90 買い物
(家庭用のゲームコーナーに来るのはいつぶりだろうか)
悠人は、デパートに来ていた。
今夜は、修学旅行組が帰ってくる日であり、大人組も参加する焼肉パーティー。食材は、既に用意済みであるが、お菓子や飲み物が足りないと思い、買い出しに。
ふと、飾られているポスターの前で足を止めた。
リブシスの新作のゲームの発売。
数々のモンスターを操作して人間を蹂躙するものであった。
悠人は、そのまま興味を持ち、流されるようにゲームコーナーへと足を運んだ。
フロアに所々置かれているモニターには新作ゲームの宣伝映像。体験版をプレイできる実機が置いてある。その光景を懐かしいなと思ってしまう悠人は悪くない。
実機、ゲームカセットは、玲奈と里奈がプレゼントしてきたり、早苗が持って来たりとしている為、多くのカセットを一度に見る機会は少なかった。
(おっ、これか)
しかし、訪れたとしても悠人は真っ直ぐ目当ての品物を見つけ、レジカウンターへと向かう。やはり、訪れたとしても欲しい物を買いに来るだけ、新たに興味のあるゲームを発掘することはしないのだ。
だが、その前に見覚えがありすぎる少女に声を掛けた。
「さっちん、何してんの?」
「ふぇ!? あっ、おに……ねえさん!」
「あーあー、カセットケース落として、店員さんに迷惑よ」
後ろから急に呼びかけ驚かせたというのに、悪びれる事なく早苗が落としたカセットケースを拾い、渡す。しかも、早苗の渾名で呼ぶのだ。いつもの「早苗ちゃん」ではないのだ。驚くのも当然。
「どうして此処に?」
「これに興味持ってね」
「ああ、お姉さん、モンスター好きですもんね」
「あれっ、言ったっけ?」
「いえ、よくキャラ選択で異形系選んでるので、好きなのかなぁって」
早苗は知っている。
悠人、初めてやるゲームでも、異形キャラを見つけると迷う事なく、選択するのである。それを何度も見ていれば、「ああ、好きなんだな」と誰だって思う。
「早苗ちゃんも新作の乙女ゲーム?」
「はい、ちゃんとヤンデレルートあるらしいので、一緒にやりましょうね!」
「だから、ヤンデレルートの無い乙女ゲームを持ってこい」
「それじゃあ、つまらないじゃないですか」
「性格悪いなぁ」
会計を終え、悠人は本来の目的の為移動。
早苗もデート♪デート♪と内心テンションを上げながら、悠人と手を繋いで、一緒に付き合う。
「じゃあ、適当に菓子と飲み物を見繕っておくんなんし」
「はーい」
悠人は買い物カゴを片手に、早苗に指示を出す。
ご機嫌で、元気な返事をする早苗。妥当な物を選び、悠人の持つカゴの中に入れていく。しかし、その左手は断固として悠人の手を放すことはなく、深く絡めている。
そんな彼女に、悠人は何も言わない。
「クレープでも買ってくか?」
「是非!」
自分の買い物に付き合ってもらって、何もしないはよろしくない。早苗にクレープを一つ買ってやり、2人で帰路につく。
「一口いります?」
「いや、俺は……せっかくだから一口貰おうか」
早苗も早苗で、さりげなく間接キッスを狙う。
甘い物が苦手になってしまったとはいえ、嫌いになったわけではないので、ギリギリ狙いを達成出来たことに満足な早苗。
「おね……兄さん、口にホイップが付いてます」
「えっ?」
「ここです」
「……ありがとう」
更に美味しい展開に持ちこめた。悠人がどこと聞く前に、早苗が素早く指先で拭き、舐める。そして、笑って悠人を見上げた。早苗の目には、心なしか悠人の頬が朱に染まっているように見えた。
「お兄さん、お兄さん」
「どしたの、早苗ちゃん?」
「今日は、楽しかったです」
「俺もだよ」
意識されている、それだけで今回のデートは成功ともいえるだろう。
「デート、楽しかった?」
玄関でエプロンを着て、仁王立ちをしている妹を見るまでは。
「……」
「デート、楽しかったよ!」
「フシュウッ!」
「おおう!?」
素早いが拳に力が入っていないストレートが悠人を襲う。
悠人に買い物を行かせて、自分は料理の下準備をしていた優菜。しかし、友人と仲良くおてて繋いで帰ってくるとは思わなかったが。
「早苗ちゃん、これを台所へ」
「えっ、はい」
「さぁ、こい!」
買い物袋を早苗に持たせて、悠人は両手を広げる。優菜は、待ってましたと言わんばかりに力強く抱きつく。しかも、腕だけでなく、足を腰に回す。絶対に離れるものかと強い意志も感じられた。
「罰としてしばらくこのままね!」
「……すまん、ちょっとお手洗い行きた、痛!」
悠人は首筋を噛まれた。
後に語る。
「意外と柔らかいんだね」




