81 勉強
「にーちゃ、見て!」
「流石、優菜! お前は、天才だ!」
悠人は、愛する妹を強く抱き寄せる。優菜も楽しそうに、満面の笑みでされるがままになっている。
悠人、嬉しい感情が振り切ると行動に出る男。
こうなった原因は、優菜の片手に持っている紙が原因である。それは、答案用紙。
学業にとって、必ずある試験期間。優菜は、満点を取り、悠人に見せつけたのだ。
悠人もこれには、ニッコリ。
「にーちゃのおかげだよ!」
「いや、優菜が分からない所をちゃんと理解したからだ」
「でも、ありがと!」
「おう、どういたしまして」
しかし、悠人は気づいてない。
テストの点数は、悠人が勉強を教える時から、全く変わっていない事に。優菜は、1つ嘘をついているという事に。
優菜は、元々勉強が出来た。授業で聞いた事を、そのまま頭に入れられる容量の良さ。また、自分がどうすればそれらが頭に入るのか。自分に合った勉強法を既に見つけられているからに他ならない。
しかし、優菜も優菜で1つ思ったことがあった。
早苗がよく持ってくる乙女ゲーム。一緒にやるのは楽しい。楽しいのだが、攻略するのは画面越しのキャラクター。よって、兄の意識は自分ではなく、そのキャラクターに向けられる。
それを自分に向けたいと。
なら、どうする?
一緒に料理? 馬鹿、料理中にスキンシップは危ない。
一緒に寝る? 私のアホ、いつも寝てんじゃん!
一緒にトレーニング? ははっ、自殺だよね。
一緒に勉強? ……これだ!
優菜の行動は素早かった。というか、容易い事だった。
悠人が家に居る際に声をかけて、リビングで教科書、ノートを開き、座って待つ。
たったそれだけ。
悠人は、妹が既に分かっている部分を、教える事になろうとは思うことはない。ただ、分からない所を聞かれて、分かりやすく伝えられるように頭を悩ませるだけ。
「あっ、分からない所があるんだ!」
「ん、どこだどこだ?」
「こーこ!」
家庭教師と可愛い嘘つきの生徒の時間は、これからも続く。
「お兄さん、お兄さん! ここはどう解けば良いんですか?」
「あー、ここはさっきの公式の応用なんだ。だから、途中式もこういう感じになる」
「はい、ありがとうございます」
優菜が思いついたなら、早苗も思いつかないわけがない。そして、早苗が思いついたのなら、
「里奈ちゃん、ちゃんとして下さい!」
「貴女は、やれば出来るのに何故しないの?」
「本当に放っておくと酷い点数取るのはむしろ笑えるわね」
「うるさーい! 今頑張ってるでしょーにっ!」
マリア、明日香、柳田、里奈も当然考えつく。
しかし、里奈以外は、元々優等生なので、「えっ、俺が教える事ないよ?」と反応されるのは間違いなく、最終的には喋りながら宿題するくらいになってしまう。
それはそれで良いが何か違うのだ。
しかし、里奈は、放っておくとテストの点数を落とす、宿題を平気で忘れる。よって、里奈が家に遊びに来た際に、悠人が捕まえて、そのまま勉強を始めた。
悠人は、里奈のプロゲーマーになるという輝かしい夢。その為に、日々腕を磨いており、大会に出場し、優勝経験を何度もしているのを知っている。彼女がプロゲーマーになる夢は叶えられるかもしれない。だが、やはり進路が一本道だけでは、何かと心配になってしまう。
大変心苦しいが、ここは鬼になり、勉強を強いるべきだと。
里奈は、それを理解して渋々ながら、ノートを開き、悠人の説明を聞いていた。
彼女からしてみれば、そこまで思ってくれているのは、嬉しさと申し訳なさを抱くものであった。
「ねぇ、私も悠人君に教えてもらいたい」
「お静かに」
「黙ってやりなさい」
「筆止まってるわ」
「酷い!」
優等生組は、それを許さない。
優しいから、私の方が教えるの上手いから等の口実を並べて、即座に家庭教師の立場を変わった。そして、里奈に対して当たりが強い。
それもそのはず、自分らは真面目に勉強し、良い点数を取ったにも関わらず、この女、勉強を教えてもらうだけでなく、良い点数を取ればご褒美がある。
それは、親友であれど許せん。
真面目にやってる自分らは何も無いのに。
「里奈、少し休憩するか?」
「はふぅ、悠人君の温かさが心に沁みるぅ」
隔離目的で、悠人の部屋で里奈は勉強中。そんな中、悠人は飲み物を持って労いの言葉をかけた。
やはり、いつもより里奈に対してあまい。それが態度、表情に出てしまっている。
普段の笑みが消えており、心配と謝罪を含ませた表情で、里奈を見ていた。
「でも、大丈夫! もうちょっと頑張るよ」
そんな表情を見てしまえば、逃げるなんて事はできない。里奈は、3人の協力もあり、効率良く勉強を進めた。
そして、
「100点! まぁ、余裕だよね!」
「極端過ぎるんだよぉ! てめぇはよぉ〜!」
「きゃあああ!」
後日、さも当然のように、満点を取った里奈に対して、髪の毛を乱暴に触り、髪型をボサボサにしている悠人。悲鳴を上げながら、そのスキンシップを楽しんでいる里奈。
教えた優等生組は、それを羨ましそうに。そして、溜め息を吐いて見ていた。
因みに、ご褒美は新たに始めた格闘ゲームの相手という何とも平和なものであったため、特に争いは無かった。




