34 報酬 ≠ 金 報酬 = 蟹
「悠人様、また聖アテネ学園でお願いしたいものがあるのですが…」
現在自宅に来ている聖アテネ学園の校長の林さんの今回の一言を聞く限り聖アテネ学園で何かをして欲しい事があるらしい。
分かってはいた。
触れ合い会もそうだが、たった一度だけで済めば話は早い。
来年も触れ合い会に参加して欲しいと言われるはずだ。てか絶対言われる。
林さんに聞いた話では、数年前に雇った男性は、刑務所の面会のように触れ合いを完全に防ぎ、くもりガラスで顔はよく見えない状態。それだけにとどまらず、なんと声も聞かせないという事があったらしい。
だからこそ、俺の触れ合い会は高学年、低学年、幼稚園、保育園、保護者ともにとても好評だったのか。
そして、俺へのお礼のお手紙が100通程。
手紙一つに付き便箋1枚かと思いきや、5、6枚程。
感謝の手紙なんて、
【悠人様、この度はありがとうございました。また来ていただけると嬉しいです】
と思っていた俺が馬鹿だった。
そして、前世で学校に職業説明などで来ていただいた方に対してありきたりな手紙を送ったことに罪悪感も感じた。
「では今回は何をすればいいのですか?」
「いえ、その前に前回の報酬の支払いを」
「林さん。それはもう頂いたので結構ですと何回言えばいいんですか?」
あの後、報酬は金一封という破格のものだった。しかも、金額記入してなかった。
しかし、自分の好きな額を入れて欲しいと林さんに言われて記入して既に払ってもらってあるのだ。
「ですが、1円は流石に…」
まぁ、金一封を1番勿体ない使い方をするのは俺くらいだろう。
あの時の林さんは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で面白かった。
「好きな額といったはずですよね? 林さんに言われて私が決めたのに、それはどうかと思います。本来なら、こうして頂いた手紙だけでも良いと言っているのに」
「絶対ダメです。こんな事が生徒のお嬢様方に知られたら黙っていません」
「私はボランティアとして参加したと言えば納得してもらえますよ」
「いいえ、納得しません」
ズイっと顔を寄せてくる林さん。
「林さん! にーちゃがいいって言ってるんだから、諦めて下さい!」
今まで俺の背中に寄っかかったり、抱きついたり、服の中に入ってフガフガしていた優菜が言う。
あと俺の隣に真夏がいる。
「まぁ林さん。悠君もまだ子供ですし、大金渡されても困るだけですから、大目に見てあげて下さい」
「……確かにそうですね。悠人様が随分と大人びているので、忘れていました。分かりました、報酬の方は真夏様に決めてもらいます」
「えっ?」
「ではこちらに金額の記入をお願いします」
林さんはそう言うと、金一封とボールペンを真夏に渡す。
俺と優菜は真夏の横顔を見つめる。
真夏は緊張しているためかプルプルと震えながらボールペンを掴み、金一封に記入する。
その金額、
1円。
「なんで親子揃って1円なんですか!!」
「いや無理ですって」
(息子をダシに使ってお金なんて貰いたくないし)
「じゃあもう私が3000万振り込んでおきます!!」
「「「早まらないで下さい!!」」」
(……木下家はお金は貰いたくないのかしら)
結果的に、お金以外ということで高級タラバガニで渋々手を打ってくれた。
蟹パ楽しみである。
「ところで、何をすればいいんでしたっけ?」
「はっ! 忘れていました。実はこれを」
林さんはテーブルの上に紙を一枚出す。
「コンクール、ですかね?」
「はい、内容としては我が学園を会場とし世界各地のお嬢様方が個人の得意な楽器を演奏し競い合うというものです」
「えっ…と、つまりサプライズゲスト?」
「そのとうりです!」
「すいません、お断りさせて頂きます」
「なっ! 何故ですか!?」
「いや、会場が聖アテネ学園じゃないですか」
「あっ…」
「あっ…じゃあ、ありませんよ。監禁事件の事を忘れてません?」
「はい、忘れていました。コンクールは毎年我が学園を会場にするようにしていますので、前と同様に会場を別にとは出来ないです。すみません」
「いえ、こちらも我が身大事ですみません」
その後、林さんは帰宅。
そして、その1時間後に蟹が届いた。
早すぎる対応に、今日の夜飯をどうするか悩むことになった。
ご丁寧に蟹専用のハサミも付いてきた。
「と言うわけで、とりあえず食べて」
「木下君、私が金一封を1円にという話を聞いて、淡々と高級タラバガニを食べると思ったの?」
「えっ、でも里奈は淡々と食ってるぞ」
「明日香ちゃん、これ美味しい。すっごい美味しい。やっばい美味しい。」
「里奈ちゃん…少しは遠慮しなさいよ」
「まぁまぁ、悠人様は後で説教するとして、今は食べましょう」
「ちょっと待ってマリア。俺怒られる事したか?」
「自分の価値を理解しない方には、ある程度教育しておかないといけないですからね」
突然大量に蟹が届いたので、突然彼女達を家に誘い、突然蟹パを開くことにした。
「お兄さん、蟹美味しいです!」
「そうか、それは良かった」
マリアから逃げるように早苗ちゃんの元へ向かう。
ちなみに、俺は早苗ちゃんのL○NEや連絡先を知らないので優菜が誘った。
蟹を頬張る様子がハムスターのような愛嬌があってとても可愛い。
その頬を指で突いたら絶対可愛い反応するだろうけどしない。
「流石に新聞のネタにしたら、私が炎上しそうね」
「とりあえず、カメラ置いて食え」
柳田も誘った。
彼女には何かあった時のために、L○NEを交換しといた。
「悠人君からL○NE来たから何かと思ったら、うちに来て蟹を食べないか…ね」
「悪かったな」
「ところで私だけ扱いが雑なのは気のせい?」
「気のせいじゃないぞ。自分の胸に聞いてみ? 俺の風評被害は全部君のせいだろ?」
「違いないわ」
こいつ開き直りやがったぞ。
夜々ちゃんも誘おうとは思ったものの、知ってる顔が俺と優菜のみ。
流石に夜々ちゃんが気まずいだろうから誘わないことにした。
そして、
「今日は飲むぞ〜!!」
「美雨、あまり飲みすぎないようにね〜」
「リボン、今はゆっくりしなさい」
「分かりました、エリナ様お酒お注ぎします」
大人組もいらっしゃいます。ええ、保護者同伴です。
「悠君、多分全員酔っ払うと思うから近づかないように」
「分かった」
真夏の注意もあるので、絶対に近づかないようにしよう。
「にーちゃ、あーん」
「あーん」
優菜が俺に蟹をくれるそうなので、それにあまんじて食う。
うんめぇ。
「あーん」
パクッ!
「あーん」
パクッ!
「あーん」
「優菜、もういいから」
「何にーちゃ私の蟹が食べれないの!?」
いやね、これ以上続けるとね。
蟹の食べれる部位を俺に向けながらこっちに近づいて来る乙女達がいるんだよ。
蟹味噌を啜りながら、目を背けた。
次の日、
『ゆーとさまのいけず、わたしもさそってほしかった』
「ごめんなさい」
蟹パした事が優菜とのL○NEで伝えられたらしい。
俺としては気を利かせた筈なのだが、夜々ちゃんには余計なお世話だったらしい。
「ちゃんと埋め合わせはするから」
『ほんと?』
「本当、本当」
『じゃあ、こんどのこんくーるにきてほしい。わたしゆーとさまのためにぴあのをひく』
「えっ!?」
『だめ?』
「会場はアテネ学園だよね?」
『うん』
「えーと、他の頼み事がいいな…」
『いまのおねがいはこれしかない』
「あ〜…」
『きてくれる?』
「お母さんの許可がないと行けないから、聞いてからね」
『うん!』
どうしよう、大丈夫かなぁ。
でもとりあえず、
「真夏、コンサート行きたいんだけど良い?」
「悠君、お願いが懇願に見えるのはどうしてかな?」
「約束事だから」
「はぁ…フル女装と完全防具ね」
「よっしゃ」
さて、どうなりますかね…。




