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鳥籠の姫  作者:
21/22

終話

蒼い空、人目に着かないよう高く空を飛ぶ優雅なその鳥が、遥か下の大地の一点に目を留め急降下する


同じ頃、鋤を肩に担いでいた男が一人空を見上げて眉を寄せ、出て来たばかりの木造の家に戻る

「また来たのか」

そう呟き息を吐いた



すたっと軽い音を立て、少し抑えた紅色の衣を身に纏った娘は、一直線に目的の場所に向う

屋根の付けられた其の場所に持ち運んだ小さな花弁の愛らしい花を供えた

「また来たのか」

「また来ました。・・・っていうか、私としては毎日でも来たい位なんです

一ヶ月に一回なんだから良いじゃないですか」

「はぁ・・・そういう訳には行かん。お前はこの国の王なんだぞ?

三年経ったんだから少しは自覚してだな、」

「嫌です」

きっぱりと言って笑う娘、祥蘭に男、黎音は大きく溜息を吐いた

「良いじゃないですか。いつも執務は終わらせてきているんだし。」

「まず、私と会っている時点で可笑しいだろう。

来ること自体を近衛は咎めているわけじゃない

私と会っているのが問題なんだ」

「良いじゃないですか。貴方は私の名付け親なんだし」

「私はお前を傷付けた罪人だろうが」

「手傷を負ったわけじゃないですもん。

・・・大体、貴方はちゃんとこうして一生掛けて罪を償っているじゃないですか

心の傷だって今は全然。

事実を知って三年です。


貴方ももう、恐怖の対象じゃあない」

笑う祥蘭に黎音は頭痛を感じた

祥蘭は、即位の儀から三年・・・元々の性格が戻ったように快活に、奔放に、近衛を振り回している

今上鳳凰としては先代鳳凰の白鐸以上に執務に精を出すので下手に何もいえないのが現状だが、度々白雲城を抜け出し墓参りしては黎音に会うのは近衛たちの頭痛の種になっている


黎音に恐れを感じなくなったのは、国主として良かったのだろうが、懐く勢いなのはどうしたものか・・・

この悩みを実は黎音も共有しているとは近衛は知らない


「・・・はぁ


祥蘭、茶を飲むか」


「頂きます!」

「即答か・・・毎度の事なんだがどうかとおもうぞ?」

「大丈夫ですよ」

「何が大丈夫なんだか」

何度目かの息を吐いた黎音は祥蘭を促し、嘗ての祥蘭と祥蘭の両親の暮らした家に入った

家の中は殆ど変わっていない

二箇所の血の痕だけは薄くなっている

「三年経つのに、全然私物、増えてないですね」

「まぁな。農具や茶碗なんかは壊れたのを直したり屋敷から持ってきたりしたが



此処は、お前達の家だろう」

小さな声に祥蘭は目を一杯に開いた

「・・・遠慮してたんですか!」

「何を驚いている・・・流石に少し頭にくるぞ其の反応は」

眉間に皺を寄せる黎音に、アハハ!と笑う

そうして顔は笑顔のまま目は静かに口を開いた

「良いんですよ。貴方なら両親だって喜びます」

「・・・・・・・・・・」

「私の命守って、二人が死んだ事にずっと罪悪感を抱いて、おまけに今はこうして墓守もしている。

二人ならきっと、遠慮なんてらしくないって私以上に豪快に笑ってそう言いますよ」

にへらと笑う祥蘭に黎音は眉根を寄せたままだ


「そうそう、昨日夢を見たんですよ」

急に話題を変えた祥蘭を眉間の皺はそのままにいぶかしみながら見る

「・・・未だ、見てるのか」

「あぁ、二人が殺されたときの夢じゃないですよ。

私が忘れていた、二人と過ごした懐かしい日々を見たんです

物心付く前の事みたいで、貴方も出てきましたよ?」

「・・・」

「どうせ夢だと思ってるでしょう?

私も最近まで私の望みが見せるただの夢だと思っていたんです」

「最近まで?」

「ええ。

実は先日、内々に蒼国の水龍様がいらしたんです

其のときに、黄国の麒麟様直伝の過去視を教えて頂いたんです


だから、昨日視たのは本当の過去の事です」

「・・・・・・そうか


過去視という事は忘れてしまった自分の過去を思い返したという事か?

聖獣というのは本当に不思議な存在だな」

「えぇ!私もそう思います!!」

「自分の事を自分で不思議だと思ってどうするんだ」

「不思議は不思議です。」

言い切る祥蘭に良いのか、こんな認識をして、と黎音はこの三年何度目かの首を傾げる

「それで、黎音サン・・・昨日の夜、夢、見ました?」

「・・・・・・・・何故そう思う?」

「うふふーーー」

「・・・変な笑いをするな。鳳凰の品位が疑われたらどうする」

「私、そんな風にズバッと言い切る黎音サン好きですよー

ちょーっとグサッときましたけど。


あのですね、麒麟様って魂の調整者なんです」

「なんだそれは」

「既に亡い魂を、輪廻の輪に流す役目を担っているんですよ

それで、麒麟様に頼んだんです

・・・・・私の両親が貴方に会いに行くように。」

「なっ」

「会えました?」

「っ祥蘭お前・・・!」

「勿論、黎音サンだけだとズルイのでコレが最後と約束して私も昨日、過去視した後会いました


一杯、抱きしめられちゃいました。もう、二人の表情、永遠に忘れません。」

「っ」

「会えました?」

もう一度繰り返した祥蘭に、黎音はふいっと横を向いた

「会えたんですね!なら、その二人はホントウの二人ですから、何言われたか知りませんけど、二人の本心ですよ」

「・・・そうか。

さぁ、茶を飲んだらさっさと白雲城に帰れ。近衛隊の隊長に怒られるぞ

この場所に近衛が常駐するようになったらどうする」

「それは嫌ですね・・・私の息抜きの場所なのに!」

即答する祥蘭を半眼で見てしまう

「・・・息抜きってナァ・・・

ほらさっさと帰れ」

やれやれと首を振る黎音ににへらと笑った

「じゃあ釜楊に寄って帰ります!!」

「まっすぐ白雲城に帰りなさい!!」

「えーーー」

「えーーじゃない。お前は年端も行かぬ子供か!」

「仕方ない

じゃあ帰ります。次はお土産でも持ってきますね」

傍から見て漫才のようなやり取り

黎音は、まさか祥蘭とこんな風に茶をする時が来るなんて思っても見なかったものだ

祥蘭にはきっと罵られ、刑を下されると、そう思っていたのに

刑罰を牢で言い渡されたあの日から何度も何度も夢じゃないかと自身の頬を引っ張るのだが紛れも無い現実で・・・言いようの無い感情を覚えるのだ




飛び立った祥蘭を見送って、黎音は未だに動揺する胸を抑えた

祥蘭の言うとおり、昨夜の夢に何時振りか祥華と洸輝が出て来たのだ

「・・・思いっきり殴られて、泣かれたのだが、


・・・・・・・・・・本人だったのか」

殴った理由が祥蘭を傷付けたからじゃなく、自分を蔑ろにしたからというのは何とも言えなかった

死んでも二人は親友の二人のまま

嬉しいが此方のほうが泣きたかったと息を吐く

「お前達は赦すのか・・・私を」

呟いた言葉は昨夜と同じ

本当に、夢に出てきたのが本人達ならば、

あの二人が言ったのも又、真実なのか


「お前達は赦すのか・・・?私を!お前達の危険を察する事もできなかったのに!祥蘭を傷付けたのに!」

「馬鹿ねぇ」

「・・・馬鹿だな」

幼馴染の二人は呆れたように此方を見て笑った

「っ」

「赦すも何も無いわよ。感謝こそすれ、怒る理由なんてないもの。」

「やり方はどうあれ、あの子は今立派にやっているんだからな」


「大馬鹿者一家だよお前達は」

呟きは宙に消え、黎音は苦笑いを一つこぼし再び鋤を担いで農作業を始めるのだった



「あぁあ・・・絵師がいたらさっきの黎音サンの顔、書いて貰ったのに。」

少し悔しそうに、しかし内心笑んで祥蘭は空を翔る

鳳凰で翔ければ四半刻も経たず白雲城に到着する

きっと眦を吊り上げ待っているだろう陽たちの説教を思うと憂鬱だが、両親の墓を参るのをやめる気は無い

毎日行きたいのを堪えて一ヶ月に一回にしているだけ譲歩していると思う


勉強は、今も楽しいと思う

最近では紅国のみならず各国と交流しながらその歴史や文化を学んでいるのだが

六国あれば六国それぞれに国の特徴があって、性格があって面白い


礼儀作法は相変わらず少し苦手だし、官達の腹の探り合いを見るのも苦手だが・・・それはそれで頑張ろうと思える

孤独とは無縁になった今、嘗てのように暮らすのはもう無理だ

断言できる

大事な物が一杯出来た

目指したい人達が国を超えて出来た

未来が楽しみな人間を何人も見つけた


祥蘭の、ただ手を伸ばすだけの日々はもうとっくの昔に終わったのだ

今の祥蘭は、手を伸ばし、其の場所まで駆けていく事ができる

背中を押してくれる幾人もの存在も出来た

望めば望むだけ、空を翔ける事が出来るのだ

何より

「頑張ったわね祥蘭」

「まだまだ先は長い。楽しみながらな」

優しく笑む、その顔を

頭を撫でるその大きな掌を

忘れられないから頑張ろうと決意する事ができるのだ




「やはり面白い」

遠く、創世神が楽しげに笑んだ

桜の花弁はずっと、舞い続けている

ひらひらと優雅に、優美に、楽しげに

其の花弁を一枚、掌に乗せ眺める

「そろそろ、会いたいものだ。


他の聖獣には早くも会ったみたいだし吾も良いだろう・・・?のう」

にんまり笑って擦り寄る雌鹿を撫でた








二十代目鳳凰、祥蘭は奔放な性格の王であったと後の世に語られている

鳳凰としての、聖獣としての常識に囚われず在りのままの状態で治世をした祥蘭


歴代の鳳凰と異なり、どこまでも民に心砕き、治世に心砕いた珍しい聖獣としても有名だ

彼女は後世の鳳凰の在り方も大きく変化した

そうして、世に三人目の女性型だった祥蘭は創世神の思惑通り、予想の斜め上を行く生き方を生涯続けたという


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