70 覚めてから
目覚めて2日目。
「悠人、大丈夫ですか?」
「本当に大丈夫だから」
「本当に本当に、大丈夫ですか?」
「いや、だから今日も異常は無かったから」
「そう」
「エリナが悪いわけじゃないから、責任感じなくてもいいよ」
「しかし、私があの時向かっていれば、こんなことには」
悠人が目覚めたと知り、皆は飛び出して行きたい思いであった。しかし、一気に大勢で向かうのは迷惑と判断。ローテーションを組み、1日2〜3人訪れるということにした。
そして、最初に向かったのはエリナであった。
今回の件について、彼女は自責の念が止めどなく押し寄せてきていた。それは、悠人が目覚めてからも続いていた。だからこそ、誰よりも早く会わせるべきと周りは気を利かせ向かわせた。
実際、病室に入り悠人の姿を見た途端走り出し、彼を抱きしめた。
普段の彼女であるならば絶対にしない。しかし、今回ばかりはそうはいかなかった。
先の会話の間もずっと抱きしめられているので、彼女がどれほど追い詰められているかは容易に想像できる。
昨日のこともあって、改めて悠人は自分の価値に気づいた。
「大丈夫、また鍛えてくれ。今よりもっと強くなるから、不意の一撃を避けるくらいに」
そんな状況ポンポン起こってたまるかと、聞いたエリナも内心毒を吐く。しかし、その言葉はエリナの安心を与えるのには十分だった。
「ええ、もっと厳しく。限界まで」
「えっ」
「やはり剣術だけでなく、柔道、空手。しかし、足を大切にして欲しいので、ボクシングでしょうか。ああ、ちゃんとバスケもしましょう」
「ちょっ」
「ふふふふふふ、トレーニングの時間。私は楽しみに待っています」
「ふぁい」
更に厳しくできたんかい、と悠人は発言にちょっと後悔した。だが、いつものエリナに戻ったことを思えば、全く問題ではないと判断した。
まぁ、彼女が恥ずかしさで身悶えるのは、悠人の病室を出た数分後。
だって、さりげなく頭も撫でられていたのだから。
「柳田」
「何かしら?」
「これはどーゆー?」
次に、来たのは柳田。
彼女は病室に入った途端、小走りで悠人の元へ。そして、さりげなく胸に顔を埋めながら強く抱きしめた。
「私は心配したわ。本当に凄く心配したのよ。ええ、新聞もろくに書けないくらいに。だから、これくらいは許されるべきよ」
「りょーかい」
「それで、悠人君の寝ていた3日分の大きなニュース、新聞記事をノートにまとめたけど」
「おお、それはそれは」
「私の口から伝えたいから今は渡さないわ」
「えぇ、まぁいいけど」
「では、まずはこちらをご覧ください」
「はいはい、まーた政治家の汚職ですかー?」
「ええ、残念ね♪」
柳田は抱きしめるのは辞め、胸に背を預ける。そして、ノートの1ページを悠人に見せる。
悠人も一向に離れる気がない柳田を、まぁ心配かけたしと納得しされるがままに。
丁寧の更に丁寧を重ねた分かりやすい説明をする柳田。そして、最後のニュースに悠人は頭を悩ませる。
【東堂悟、引き籠る! グラウザーも音沙汰なし!】
これは風評被害待ったなし。
真夏の話からは、皆心配していた程度であった。では、どのくらい心配していたか、となれば個人差がある。
悟の場合は、引き籠るくらいだったというだけ。
「未だに引き籠ってるわ。もう4日目ね」
「電話していい?」
「いいわよ」
「あざーす」
潮時と感じる柳田。
悠人のどこか悪い様子も見られず、何より色々と堪能できたので大変満足であった。
『……グラウザー?』
「そうだぞ。心配かけたな」
『えっ、うぇ? 目が覚めたのっ!? 今から行くよ!! 絶対に病院から出ないでね! 絶対だよ絶対!』
「分かった、分かった」
『お母様! ヘリコプター! ヘリコプター出してっ!』
「ちょっと待ってぇ、目立つぅぅ」
『待っててね!』
そちらの方が待って欲しい悠人。しかし、それを言う前に通話を切られた。
「では、テレビをどうぞ」
気を利かせたのか、利いてないのか問答無用でテレビの視聴を余儀なくする柳田。
『悟君が引き籠り4日目となりました。あのいつも笑顔で外を出かけていたはずなのに、何故なのでしょう。本当に何故なんでしょう? 何故なの? ねぇ、何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故? グラウザーのせいなの? あいつのせいなの? あいつを消……。
都合により、番組を変更してお送りいたします』
「……」
「大丈夫よ、多分」
「せっかく目覚めたのにねぇ」
「不謹慎」
「チャンネルを変えよう」
『あっ、ヘリコプターです! あれは東堂家自家用のヘリコプター! 急に何処へ向かうというのでしょう? 今すぐドローンを飛ばして動向を探ります』
『えっ、……嘘、病院? まさか、グラウザーは動かないのではなく、動けなかった? 彼の身に一体何が? 現場からは以上です』
(これ後日会見とか開かないといけない感じ?)
「グラウザー、グラウザーグラウザーグラウザー!」
「心配かけてごめんな」
「もう、ずっと心配してたんだからね!」
「目が覚めて良かったです」
「すみません、春妃さん。ご心配をさせてしまって」
「いえ、大事に至らなくて良かったです」
柳田と入れ違いになる形で、病室に入ってきた悟君と春妃。
心配してくれていたのは嬉しい。
嬉しいのだが、
「どーすんのよこれ?」
「知らない!」
「うーん、この」
つけたままのテレビは、病院前に報道陣が集っている様子が映されている。悟と春妃の2人はヘリで来たから出待ちは意味がないというのに。
「ねぇねぇグラウザー。もう平気? 何処か行ける?」
「しばらくは安静。だから、遊びには行けないな」
「むむむ」
「大丈夫、昨日も今日も異常は見つからなかったからな」
「ならいいや! 今度、ピクニックとか行こうね」
「ああ。ところで、いつまで抱きつくつもりだ?」
「気が済むまで」
悠人が誰かに抱きつかれる状況は今日で3回目。これ後日他の人が来た時もこんな感じになるのだろうか。悠人は、複雑な心境であった。
そして、そんなことよりと話を続けられる。
「さっき女の人とすれ違ったよ! グラウザーの彼女さん?」
「彼女ではないな。でも、信用と信頼できる人だよ」
「確かに僕を見ても理性的な目をしてた」
「彼女には困った時はいつもお世話になってるよ」
しかし、偶に困りごとを持ってくることはある。
「へぇー、そうなんだ」
「ああ、けれどメディアにはくれぐれも余計な事は言わないように」
「僕、そんな口軽い?」
「軽すぎて怖い」
「酷い!」
「春妃さんもどうか悟君に注意をお願いします」
「ええ、分かりました」
「お母様!?」
2人とも酷いと文句を垂れる悟。
それを見るに、先程まで引き籠っていた様子は微塵も感じられない。悟はいつも通りの明るい笑顔を覗かせる。
元に戻って良かった、と悠人は思った。




