29 運動会 前
『これより浅野小学校運動会を開催致します』
クラスの色別に分かれて全校生徒が朝礼台の前に並び、体育委員長の子が運動会の開式を宣言した。
もちろんのこと俺は保護者側の席で優菜の入場を写真に収めていた。しかも優菜は入場中に俺の位置を見つけ愛い度100%の笑顔を見せてピースをしてくれた。
感動して涙が出そうになった。
優菜の出る種目が、50m走、借りもの競争だけなのだ。
少ないぞ!もっと優菜を出せ!
後、里奈達も撮っておこう。
「悠人様、そういえば何でビデオカメラで撮影しないんですか?」
「優菜が恥ずかしがって一緒に見れないからです」
「なるほど」
「それにまだみんなの出る種目ではないので今はゆっくりします。真夏」
「ん? あっ、いいよ」
真夏に声をかけると真夏は俺に背を向ける。俺はその背中に寄りかかる。
ああ、体が楽なんじゃ〜。
何かに寄りかかっている状態が1番楽なんだよな。ただ一つ欠点があるとすれば、
「あっ、悠君ブラのホック外れちゃった」
「分かったつける」
ブラのホックがよく外れること。毎回つけ直すのも面倒である。
(私の膝の上に乗って寄っかかればいいのに……)
と思っている真夏であるが、思春期に入ったのだろうと予想する。欲を言えば、正面から寄っかかってくる悠人の頭の上に顎を乗せたいのだが、親である自分から言うのは抵抗があるのだ。
しかしそんなことを知らずに、
(やはり、あまえるのはこれが限界だな)
としみじみ思う。
「悠人、リボン! マリアの番が来ました!」
「ははは、承知しているとも写真だな?」
「では私は皆さんをビデオカメラで!」
俺とリボンさんはいつでも撮れるよう準備する。
「悠人君〜、里奈も撮ってあげて〜」
「承知!」
玲奈さんにも頼まれた。
「悠人君、明日香もお願い」
「承知しました!」
更に美雨さんにも頼まれた。
「何でみんな悠君に頼んでるのよ?」
「「「そっちの方がマリア(里奈)(明日香)が喜ぶから(喜びますから)」」」
娘の事を良く考えている母親の鑑。
種目は徒競走。しかし、彼女達なら1番になるだろう。
「悠人くーーん!!」
里奈の順番だ。里奈は俺に声を掛けてくる。
「里奈〜頑張れよ〜。撮ってやるからな〜」
「ありがと〜」
あっ、いい笑顔、頂き。
当然の如く一位。
「悠人様〜!!」
マリアも里奈のように声を掛けてくる。
「マリアも撮るからな〜」
「はい! 頑張ります!」
……やる気に満ちた表情、頂き。
そして、圧倒的差で一位。
「木下君」
そして明日香も、
「私、ちょっと写真撮られるの恥ずかしいから撮らないで……」
と頬を赤らめて顔をそらす明日香。
「……」
……頂き。
「今すぐお話しよ?」
「何故バレた、えっ今すぐ?」
明日香は一位を取ったが、走った勢いのまま今撮った写真を消そうと来たので俺はカメラを外し全力疾走で逃げた。
追ってくる明日香の顔もいつものクールな彼女が見せない中々珍しい表情だったので撮りながら逃げたが、結局捕まりカメラを取られた。
直ぐに返してもらったが全部消されていた。
いい表情だったのにと、ため息を吐く。
それならば、
「じゃあ2人で撮るか」
「えっ? じゃあそれなら」
「じゃあ寄って」
カメラなのでスマホの自撮りのように上手く撮れるか分からない。しかも明日香の頰がくっつきそうな程近い。でもこれくらいがいいのかなと思いながらシャッターを切る。
それはさっきまで撮っていた写真と比べ物にならない程良い表情をした明日香が撮れていた。
まぁその後明日香は少し先生に怒られていたけど。
「酷い目にあった」
「明日香、いつもは堂々としてるのに。恥ずかしかったのね」
「でも美雨さん、明日香とこんな良い写真撮れましたよ?」
「あっ、良い表情してる。羨ましい」
後日、明日香に渡しに行こう。
「悠君、もうすぐ優菜の番よ」
「何だって? 今すぐに準備せねば」
真夏に言われ、直ぐに準備。
「にーーちゃーー!! ママ〜〜!!」
我が愛しき妹が真夏と俺に向かって元気な声を上げている。しかし、まだ順番ではない。
「頑張って優菜〜!!」
「頑張るんだぞ〜!!」
俺と真夏は手を振って声援を送る。
「優菜ちゃん!!頑張ってね〜」
「貴方なら1番になれるわ」
「あれだけ頑張っていたんですもの、1番になれない訳がありません!!」
生徒側の席にいなければならないはずなのに、里奈、明日香、マリアが隣で声援を送っている。
「もしかして優菜は練習していたのか?」
「ええ、私に頼みに来て一緒にトレーニングを」
俺が質問するとマリアが答えてくれた。里奈も明日香もうんうんと頷いている。その様子だと全員でトレーニングしたらしい。
「木下君は知らなかったでしょ? まぁ秘密のトレーニングだったから」
明日香が言う。
「なるほど」
「悠人君〜、優菜ちゃんの番が来るよ〜」
と玲奈さんに言われカメラに集中。そして待ちに待った優菜の番だ。もちろん、スタート前から写真に収める。
今の優菜は真剣な表情を浮かべている。いつものあまえてくる可愛い優菜とは違いカッコいい優菜も良い。というか、その表情見せることが珍しいんだよな。
スタートピストルが鳴る。
優菜はスタートダッシュを上手く決め、足を高く、腕を大きく振り、他の子達に圧倒的な差をつけてゴール。
「にーちゃー!! ママ〜!!見てた!? 1位だよ〜〜!!」
とピースをしながら俺たちを見る。
「優菜! お前がナンバーワンだ!!」
「やったね! 優菜〜、最高よ!!」
嬉しさのあまりに俺と真夏立ち上がりお互いに抱き合う。
そんな様子を見た優菜は、
「む〜〜!! 私も混ぜてーー!!」
と頬を膨らませながら走って来る。なので俺と真夏は優菜を挟んで抱き合う。
そしてこの光景を見た他の人は思った、
(やはり木下家は全員ファミコン)
……と。
ーー昼食ーー
「悠人様のおにぎり美味しいです」
「ええ、本当にねリボン」
「あっ、唐揚げ入ってる〜。私好きなの〜」
「ああ〜、美味しい〜。」
「あんた達、悠君の作ったおにぎりばっか食ってないでおかずを食べてくれない?」
と大人組を注意する真夏だがその片手には俺の作ったおにぎり。
そして、
「にーちゃのやっぱり美味しい!」
「木下君の形もいいし美味しい」
「悠人君の作った食べ物ってオムライス以来だったっけ?」
「羨ましいです、里奈ちゃん。あっ、梅干しです」
「みんな口をものに入れたまま喋るなよ」
誰もが俺の作ったおにぎりを取っていく。
一応多めに作っておいて正解だったな。さて、俺はリボンさん、美雨さん、玲奈さんの作った弁当でも頂こう。
そして、
「えっ……と、すみません私まで」
「いいのいいの、気にしないで早苗ちゃん」
お母さんが急な都合で来れなかった早苗ちゃん。優菜が気を利かして連れてきたのだ。
だが、ちゃっかり早苗ちゃんの手にも俺のおにぎりがある。
「人が多いのは良いことだしね」
1人は寂しいからな。
「ありがとうございます」
笑顔な早苗ちゃん。しかし、その頰にはご飯粒が。
「それよりご飯粒ついてるよ?」
「えっ、何処ですか?」
「左左」
「ここですか?」
「はずれ、ここだよ」
俺はご飯粒を取ってあげる。そしてそのご飯粒はティッシュに包む。
「……あ、ありがとうございます」
気分を落としてしまった早苗ちゃん。
ごめんな、多分食べさせて欲しかったんだけど、
‘’ジッ〜’’
何十人もの視線の中でそれは自殺行為もいいとこ。前のゼッケンのような過ちをまた起こす事になりかけたのだ。他の保護者や生徒達の視線に囲まれていたのすっかり忘れてた。
全く危なかったぜ。
「私としては食べさせてあげた方がネタになるけど」
と後ろから急に話しかけられた。振り向くと俺の公式ストーカーの、
「柳田さんか。それ俺にとっては不謹慎だぜ?」
「ごめんなさいね。それよりも私もいい? 私も親来てないから寂しいのよ」
「別にいいけど、珍しく話しかけてきたんで少し驚いた」
「そうね、やっぱり新聞は取材も必要だからこれからは少しずつ話を聞かせて貰いたいのよ。このままじゃ、悠人君の生態調査になっちゃうから」
と言いつつ俺の作ったおにぎりを手に取る。
あの……俺の分のおにぎり無くならないよね? ……ね?
「まずそこまで細かく書かなくてもいいんじゃ?」
「私も思ったんだけど、手を抜くってジャーナリスト目指す者としてどうかと思って」
「まぁ、そこら辺は柳田さんに任せる。後はその記事のせいで俺に被害がなければ良い。捏造は勘弁してよ?」
「分かってる。迷惑はかけないわ」
そう彼女と話していると、
「へぇ〜〜、貴方が悠君のストーカーさん?」
威圧するように真夏が柳田さんに話しかけた。いくら本人が許可しているからってストーカーしているのだ。釘を刺しておきたいのは当然だろう。
「えっ、あっ、柳田です! 息子さんには大変迷惑をかけております! えっ……と、お近づきの印にどうぞ」
威圧に圧倒され少しきょどってしまう柳田さん。そして茶封筒を真夏に渡している。
…賄賂か? 賄賂だ。賄賂だよ。俺知ってるこれ絶対賄賂だ。
「真夏、何を受け取った? 捨てなさいそんな物」
「これは……捨てれないよ、悠君。これは悠君の写真よ!」
と中身を確認して写真を何枚か見せてくる真夏。
因みにこの真夏が見せてきた写真。実際に新聞で使われた写真で【みんなで選ぶ最高の写真ランキング】の1位から5位の写真なのだが、これを木下悠人が知ることはない。
その写真を確認した俺は、
「なら仕方ないか……」
と納得する。俺も逆の立場だったら捨てたくないし、ラミネート加工してファイルに入れておくからな。
しかし、
(納得するんだ……)
と真夏と優菜以外思った。
賄賂、仕方ない、良いものだったら。




