第20話 私は再びあなたに会うために、新たなルートを望み、ルートに沿って目的地に
花火大会。生まれて初めて、両親にわがままを言った。
わがままを言って困らせた。このまま、終わりたくなかった。
泣きながら、頼んだ。はじめてのお願いであった。
心の底からのお願い。両親は私のお願いを、涙ながらに、聞いてくれた
そう、大好きな、あの人との、花火大会。
土曜日である。先日までの台風の荒天が嘘のように、連日猛暑が続いていた。
隣の美野里は、見事、芸術であろうかというくらい、パジャマからこんにちは
していた。向かい合っているので、直視してしまう。
ここから、ぬけださなければと、
ゆっくり、体をしたのほうから、抜けようとした際に、
ばっしぃ!
と美野里の腕が、僕の体をつかみ・・・またもや、ぱくりぃと。
未来(んーんん-んんん、絶対に、美野里起きているよ、でないと、タイミングが良すぎる)
(いかんいかん、別の所がおきてしまう)
(口元を放して、パンダさんの縫いぐるみを足元から広い、美野里にだかせて、ベッドをでる)
美野里は寝ぼけているらしい。寝ぼけていたら、何をしても良いというのか
でも、何をすればよいのか。いや朝から考える事でもない。
今度時間をとって、ゆっくり、調べてみよう。初めての心得。童貞と処女。
今日は約束の日、この日はあけておいてと、念をおされていた。
念をおそうが、おさまいが、スケジュールは、美野里が掌握しているのだから
右をさせば、右を、左をさせば、左を、…。
僕自身もこのリフレッシュ休暇中、何かしたいわけでもないので、
一人で家にこもっているより、美野里が居て助かる部分が多きい
美野里といると、楽しいのである。
新鮮すぎる、イレギュラー的にではあるが。ほぼ全てが新しい事との出会い
新しい事を知るのは、古い事を知ることでもある。
0 と 1 を知るから、2がわかるし、マイナス1も想定できる
ところが、0であることすら、理解できなければ、1もマイナスも想定できないのである
美野里の場合は、0と1の間の空間に、数字配列が何兆桁かあるのかもしれないが、
0.99999999999をいくつならべても数値としては1にはならない。
1という理屈をつけて、1という存在定義になるのだ。
そう、美野里は、僕の理解を超えている何かを持っている、あるいは、何か事情がある。
アメリカ帰り、スタンフォード卒、27歳、美人、船橋に土地勘があり、
すくなくとも、僕をどこかで知っている。両親は僕に、誕プレといって、美野里を。
新型アルファードと共に。
美野里(うーん、バン、バン、と叩きながら)
「あれ、未来が居ない、あ、いた」
「未来おはよう、どうしていないのよ」
未来(パンダさん、潰されている、可愛そうに…)
「おはよう、美野里、今日予定があると言っていたけど、今15時だよ」
美野里(え?15時、明け方まで未来とアニメ見てお酒飲んでいたから、スマホ、スマホ)
「寝すぎた、未来、お風呂は?」
未来
「シャワー浴びたよ、お風呂洗ってある、丁度追い炊きも終わっているよ」
美野里はその場で、全裸になって、お風呂へ
未来(だから、脱衣所で脱いでくださいと…)
バスタオル一枚で、出てきて、髪を指さす美野里
未来(はい、かしこまりましたと、ドライヤー)
(谷間が…。下を見ても、鏡を見ても、あ、目があってしまった)
美野里(ムフフ、完璧)
「今日、電車でいくの、そうね18時位につけば」
未来(何か言っている?)
「え?何?」
ドライヤーをとめて
「ごめん、聞こえなかった」
美野里
「赤ちゃんが出来たの、責任取ってよね、と言ったの!」
未来
「え!えええ?!!」
俺、もしかして、寝ている間に、まさか、そんな、記憶がないし、もったいない、いやそうではない、え、俺、どうしちゃったの
美野里
「そんなわけないでしょう、今言ったのは、18時位に着くように出かけるの」
未来(顔が赤くなり、完全におちょくられている)
「…」
美野里
「浴衣で行くからね、着替えましょう」
未来
「どこに?浴衣、お祭り?」
美野里
「じゃーん、これよ、これ!」
未来
「え?花火大会、幕張」
二和向台を出て、海浜幕張駅に向かった。
美野里
「電車、浴衣の人多いわね、皆さん目的地一緒なのかしら」
未来
「そうみたいだよね、スマホで過去のを見ると、凄い人だね」
「花火大会か、初めてだな」
美野里(は?この人何を言っているの?)
「ぶぶー、はじめてじゃないでーす」
未来(ん?何の話をしているのだ?)
海浜幕張駅に着くと、凄い人であった、改札に出るまでに時間がかかった。
改札を出るとさらに物凄い人。スマホのマップを見て、移動した。
美野里(手を繋ぎたい、手を、未来、わたし迷子にならないように、手を)
未来はそのまま進む
10分位でつきそうなのに、なかなか、進まない、目的地につくのに1時間位かかった。
未来
「りんご飴、2つ、隣で、生ビール」
「こっちは、チョコバナナ、2つ」
美野里(りんご飴に、チョコバナナ、どうして?)
(手を繋ぎたいが、ビールと、りんご飴と、チョコバナナ、手が塞がってしまった)
美野里は不思議そうに、未来を見つめる。
未来
「ビールに、甘い物、これは、これで美味しいよね」
「大人の醍醐味だ」
美野里(そうだ、大人。あの日の事を鮮明に思い出す。私の中ではつい、昨日の事なのだけれど)
観客の多さが圧倒的だった。所狭しと人、人、人。
定刻になり
ひゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーん
ばーーーーーーーーーーーーーーーーん
花火大会が始まった。
二人で初めてみた、花火大会
泣きながら、わがままを言って、
連れてきてもらった、花火大会
それが、今、再び
空を見上げる未来、その顔を見る美野里
水面に映る花火。
あの時と同じだ。
未来
「すごいね、大きい!こんなに大きい花火見たの、初めてだよ」
美野里(ちがうよ、未来、未来、思い出して、初めてじゃないのよ)
次々に打ち上げられる花火。鮮やかで、形も様々で
人は多かった。
浴衣の女の子たち一行が横切る。誰かに手を振りながら
その一行に、美野里がぶつかってしまい、
「すいませーん、ごめんねー」
と
美野里(ばった、あ、倒れる。うわ、ぶつかって)
その場に、倒れそうになる美野里
未来(そっと、手を差し出し)
「あぶないよ、美野里」
未来は、美野里の手をそっと、握る
未来 (笑顔で)
「こうしていれば、安心でしょ」
美野里は、ついに、ついに、手をつなげた、つないでくれた、わたしからではなく、未来から
そう思うと、涙、が、頬を一筋、流れて行った。
どれくらいこの時を願ったのだろう、わがままを言って、連れてきてもらった
花火大会、入院中で、絶対安静と言われても、最後のお願いと言って
お父さん、お母さんと困らせた、花火大会。
手を繋ぎたかった、未来と手を継ぎたかった。
それが、未来から、手を繋いでくれたのだ。わたし、生きていて、良いのだ。良い、良いのだ。
花火は綺麗に次々と打ち上げる
ひゅーーーーーーーーーーーーーーん、ばん、ばん、ばん、ばーーーーーーーーーーん
ばんーー、ぱらぱらぱらぱらぱらーーーーぁ。
美野里
(言おう、もう止められない、必ず言う、想いをつげる)
(その為に、私は新たなルートを得て)
(未来の元に、戻ってきたのだから)
(未来に思いを伝えるために)
美野里
「私はずっと、未来が好き」
「好きー」
ひゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん
ばーーーーーーーーーーーーーーーーーーん
未来(いままで、一番大きい花火だ、飲み込まれるようだ)
「え?なに?なんだって、聞こえないよ」
美野里(もう、私の、決意をどうしてくれるのよ)
もう1度…
美野里
「あのねーー」
「私は未来が、好き」
ひゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん
ばーーーーーーん、ばーーーーーーん、ばーーーーーーーーん
未来(これも、でかい、凄いな、幕張の花火、え?えええ?)
「え?何?未来、凄いね花火綺麗だね」
美野里(もう、なんなの、天然近年物、お決まりの、あるある、展開じゃない)
美野里
私は、ぐいっと未来の、腕をひっぱって
ひゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん
ばーーーーーん、ばん、ばん、ばん、ばん、ばん、ざぁざざざあーーーーーーーーー
え?未来
美野里は言葉では伝わらないと
未来と唇を重ねた。
未来の首に、腕を、抱き着いて
美野里は
涙が、
すーーーーと、
一筋
未来(え、どうして、うわ、初キス、そうか、そうだよね)
未来は、美野里を見つめ、一度唇を放して、
美野里を見て、もう1度
ひゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん
ばーーん、ばーーーん
美野里の肩を抱き寄せて、観客たちは大きな、大きな、大きな、花火を見上げていた。
未来は
美野里と、もう1度、未来から、キスをした。
美野里の気持ち、俺の気持ち
言葉には、出ていないが、想いは伝わったし、伝えられた。
長い時間、唇を重ね合っていった。人の視線は気にしない
ずっと、唇を重ねていた。美野里の頬に、零れ落ちる涙。
未来
(俺ここ、着た事がある。)
(そうだ、中学生の頃、1度だけ、花火大会に来た事がある)
(そう、ここに、女の子と)
(それが、美野里だ。二宮 美野里)
まてよ、あれ、学校を休んでいると、俺は東京にいってしまい
風の噂、同窓会と成人式の案内に、同窓会幹事から連絡があり、亡くなったと
俺は成人式も同窓会もいかず
そうだ、亡くなったと聞いていた。
どうして、そういえば、アメリカから帰ってきたと
父さん母さんからの誕プレ。美野里
頭の中で、一瞬にして、色々な事が蘇った
美野里と、初めてのキス
未来の頬にも、一筋の涙が、
すーと、流れたのであった。




