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83 服、買う

 



「……」

「……おーい」

「……」

「お母様〜」

「……これも良い」

「ママ、これも良いと思う」

「マミー、シスター」

「すみません、あそこからここまで全部下さい」

「いらないし、置く場所ねぇよ!?」

「にーちゃ、偶にはママの言う事聞きなさい!」

「えぇっ!?」


 珍しく木下一家3人の外出。

 場所は、服屋。決して、古着屋ではなく、有名なブランドの服が新品で並ぶところ。


 久しぶりの3人での買い物に、浮き足立っていた悠人だが、服屋の前についた途端に帰りたくなった。まるで、楽しい散歩かと思ったら病院に連れてかれた犬。

 しかし、2人はそれを許すはずもなく左右の腕をガッチリホールドし連行。


 言わずもがな、悠人は女装スタイルのためスカート等は一切所持していない。基本は、柄の無い単色の長袖のTシャツに、ジーパンかチノパン。冬はコートかヒートテック下に着るだけという質素な物だった。それでも顔は良いので、オシャレな感じになるという意味不明な事態に。また、ファンの中では、非常に買い揃えやすく、そのまま日常的に着ることができる。この【質素スタイル】のせいで、ある意味アパレル業界に激震が走ったのだが、それはお察し。


 でも、もう年頃の男の子だから女装目的以外の服が自宅にあっても良いだろうと思った真夏と優菜。決して、スカート姿等を見たいわけではない。


 そして、悠人は真夏と優菜の着せ替え人形に。やはり顔だけは良いだけに、全てが似合ってしまう。なので、もう全部買ってしまおうと思い切った事をしようとする。


 当然、悠人は要らない。


「いえ、お母様。悠人君には、やはり此方の方がお似合いかと思います」

「白のワンピース! なるほど、白。純真で真っ直ぐな悠君にピッタリね」

「えっ、まじで? 結構、私的には黒混じってる気がするんだけど」

「にーちゃ、黙って着て?」

「……はい」


 いつの間にかお店のスタッフまでも、服を選び真夏に話しかける始末。最近男性間で人気なファッションを知りつつも、悠人が似合う物を持ってきている。そこに、自分が着て欲しいものを持っていかないあたり、彼女達は訓練された悠人ファンである。

 また、服選びの邪魔をされないように、悠人達が入店した時点で、Openの看板をひっくり返して、closeに。また、【一身上の都合により、本日は営業をしておりません】と客離れの一言を書き置きしている。


 よって、今は実質貸し切り状態になっているのだが、悠人は知る由もない。


(こりゃ、長くなるなぁ〜)


 友人の坂田ルナでも、会う度に2、3着程新作を着させられ写真を撮られているが、それでも10分程度。

 横目で女性陣を見ると、それぞれが似合いそうな服を見せ合い黄色い声を上げている。さっきまで、5人程度だった女性陣がいつの間にか10人以上に増えている。


 うん、確実に長い。


 だが、楽しそうな優菜と真夏を見ていると、そんな事はどうでも良くなり、さっさと着て、その服装にあったポージングをしようと、試着室へと向かう。



「どうだろうか? ……何か恥ずかしいな」



 その姿は天使が降臨したかのように、いやしているのだ。幻覚かもしれないが、彼の後ろから後光が差し、生えてはいないはずの純白な翼が羽ばたいているように見えた。

 そして、彼女達の興奮をそそるのは悠人の表情。フリフリのスカートに慣れていない様子で、少し頬を赤らめている。更には、優菜を除いた者が悠人よりも身長が高いために、悠人が向けた視線は上目遣いとなっていた。


 その時、人は初めて心を尽くして主に感謝した。

 店員は悠人の白のワンピースを見た瞬間に、膝をつき深く祈り始めた。邪な感情は抱くことはなく、今そこにある奇跡に立ち会えることに純粋に感謝をしている。


 優菜と真夏はというと、黙々とワンピース姿を写真に収めていた。

 流石は身内、このくらいの魅力で駄目になってしまうなんてない。ただ、間接キッスや上半身裸でも堂々とした態度で接してくる悠人が羞恥を感じているのは珍しいという他ない。その激レア過ぎる表情に、2人は眼福しており、目を細くしていた。


 無理に連れてきて良かったと思う2人だが、悠人の生活環境を考えるとワンピースを着る機会などそもそもない。着たとしても周りが被害を受けるので、これの購入はどうしたもんかと考えもの。



(優菜のワンピース……無理か)



 皆が天使と思っている当の本人は、周りが跪いているかのように祈っているのを瞳に写していた。しかし、考えていた事は、己の天使である優菜のワンピース姿が見たいとだけ。だが、それは妹に男装を強いることになる。

 愛しい妹にそんなことをさせる訳にもいかないと、直ぐに勝手に諦めてしまう。


(ワンピース姿でなくても、優菜は可愛いからなぁ)


 視線を優菜に向けると、目を細めていた優菜と目が合う。満面の笑みを浮かべる妹を見て、つられて此方も笑みを返す。


(真夏は、綺麗だからドレスが似合うと思うが……残念)


 厳しい世の中に、生まれたなと悠人は少し思った。


 結局、買ったのは、皆が祈っていた白のワンピースと黒色のロングスカートの2着。

 しかし、残念なことに、外に着ていく機会は全く訪れない。それどころか、優菜や真夏から聞いたのか彼女達にその姿を見せて欲しいと家で強請られるくらいしかなかった。



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