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お誘い

 それから二日後にルーウェン様の来訪を予告する書簡が届き、三日後に彼はやって来た。

 対応するために応接間に入った途端、目に飛び込んできたのは大量の箱や袋。


「ルーウェン様、これは一体……?」


 私が口を開くなり、ルーウェン様は走り寄ってきて跪くと、真っ赤なバラの花束を差し出してきた。


「ペンドラゴン嬢。ご機嫌麗しゅう。この花を是非あなたへ」

「あ、ありがとうございます……」


 勢いに負けて思わず受け取ってしまった。

 お茶を淹れに来たグレイに「部屋に飾っておいて」と託すと、ルーウェン様にソファーを勧める。

 が、彼は座る事なく、今度はそのあたりに積み重なった箱のひとつを差し出してきた。


「これはいま街で評判の菓子です。あなたにと思って。どうぞ受け取ってください」


 蓋を開けると淡いピンク色のバラがクリームであしらってあるケーキ。

こんなもの食べるのはいつ以来だろう。胸の高鳴りを抑えて冷静を装う。


「あら、かわいらしい。グレイ、これも切り分けてルーウェン様にお出しして」

「かしこまりました」


 そしてグレイが部屋から立ち去った後、まだ部屋にはいくつかの箱が残っていた。

 まさか、私がメイドに変装していた時にアドバイスしたアレでは……?

 高鳴る胸を抑えながら、ルーウェン様が差し出してきた箱を受け取る。


「これをあなたに是非。どうぞ蓋を開けてください」


 言われるままに蓋を開けると、そこに納まっていたのは、パーティー用のドレス。

 来た! ドレス本当に来た! 

 淡い黄色をしていて、裾には見事な刺繍が施してある。


「素敵……あの、こんな高価そうなものを頂いてよろしいのですか?」

「まだまだありますよ。あなたに似合うと思って」


 勧められるままに箱を開けてゆくと、他にもドレスが二着、靴や手袋、そしてネックレスやイヤリングまで。これだけあれば、いつでもパーティに行ける。


「こ、こんなに……? 本当によろしいのですか?」

「……もしかして、お気に召しませんでしたか?」

「い、いえ、そんな事ありません!」


 土産に持ってくるようにと勧めたのは自分だが、見るからに高価そうで申し訳なくなる。

 と、ふとイヤリングに目が留まる。銀でできた円形のそれに刻まれていたのは、まぎれもなくドラゴンのモチーフ。

 まさかと思いドレスの刺繍に目を凝らすと、連続したドラゴンの姿が施されていた。

 よくこんなものを見つけてきたものだ。どこで取り扱ってるんだろう。

 でも、高価なものには違いない。


「あの、ありがとうございます……! 大切にしますね」

「お気に召したようでなにより」


 ルーウェン様は満足そうに微笑んだ後、笑顔のまま切り出す。


「実は明日、パーティに招待されてるんですが、もしよろしければ一緒に行きませんか? そのドレスとアクセサリーで着飾った美しい私の婚約者を、早く皆にお披露目しなければいけませんからね」

「まあ、よろしいんですの? もちろんご一緒させていただきますわ!」


 パーティ! なんて素敵な響き! 


「本当に!? この私にペンドラゴン嬢をエスコートさせて頂けると!? 光栄の極み!」

「あの……先ほどから思っていたんですが、どうして『ヒルダ』と呼んでくださらないのですか?」

 

 問うとルーウェン様は目を見開いた。

 

「ペンドラゴンのほうがかっこいいと思わないのですか!?」

 

 あ、ドラゴン好きの片鱗が顔を出したみたいだ。


「いいですか? ルーウェン様。いくら偽装の婚約とはいえ、姓で呼ばれては周囲の人々に怪しまれる可能性だってあるでしょう? どうか『ヒルダ』をお呼びください。さあ」

「ヒ……ヒルダ……」

「結構」


 ルーウェン様は心なしか悲し気に俯いた。何故だ。




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