるのでしたら、こういった建造物が荒らされるのは本意では無いはずです。ではここはどうでしょう、ただの街中です。ですからわざわざここまで来て人々を守る義理はないです、まあオイラは僧侶じゃないから彼にどういう理念があるのかはわからないですが。」
寺とか神社限定で人と建物を守るって感じか。筋は通ってるし間違っては無いと思うけど、条件が限定的すぎるな。
「それだったら5人それぞれ違うとこに行って待ってた方がよくなーい?負担大きくなるけど問題ないっしょ。」
「馬の言う通りやな、固まって探してもこんな広い京都じゃ慈心が現れてもすぐには向かえへん。」
「そうですね、私も分けて担う方がいいと思います。」
「数的有利を捨てることになるけど、そっちのが良さそうだな。」
ただでさえ京都に寺とか神社とかどんくらいあるんだって話だ、全部回るってなった時に5人まとまって回ると一年以上かかるわ。
「うーん…少し上の者と相談します、今日はもう引き上げましょう。明日明後日はしっかり休むように、お疲れ様でした。」
相手が1人で場所は京都の全ての寺、神社。それを5人で探す、かつ5人それぞれ違う所となると危険度も上がる。妖魔が出る前提なのもそうだし、万が一慈心の方と戦闘になったらさらに危険度が上がる。
そういうこともあるから、監督役の吉留さんも即決できないんだろうな。
「じゃあ、とっとと帰るか。」
ここで考えててもしゃーない、旅館に戻ってゆっくり考えよう。
20:00 湯の宿・京 505号室
もし正が言ったように限定的な状況でしか現れないなら、めちゃくちゃ時間のかかる捜索になる。素直に現れてくれるかどうかも問題だし、現れたとして1人で捕まえられるかどうかも問題だ。
「あぁめんどくさすぎる…」
何とかして釣り出せたりしねぇかな…妖魔をこう擬似的に用意するとか…
(できるぞ。)
うおっ!?びっくりした!!
(え!?ホントに!?)
(童子切を使え、それだけよ。)
(それはどういう…)
(今まで散々使っておって分かっておらんかったのか馬鹿者!童子切を使うということは我の妖気が流れ出ること、すなわち妖魔の妖気が流れ出るのだぞ?)
あ!なるほど!俺自身が妖魔になればいいってことか!!
(そういうことか!ありがとう酒呑様!!)
(良い、考えすぎる割に答えにたどり着かなさすぎなのだお前は。もっと単純で良い、馬鹿なんだからな、カッカッカッ!!)
あっ、なんか腹立ってきた、ムカつく。
(まあせいぜい精進せよ。)
(おう。)
優しいのか優しくないのか、もっと単純にか。うん、よし、次からやってみよう。




