ガールズトーク
まったくストーリーが進んでいません(◎_◎;)
やってきました本日のメインイベント。お泊り会。
前世ではコミケの打ち上げで、デパ地下で総菜とワインを買い込んで飲み明かしたものよ。
店で飲むのはね、興奮して萌え話するのって世間の迷惑だからね。自宅なら大声さえ出さなければ、気兼ねなく話せるでしょ。
そういえば私が死んだあと、みんなはコミケどうしたんだろうな。
描いている途中だった作品、第一発見者や警察、救急の人に読まれたり?
うわ。考えるのはよそう。いたたまれない気分になってくる。今更だけど家族に顔向けできない。
集合したのはノーランド辺境伯のお孫さん、モニカさんのベッドの上。天蓋があるからね、狭い密閉空間でひそひそ話するのって、仲間意識が高まるものよ。
みんな窮屈なドレスを脱いで髪もほどいて、ヒラヒラのネグリジェタイプの寝間着に薄いショールを羽織っている。透けているネグリジェじゃありませんから。念のため。
男の子には秘密の女の子だけの集いって感じ。品のいいパジャマパーティーよ。
モニカさんはひとつ年上の七歳。カーラ様とは従姉になるのね。
さすがノーランド、とっても大きくて日本だったら中学生扱いされそう。子供料金使えなさそうよ。可愛い物が好きみたいで、天蓋の布には小さな薄桃色の花びらの飾りがついている。寝間着も薄いピンク色で小さなリボンがたくさんついてるの。眉のあたりで前髪を切り揃えた、波打つ黄色に近い金色の髪はゴージャス。他の女の子に比べて私の銀色の髪は地味だと思うわ。
カーラ様がパトリシア様も誘ってくれたから、四人で顔を合わせて秘密のお話よ。
あのあと、ちゃんと普通に会話してパトリシア様とは仲良しになって、アランお兄様には巻き込むなと怒られました。可愛い女の子の前で格好つけていたくせに。
「精霊王様にお会いしたいのに、行ったらダメだって言われてしまったの」
「それはそうですわよ。魔獣が襲ってくるかもしれないんですから」
「でもディアドラ様は行かれるのでしょう」
「この方は……平気な気がするのはなんででしょう」
モニカ様とパトリシア様に注目されてしまった。解せぬ。
「カーラ様は精霊王をご覧になられたのよね?」
「はい、ディアドラ様の誕生日の時に。遠くからですけれど。火の精霊王様もいらっしゃいましたわ。とても素敵なお方でした」
「あ~~羨ましいわ」
「理想の殿方の姿をなさっているそうですわね」
え? そうなん?
たしかに瑠璃も蘇芳も乙女ゲーのキャラみたいだけども。
「でも精霊獣を顕現出来るようになったら、連れて行ってくれるっておじいさまに約束してもらったんです」
拳を握り締めたモニカ様の肩の上では、風の精霊がふわふわしている。この方、火の剣精も持っているの。剣精よ。さすがノーランド辺境伯の孫。
パトリシア様は魔力が多いみたいで、火の精霊以外を持っている。蘇芳様担当の地域に住んでいるのに、火の精霊がいないことをちょっと気にしているみたい。
「うちの領地は、少しだけ地の精霊王様の地域にかかっているんですの。農作物の収穫量の差がすごくて、前宰相に対する怒りが大きいのよ。中央の方々の様子を見ているから、皇宮に行きにくいし、早くどうにかしていただきたいわ」
「うちはディアドラ様のおかげで平和ですわ。ベリサリオ辺境伯には感謝しかありません」
「そんなやめてください、カーラ様。偶然が重なっただけなんですから」
「それでもです。ディアドラ様がいなければ、我が国もペンデルスのようになっていたかもしれないじゃないですか」
砂漠の国ペンデルスは、さすがに気になってウィキちゃんで調べてみた。
あそこはちょっと特別よ。内情を誰も知らないみたいだから、私が知っている事がばれるとやばいから言わないけど、自業自得どころじゃないの。なんでまだ国が残っているのか不思議なくらいよ。
「ディアドラ様には父も精霊獣について教わったそうで、ありがとうございます。父は剣より魔法が得意で、領民に祖父ほど人気がなかったんです。でも今回、真っ先に精霊獣を顕現出来たので、すっかり見直されて喜んでいました」
大変だね、どこの領主も。
ノーランドは冒険者が多いからなあ。
「とんでもありませんわ。宮廷に伺った時に小型化なさっている方が少ないと思っていたら、大きさを変えられる事を知らない方が多かったのですね」
「はい。……あの」
三人揃って顔を見合わせて、急にもじもじしないでよ。かわいいじゃないか。
オーケー、特別にサービスしよう。
「……小型化するとネコみたいな姿の精霊獣がいるんですけど、ご覧になります?」
「よろしいの?!」
「ぜひ!」
「ありがとうございます」
普段は見世物にしたくないし、見せびらかすのも嫌だし、必要じゃないときは顕現しない事にしているの。ただ、精霊獣も姿を現して走りたかったり、伸びをしたかったりするみたいなんで、そういう時は庭に出て自由にしてもらっている。
今夜はジンだけ顕現するつもり。彼は人間が好きみたいだし、嫌だったらすぐに戻ってもらおう。
「ジン、いいかしら」
『かまわないよ』
ポンと音がしそうな感じでジンが姿を現したら、黄色い歓声が上がった。
女の子に喜んでもらえて、どや顔で羽根をパタパタさせているのはいいけど、猫が二本足で立つのはやめなさい。アニメじゃないんだから腰に手を当てるんじゃない。
「ネコらしく」
『難しいことを言うなあ』
文句を言いつつ四足歩行に戻り、尻尾をピーンと立てて伸びをして、モニカ様から順番に愛想を振りまくことにしたようだ。
すごいな、この精霊。一瞬で乙女たちのハートをわしづかみよ。
「私も早く自分の精霊が欲しいわ」
「クリス様の精霊も小型化すると猫になると聞きましたわ」
「そうですね。クリスお兄様の精霊は四属性全部猫になります」
「やーーん、素敵」
「あの方は、お姿も才能も精霊獣まで全部素敵ですわよね」
「アンドリュー皇太子さまに負けないくらいに人気があるのも納得ですわ」
ガールズトークのメインの話題、コイバナ。
私もいろいろと参考にさせてもらいたいのに、身内の話題かあ。
「アラン様も素敵ですわよね」
カーラ様がパトリシア様に視線を向けて、うふふと楽しそうに笑いながら言うと、パトリシア様の顔がうっすらと赤く染まった。
「もう、カーラ様。からかわないでください。あれはディアドラ様が変なことをおっしゃるからですわ」
「でも素敵じゃないですか。アラン様も学園に通うようになったら、女の子の注目の的になりますわ」
「あの、アランお兄様は次男なので家を継がないのですけれど、それでも人気なんですか?」
やめて。こいつ何言ってるんだって顔で見ないで。
その顔をあらゆるところで見ている自分が、とっても情けなくなるから。
そこ、ジンまで腹を撫でてもらいながら呆れた顔をしない。
「ディアドラ様、改めて言います。ベリサリオ辺境伯は公爵扱い。しかも皇帝に次ぐいわば貴族の頂点の地位になったのです。たとえ次男であろうと、ご実家がそこまで力をお持ちならば誰も気にしませんわ」
「ましてアラン様は近衛志望でしたわよね。それで全属性精霊獣持ちで、そのうち剣精三種類。近衛騎士団長も夢ではありませんのよ」
「それにフェアリー商会にも携わっているのでしょう。あの馬車だけでも、どれだけの富を得るか。更にジェラートと……お母様がビスチェは素晴らしいと褒めていらっしゃいましたわ。なぜかお父様まで」
ああ……うん。意外と男の人に評判いいよね、ビスチェ。
ホックを作って簡単に外せるようにしたからかな。今までは紐だったもんね。
ひとりひとりのサイズに合わせた手作りだから、貴族じゃないと手が出せないくらいにお高いのよ。でもリピーターが多くて、予約がすごい事になっちゃって、お針子さんを増やしているのよ。
「そういう事で次男だろうと全く関係ありませんわ」
「はい」
この子達、日本だったら小学一年生と二年生よ。
貴族は子供の頃から教育が徹底しているし、高位貴族は常にまわりに執事やメイドがいて、御令嬢らしい態度を求められるから、大人のような考え方になるのが早い。
女の子は特に、十五を過ぎたら婚約して十八前後で結婚が普通だから、親から男の子の情報を嫌っていうほど教え込まれる。
そうして有力貴族や優秀な男性と実家を繋ぐのが女性の仕事だ。出来れば恋愛結婚したいとみんな思っているけど、好きになったら誰でもいいというわけにはいかない。
そうか。クリスお兄様もアランお兄様も超優良物件か。
アピールすごいのかな。外野から見ている分には楽しそう。
「はあ。でも私はおふたりとも駄目なんです」
モニカ様ががっくりと肩を落とした。
「辺境伯同士の縁談は私達の代ではやめようという話になったそうです」
「まあ」
「今でも結びつきが強くなっていますもの。他の貴族や陛下からしたら、気になるところですものね」
「兄もがっかりしていましたわ。ディアドラ様は魅力的ですから」
またまたまた。
自分の祖父や父親が誉めそやすものだから、ライバル心丸出しで私とアランお兄様を見ていたじゃないか、あのイケメンゴリラ。
特にアランお兄様は同い年だから負けたくないみたいで、しかもそれをまったく隠さずに顔に出していたから、大人がみんな苦笑いしていたわよ。
明日、道中にしつこくお兄様に突っかかってきたりしたら、絶対に泣かすからね。
「あの、うちの兄以外で素敵な殿方というと、どなたがいらっしゃるのかしら」
今のところ、私の参考になる話が全くないのよ。
「え? ディアドラ様はアンドリュー皇太子と縁談が決まっているんではないんですの?」
「パトリシア様、私も驚いたんですけど、違うんですって」
「違います。私は皇宮で暮らす気はないので、むしろ殿下に素敵な女性がいたら紹介してほしいと言われています」
驚いた顔で私を見つめる少女三人。その真ん中で寝に入っている猫もどき一匹。
そんな意外なことを言っていますかね、私。
「ええと……アンドリュー殿下やアラン様ではない殿方……」
パトリシア嬢、実はマジでアランお兄様を気に入っている?
あなたがお義姉様になるのは大歓迎ですけど、まだ視野は広く、いろんな男を見た方がいいよ。十四、十五くらいで男も女もだいぶ変わるよ。見た目的にも。
「ジーン様は年上すぎますし、エルドレッド殿下もダメなのですか?」
「え? うちの国って皇族かうち以外に、いい男がいないんですか?」
「そんなことはございませんよ。でもディアドラ様ですと伯爵家だとかなり上位ではないと釣り合いが取れませんし、侯爵家でも裕福なおうちでないと」
カーラ様の実家もかなりのお金持ちだけど、あいにく男の子はまだ三歳なのよね。
でも今は子供が多いはずなの。特に皇子に近い年齢は。
大貴族の中には皇子と縁組させたり、学園で一緒に学べる子供が欲しいからって、時期を合わせて仕込む貴族もいるんですって。そのために急に縁組する貴族までいるらしい。
「三大公爵家はいかがです? パトリシア様のところはお兄様が三人でしたかしら?」
「ええ、でも長男と次男はすでに婚約していますし、十二の三男は恋人がいますの」
リア充、滅びろ。
「パトリシア様は末っ子ですか?」
「はい。兄が三人、姉がひとりおります」
「ランプリング公爵の方は、みなさま結婚していますし、パウエル公爵様は……」
「どうしたんです?」
「ここだけの話ですわよ。陛下と仲が良くないんです。以前は皇都の隣に領地を持っていらしたんですけど、七年ほど前に東側の地方に領地を変えられてしまって、滅多に皇都にいらっしゃらないそうですわ。とてもやさしいお方ですのに、何があったのでしょう」
パトリシア様の疑問に答えられる子はいない。
さすがに子供には、政治の中心でどんな政権争いが起こっているかはわからないよね。
「でも、結果的には移動になってよかったのではないかしら?」
モニカ様が呟いた。
「中央は今、大変でしょう? 皇族やパンドック派の方々は、今回の打撃をまともに受けてしまって大損害だったそうですわ」
私もその話は少し聞いている。
農作物の不作が二年も続いたせいで、貯蓄分も底をついたらしい。今年の秋も琥珀次第とはいえあまり収穫は見込めないから、領民のためにも他領から食料を買い付けないといけないのよ。だから皇族の責任問題追及と並行して、ダリモア伯爵家から没収した財産から、どれだけ損害賠償金を取れるかで揉めているんですって。
確かお父様が秋に琥珀様と面会出来ると話したら、泣いて喜んでいたって言うから、うちとの関係は悪くないはず。
「でも皇族と仲違いしている公爵家にディアドラ様が嫁ぐのは……」
「たしかダグラス様はモニカ様と同い年ですわよね」
「はい。なかなかに剣の強い、前途有望な少年だと聞いています」
もう誰か私に貴族の相関図作って。
そこに上は私より五歳上、下は二歳まで下の男の子の名前も書いておいて。
仲良くしても大丈夫な相手には花丸つけておいて!
いつも感想、評価、誤字脱字報告ありがとうございます。
次回は精霊王の元へ向かいます。




