ワウチ帝国皇帝ナバルとキグスタの対峙(1)
俺達の元にガーグルギルドマスターが来てくれてから、更に数日が経過したある日。
ヨハンから、あの一行……ナントカ将軍とカンザを引き連れたワウチ帝国の一行が、帝国に到着したと報告があった。
その間に、体に差し障りのない程度に、事情を妻達には説明しているのだが、全員が、フ~ン程度の反応で、特に実の親がいなくなったナタシアが心配であったのだが、お腹の子供に夢中で、気にする素振りすら見せなかった。
その話をした後に、全員が日課の散歩に行き、父さんと母さんを引き連れて町に繰り出してしまった。
もちろん、万が一を考えて、顕現している超常の者が必ず一人は付き従うようにしている。
今日はソラリスの順番だったようで、皆と楽しそうにしながら出かけて行った。
話を聞くと、同行している超常の者達と共に買い物を楽しんだりしているそうで、洋服を買う時もあれば、軽く食事をする時、風通しが良く、雰囲気の良い店で軽食や飲み物を楽しむ時もあるらしい。
アクトが、皆と共に軽食や飲み物を楽しんでいる姿は想像できないが、楽しめているなら何よりだ。
そんな事を考えている時、虫型魔獣から謁見の間でのやり取りが、俺の纏っているスライムを通して聞こえてきた。
「皇帝陛下、カンザは、あれほどの強さを持つ者がいる事を知っていながら、我らをあの国に差し向けた可能性が高いのです。そのおかげで、私は不覚にも両腕を失ってしまいました」
「待ってくれ、確かに別格の強さだったが、何故俺が知っていた事になっているんだ?そもそも、あそこにいたのは俺のパーティーにいたゴミクズ、<統べる者>のスキルを持つキグスタだったんだぞ」
既に化けの皮が剥がれかけているカンザは、何とか言い訳をしようと必死だな。
そうそう、こいつの顎は、ナントカ将軍が気絶している間に、ワウチ帝国のポーションで直したらしい。
なので、ソレッド王国の宝物庫にあるただの水は、誰かが勘違いすると良くないので、中身は捨ててある。
「お前は前回の謁見の時点で、ソレッド王国の軍が壊滅した理由はグリフィス王国が準備万端であった事、そして無能な指揮官がいた事が原因だと言ったな?はっきり言ってやる。グリフィス王国には、大軍を一気に消滅させるような魔法の準備をする時間などなかったはずだ。私はこの部分はどうしても納得できなかったのだが、今回、あれ程の力を持つ者がいた事を知って合点がいった。お前は、ソレッド王国の軍が、あの者に壊滅的な被害を受けた時に、その場にいたはずだ!」
流石はナントカ将軍だ。今までの状況から、ある程度の事情を把握している。
それほどの洞察力があるのならば、カンザ如きを信じなければ良かったのだがなぁ。
「それと、陛下!あの者、キグスタと言う者は、このワウチ帝国に挨拶に来ると申しておりました。恐ろしい力を持っており、転移すら使いこなしているようなので、おそらく間も無く現れるに違いありません。その時点で、カンザ、貴様の見苦しい嘘は暴かれる!」
あれ?カンザの返事が聞こえてこない。
バカだよな~、このナントカ将軍の言う通り、俺が挨拶に行くって伝えているんだから、本人を前に嘘が通じると考える方がおかしい。
あれ?でも、俺がワウチ帝国に挨拶に行くって言った時、あいつ、意識あったっけ?
まあどうでも良いか。
どの道、あいつはどうしようもない奴である事に違いはないからな。
「じゃあ行くか、ヨハン。頼んだよ」
「承知いたしました」
そして、視界が一瞬で切り替わり、ワウチ帝国の謁見の間に到着した。
「ほぇ~、ソレッド王国の謁見の間と違って、調度品の質が違う感じがするな。ヨハン、どう思う?」
「左様でございますな。おそらく、侵略した国家から無理やり徴収した物なのでしょうが、確かに価値はありそうです」
全員の視線が俺達に釘付けになる。
「ひっ…………」
ナントカ将軍だけは、怯えて衛兵の方に行ってしまった。
カンザと視線が合うと、奴も震えて腰を抜かしている。
こいつはこんなレベルなんだから、普段も小物らしく大人しくしておけば良いと思うんだかな。
いつもの通り、ヨハンが、皇帝が座っているよりも豪華な椅子を準備してくれ、そこに俺は慣れた感じで座る。
でも、実は結構緊張していたりする。
そもそも、俺の育ちでは、こんなに豪華な椅子を見るだけで緊張してしまうのは仕方がないだろうと思うのだ。
だが、俺の思いとは裏腹に、日に日に椅子は豪華になっている。
どこでどのように作っているのかはわからないが、疲れも取れるし、周りの状況すら不思議と細かい所まで把握できる椅子に進化している。
このまま黙って座っていても仕方がないので、豪華な椅子に座りながら、ワウチ帝国の皇帝ナバルに話しかける事にした。
だが、当然敬意などある訳もないので、普通に話す。
自分の方が上の立場だと分からせるには、少々高圧的にした方が良いらしい。その為、俺は無駄に足を組んで、不遜な態度で皇帝に話しかける事にした。
「確か、お前の名前はナバルだな?今回、ソレッド王国のみならず、グリフィス王国にまで進攻しようとした事は聞いている。個人的にソレッド王国は滅んで然るべきだと判断したので、罪のない者を避難させるだけで静観してやった。だが、お前らは調子に乗ってグリフィス王国にまで攻め込もうとした。これは許容する事はできないので、少々躾をさせて貰ったぞ」
そういって、向こうで怯えているナントカ将軍を睨みつける。
ふ~、こう言った演出は得意じゃないんだよな。
でも、ガーグルさんが、どうしてもこうした方が良いと言うからしているんだ。
俺の一連の態度を見て、皇帝の近くにいる重装備の面々は、明らかに殺気を放っている。
やだやだ。本当はこんな事、俺だってしたくないんだよ。
だが、勝手に侵攻してきたのはお前らだろうが!
「お前がキグスタだな。お前が持つ力、ウイド将軍から聞き及んでいる。あの将軍が、お前の姿を見てここまで怯えるほどだ。俄には信じる事は出来んが、余程の力なのだろう。それで、今日はどういった用件だ?」
流石は皇帝。俺達の力を理解しつつも、威厳を放っている。
きっとガーグルさんが俺に求めるイメージも、こう言った物なのだろう。
ま、俺には無理だな。
「用件は、だと?わからないか??お前は何の罪もないグリフィス王国にまで侵攻しようとした。それに、お前の国が周辺の国家を見境なく攻撃して無理やり併合している事も知っている。つまり、お前にも躾が必要だと言う事だ」
ついに我慢の限界が来たのか、皇帝の護衛らしき重装備の中の二人が、こちらに問答無用で攻撃してきた。
一人は斧をこちらに投げ、一人は魔法を行使してきたのだ。
その程度はスライムの力を以てすれば、俺に攻撃が当たっても何のダメージもないのだが、それを許すヨハンではない。
流れるように俺の前に移動するだけで、斧は砕け、魔法も霧散した。
俺にはヨハンの背中しか見えないので、何をしたかはわからないが、奴らを怯えさせるだけの力は見せる事ができただろう。
と思っていたが、甘かった。
「ぐ…………」
「そん…………な…………」
俺に攻撃をしてきた二人は、その場で倒れたのだ。
あの様子を見るに、確実に命を散らしているだろう。怯えさせるだけで良かったのだが。
「我が君に対する暴挙、決して許すわけにはいきません。他の者、特に後ろで隠れて詠唱をしている者達、その魔法を行使した瞬間が命を散らす時です。一応忠告はしましたよ」
俺の性格が移ったのか、俺の為を想って言ってくれているのか、忠告をしてくれているヨハン。
だが、俺達の優しさは通じなかったようで、魔法が行使されてしまった。
「バカですな」
その一言だけで極大魔法は消滅し、皇帝の後ろで数人が倒れる音がした。
「あの極大魔法を消滅させるとは…………これ程か」
皇帝は何やら呟いているが、どうしてくれようか。
「おいナバル!親切心で忠告してやったんだぞ。無駄な事しやがって!だがお前達の意思はわかった。さんざん他国を蹂躙してきたんだ。今度はお前らが蹂躙される番だ。楽しみにしておくんだな」
「バカな事を言うな。確かにお前の力は強大だ。だが、我らの戦力がこれだけだと思うなよ。戦闘国家を侮っていると、痛い目を見る事を分からせてやろう」
どこまでも好戦的。これは救いようがないな。
「良く分かった。お前らとの和解はないな。そうそう、強制的に併合した国々だが、お前らの間者を排除して、徐々にこの帝国から離脱させてやる。その後は、そうだな…………高ランクの魔獣で防壁の外を囲ってやるとするか」
「ハハハハ、バカな事を言う。そんな妄言でこの私が怯えるとでも思ったか?確かにお前の力があれば、末端の国家を離脱させる事も可能だろう。だが、所詮はそこまで。高ランクの魔獣を制御できるなど、今まで誰も無し得なかった事をほざくな、下民が!」
こいつもダメだな。
「ま、初めから期待はしていなかったが、お前もソレッド王国の国王と変わらず愚王だな。その意気込み、どれだけ持つか楽しみだ。だがな、お前の結末は決まっている…………」
わざと少々間をとって、ナントカ将軍を長めに見る。
誤字報告、ありがとうございます。




