表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鳥籠の姫  作者:
20/22

二十話

牢から外を出た祥蘭を陽ともう一人・・・これが祥蘭にとって最初の邂逅となる近衛隊副隊長の彰月・・・が立っていた

暗い室内から一気に明るい外に出て眩しさに目を細め、先ほどまではいなかった彰月に目を瞬かせる


「祥蘭様」

「先に言ったとおりに、黎音・・・に伝えて来たよ」

「そう、ですか」

「いやだった?」

納得行かないという顔の陽に困ったように祥蘭が問えば、ゆるりと首は横に振られる

「正直貴女の心を蔑ろにしてまでではありません。

これは私の嫌悪で、怒りであって貴女のものではありませんから」

「ごめん・・・?」

「謝る必要など欠片もありませんよ。


さぁ、参りましょう」

「うん。・・・・・・えっと?」

祥蘭は頷いてから陽の横に立つ初めて会う彰月に目線を向ける

「このような所で自己紹介もなんですが・・・

私は近衛隊副隊長を勤めております彰月と申します

この後の即位の儀では後ろに控えますので宜しくお願いいたします。

・・・・ずっと、お会いするのが楽しみでした!」

ニコリと笑う彰月にそうなの?と首をかしげた

「ええ!とてもお会いしたかったのです。生憎別件で側に侍れず・・・数年越しの主ですから

それに、とても可愛らしい方で嬉しく思います」

「彰月」

咎める陽を流して笑う彰月にその強さを垣間見た気がした祥蘭は素直に凄いと思った

変に感心している祥蘭に陽は頭痛を感じ額に手を当てて溜息を一つ

「・・・っと!いけません祥蘭様

急いで向かいませんと」

「・・・紫白に怒られる・・・?」

「んじゃあ俺が抱えます。走りますよー姫様!」

「待て!!彰月!!」

あっという間に祥蘭を抱え走り出した彰月に陽は頭痛を一層感じながら後を追った




乱れた服を侍女達に直され祥蘭はゆっくりと窓辺に歩き出した

露台の向こうには今日この日のために国中から集まった民がいるという

サラリと白の衣が揺れ髪に飾られた簪がシャラリと音を鳴らす


この先に、自分の民がいる

一歩進むごとに身体には緊張が走る

こうして、歴代の鳳凰達はこの数歩を歩いたのだろうか

緊張した鳳凰はいたのだろうか

何を思っていたのだろうか

つらつらと歩みを進めながら考える祥蘭に、控える者達は顔を見合わせ微笑んで叩頭していく


公孫、李伯の手で開け放たれた窓の向こう広がっているのは叩頭する紅国の民達

手前にいるのが官吏達で、奥にいるのが民達

そう事前に教わってはいたものの驚くほどの人数が一斉に叩頭している様は実に圧巻で、祥蘭はほんの少し躊躇いながら露台の先に進んだ


文官長の紫白が、祝いの言葉を朗々と読み上げているのを聞く

その言葉が終いに近づくと、突如として頭の中に靄が掛かったような感覚に陥った


<鳳凰よ、姿を変じて世界を見るが良い

そなたを、魅せよ>


突然、頭の中、響いた声に目を一瞬見開いて、祥蘭は控えた陽と彰月、近衛たちの驚きの声を背後に受けながらその姿を変えたのだ


美しい、五色の尾羽を持つ鳳凰の姿へと


まるでそうする事が自然なように、祥蘭は羽根を広げ露台を蹴る


一気に空高く飛び上がり何処までも蒼い空を間近に、眼下の民を見下ろせば不意に顔を上げた子供が驚きの声を上げ、其れが周囲に伝播したようで

ザワリザワリとどよめきが眼下で広がっている


祥蘭は大きく羽根を広げて旋回した

キラキラと、尾羽の色が陽の光を浴びて五色に輝く

美しい其の姿に民も近衛も言葉を失い一心にその姿を目に焼き付けた


「・・・(あの声は、)」

祥蘭は飛びながら、眼下の動揺に気付きもせず内心で首を傾げていた

祥蘭の頭の中に突如響いた声

そして突然理解した鳳凰への転じ方

祥蘭は大地の向こう蒼く広がる空と海を見つめ、その声の主について思考をめぐらせていた






世界の中心、中島で色とりどりの花弁が舞っている

一際ひらりひらりと舞う桜の花弁を受けて草に寝そべる人影が一つ


この世のものとは思えぬほどに、美しい芸術の粋を集めたような男だった

近寄る雌鹿を撫でてクスクスと面白そうに笑っている



瞳を閉じれば美しい金の瞳の鮮やかな愛しい子が自由に空を飛んでいる

「さて、どうなるかと思うたが・・・


いやはや面白い」


瞳を開け、その口には笑みを刻んだまま長く見守って来た子供の巣立ちを思う

これから先、子供・・・祥蘭はきっと聖獣にしては珍しい成長をしていくのだろう


既に祥蘭は男の予想の斜め上を行く成長の仕方をしている


正直、ああも穏やかな性格になるとは思っていなかった

どちらかといえば予想していたのは海で泳いでいたときにチラと見せた暗さ

あれが祥蘭の真になると

継承次第、大地を更地に帰すのではないかと・・・そう思っていたのだが

「やはり子の成長というのはこうでなくてはな・・・

のう、胡蝶、瑞貴」


木立の奥、二つの人影が現れた


「我らもどうなるかと思っていたのですが・・・」

「とにもかくにも、無事で何よりでしたね」

梅の木からは胡蝶という名の黄国聖獣麒麟が、美しい金の髪を揺らし

桃の木からは瑞貴という名の蒼国聖獣水龍が深い水底の蒼の瞳を笑みの形にして現れた


「だが、今回の鳳凰は甘い奴になりそうだな」

「あぁ・・・本当に。

どういう事情があっても、あのように長く封じられていたのだ

少なくても男は八つ裂きにすれば良かったのだ」


続いて牡丹の花から浅黒い肌の黒国聖獣闇獅子が

菖蒲の花からは紫国聖獣地亀が紫水晶のような瞳に剣を宿しながら現れた

「・・・何がともあれ同胞を祝いましょう」

最後に菊の花から白国聖獣風虎が白銀の髪を揺らし現れ、美しく花を散らす桜の樹を見つめ笑んだ


季節関係なく、中島には花が咲く

花はそれぞれの聖獣の化身で、創世神の元に訪れるときにはそれぞれの花を通じて現れる

「やれ、よう来やった」

「お久しゅう御座います」

「変わり無いようで」

麒麟と地亀が頭を垂れる

「ふむ・・・むしろ変わりあった方が吾としては嬉しいがの」

退屈を厭う男に聖獣達は苦く笑う

「貴方に変わりあっては我等の肝が冷えるやも知れませぬ」

「退屈はお辛いでしょうが・・・」

風虎と水龍が顔を見合わせながら言えば創世神は続く空を見上げた

「ふむ・・・・しかしまぁ、これからは少しばかり退屈せずにすみそうではないか」

「祥蘭、でしたか」

「白鐸とは全く違う道になりそうだ」

麒麟と闇獅子がそれぞれ口を開けば創世神は楽しみだと笑んだ

聖獣はそれぞれ千差万別の性格、成長をしていくが中でも祥蘭には大きく期待を寄せている

それは予想外の事ばかり何故かする鳳凰の雌だからなのか、祥蘭だからなのかは分からない


祥蘭にのみ寵を傾けるつもりは余り無いがそれでも手助けくらい良いだろう


自身の力で生み出した愛しい子達は自分の退屈を紛らわせ寂しさを消してくれるから気に掛けている


更に他の聖獣とは違い本当に聖獣らしからぬ祥蘭は、きっと見ていて飽きないだろう



「楽しませてもらおうか・・・祥蘭・・・・?


お前はどんな未来を翔けるのか」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ