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95 迎えた卒業

 




「悠君。改めて卒業おめでとう」

「ありがとう、そしてこれからもよろしく」


 木下悠人、人生で2度目の小学校卒業を味わった。

 その証拠に片手には卒業証書が入っている筒を持っている。既に、先生や同級生、後輩達にもみくちゃにされてはしまったが、今では落ち着いて帰宅するところ。

 真夏も高そうな一眼レフに沢山の写真を収めて内心ほくほくの様子だった。


 それと同時に大きくなる我が子の成長を見て、やはり少し寂しく思う。今でも自立出来そうにしっかりしている悠人が更に大きくなれば、自分の遠い所へ行ってしまうのではないかと。


「6年かぁ〜、時間が経つって早く感じる」

「大人になると、人生って短く感じるもんなのか?」

「私趣味少ないから、基本的には、仕事行って〜、帰って来て〜、友達や家族で過ごして〜だもの。悠君みたいに破天荒な人生なら長く感じるかもね」

「そうだな、色々あった」


 そんな事は知らない男は、6年間お世話になった校舎を見て、寂しさを感じていた。

 主に女性関係の悩みは多かったものの、それでも過ごした時間は楽しかったのだ。


「実際、不安も多かったけどね〜、私は」

「ごめんなさい」


 真夏はずっと思っていた。

 でも、それが私の新しい繋がりも作ってくれたのよね。


 一般男性と同じく、自宅や専用の施設に教育を受けさせていた場合、美雨やエリナ達と友人関係になる事はなかっただろう。休みの日に誰かに会いに行く事もなく、悠人と優菜の成長を見ているだけだったはず。

 だからこそ、今の生活はとても充実している。想像していたものよりずっと。……嫁候補は増えたけど。


「中学でも頑張りなさいね」

「おうよ!」

「ところで、上着は?」

「御守り代わりに渡したというか回収された」

「全く、今日おろした物なのに」

「いや、本当それ言ったんだけどさ。別に構わないってさ」


 家を出た時には来ていた筈の上着はなく、ネクタイを外し、第1ボタンを開けた長袖のカッターシャツ姿。また、黒色のヒートテックを薄く覗かせている。


「校長せんせに言われたら断れないっつうか」

「いや、校長先生何してるの?」

「まぁ、最後だし」

「ズボンも持っていかないだけマシかしら」


 後日、校長室の前に、ライフルも通さない防弾ガラスによって厳重に守られた状態で展示されていることを優菜と早苗から聞かされる。





「凄い量だな」

「そうね、来るのも納得。最後の足掻きのようにも見えるけれど」


 テーブルの上に並べられているのは、恐ろしい数の男子校の入学案内の冊子。更には、一緒に入学届けまで入っている状態。つまり、これに記入して配送すれば、その学校の新入生となる。


「これまでのやらかしを見てればね」

「せめて、偉業と言ってくれません?」

「じゃあ誇れる? その偉業」

「やらかしですね、間違いない。しかし、まさか男子校からも入学届挟んで送って来るとは思わないよなぁ」

「行くの?」

「行くわけないじゃん。皆と一緒にいたいし」

「そっ、そう」


 春休みを迎えて、悠人が暇な時は、毎日木下家に訪れる明日香。長い休みに入るとそのまま泊まるのも珍しくない。今までの春、夏休みも泊まっているので、里奈達からずるいずるいと結構文句を言われている。しかも、家に訪れれば「いらっしゃい」から「お帰り」に変わっているので、これって実際同棲なのではと思いつつある。

 最近は私物を悠人の家に持ち込んで、そのまま置いておくというのが彼女のマイブーム。


 そして、その母美雨は、流石に泊まりはしないが、明日香と同じく食卓を共にするようになった。

 仕事帰り、自宅に寄って、大好きな彼が「お帰りなさい」と笑顔で出迎えてくれる。しかも、休みだと知れば、お酒をジョッキに入れて、「おつまみ作りますね〜」と用意してくれる。そして、うっかり寝てしまったら、そのまま布団に寝かせられるという始末。真夏曰く、「王子様抱っこされてたわよ」らしい。くぅ〜好き。


「暇だわ、悠人君」

「ゲームでもしてなさい」

「悠人君で遊んでいる方がマシよ」

「人をモノ扱いとは薄情な奴め。そんな奴には、ケーキを贈呈しよう」

「M?」

「N」

「つまり、どちらでも構わないという事ね」

「黙らっしゃい、ケーキやらんぞ」

「悠人君、やっさしー!」

「しょうがないなぁ、今回だけだぞ?」


 そして、暇を持て余しているのは奴のストーカー柳田。

 学校にいる間の行動は全て追ってはいるが、学校外は管轄外。当然、記事を書くことがなければ暇なので、悠人と過ごしたいからと自宅に訪れる。

 訪れれば、「帰れ〜」と言うだけで拒みはしないし、彼女もそのまま靴を揃えて家に上がる。


「てか、何処も豪華だな。学校というよりか豪邸に住ませるような感じか?」

「通うのは男性だもの。愛する息子に、良い環境で良い教育を受けさせたいに決まってる」

「ああ、そうか。だから、家に帰らないんだ。学校の方が居心地良いから」

「……そうね」


 投資すればするほど、学校はより過ごしやすい環境を作り出す。更に、上流や貴族階級の者からの声も何人か掛けられれば対応せざるを得ない。


 女性に囲まれたストレスの環境がなく、危険だといって必要以上に家に閉じ込められる事もない。

 寮生活であれば、安全面は自宅以上に保証されているので、余程の事がない限り学校外に出る事はない。


「まぁ、悠人君は行かないわよね? ね?」

「しつけぇ〜」

「男性貴族達と仲良いし? 誘われたってマリアちゃんから聞いたわ」

「誘われたけどなぁ」


 聞かれた瞬間に、「あっ、マリア達と一緒に居たいもんなぁ。すまん、やっぱり無理しなくて良いぞ。転校したくなったらいつでも言ってくれ」と謝罪された事を覚えている。


「まぁ、転校する事態になったら行く事になりそうだな」

「……」

「2人ともどした?」


 柳田と明日香は思った。

 悠人の行動は言ってしまえば、女性に媚を売る行為。

 最初こそ男性貴族から毛嫌いされていたが、長年の付き合いでそれは性格によるものと今は理解されている。


「木下君、今日の料理は私が作るわ。だから、休んでて」

「私も手伝う」

「えっ、俺も手伝うよ」

「いつもお世話になってるし、最近は料理の勉強しているの、だから感想聞かせてもらえない?」

「そうか、じゃあ楽しみに待つとしよう」


 社交性はあっても、それだけで避けられたり、受け入れられない人も出てくる。


 もしかすれば、高い確率でいじめの標的に……。


「駄目ね、返り討ちにする未来が見えてしまったわ」

「あっ、私も思った」


 多分、大丈夫でしょ。


 2人はそれ以上考えなかった。



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