ヨハンの回想(1)
もう一話、ヨハンの話が続きます。
私はヨハン。お久しぶりでございます。
今はナルバ村を離れて少し経ち、落ち着いておりますので、少々昔話を致しましょう。
ご存じの通り、<統べる者>と言う我ら神を制御できるスキルは、この世界に一人しか持つことができません。
他のスキルに関しては、我らが暇つぶしを兼ねて人族達に与えていたのですが、この<統べる者>だけは、世界の理から与えられるもの・・・・・・と推測しています。
そして、悲しいかな、この<統べる者>の力が弱い者は、精々魔獣の中で最弱のスライム程度しか使役することができません。
今までの五千年を考えますと、私のみを使役できた一名と、アクトのみを使役できた一名しか我らを顕現させることができなかったのです。
そして、この<統べる者>を与えられたお方は、もれなく我らのスキルを受け取ることができません。
世界の理からスキルを得ているので、それ以上は受け付けないのでしょう。
しかし、<統べる者>を得られたとしても、我らを顕現させるに至ったお方は二名のみ。そして今回の三人目がキグスタ様。我が君だったのです。
以前の二名は、スキルに目覚めた時は捨てられた赤子の状態であったため、それぞれ私とアクトが即顕現して保護いたしました。
しかし、我が君は話が別です。
我が君が<統べる者>を得た時、我ら異空間にいる全員がその力の影響下に入りました。
つまり、全員顕現できるほどの力を持っていると言う事になります。
驚愕し、慌てて地上を観察すると、御両親と妹と仲良く暮らされているではありませんか。
こんな状態で突然我らが顕現しても驚かせる可能性が高いと判断し、そっと見守らせていただくことにしました。
そもそも、われらは<統べる者>の影響下にない限り顕現できません。
いえ、できるのですが、顕現したとたんにわれらの強大な力の影響を受けた世界が持ちこたえられずに破壊が始まってしまうのです。
そして、<統べる者>持つ我が君にスキルを与えることはできないので、とりあえず年の近い妹には<剣聖>を与えておくことにし、我が君には安全の為に歴代の<統べる者>所持者と同様に、スライムをつけることにしました。もちろんこのスライムは歴代のスライムとは大きく異なり、最強です。
我ら超常の者達全員が、与えられるだけのスキルを与えたのですから・・・・・・
しかし、我が君は妹を守るためか、御両親の背中を見たのか、毎日の鍛錬を欠かしていないのです。
そうすると、スライムでの突然の補強は我が君の努力を踏みにじることになります。
その為、万が一の場合にのみ、その力を使うようにしておきました。そして、ナルバ村周辺の魔獣には徐々に制約をかけていったのです。突然魔獣が弱体化したと思われないように時間をかけて。
ナルバ村では、他に特別仲の良い二人の御友人、いえ、今ではただのゴミですが、ホールとリルーナと言う者達がいたので、その二人にも我が君の力になれるように、上位スキルである<拳聖>と<魔聖>を与えておいたのです。
この部分に関しては、最大の不覚であったと言わざるを得ません。
やがて、人族の儀式が終了して、我が君、リルーナ、ホール、フラウが王都に向う事になりました。
王都に到着すると、我らが与えた上位スキル所持者が集まっており、何やら訓練後に魔獣か魔神を討伐することになるとの事でした。
大変ですな。
そして、そこにカンザと言う、以前戯れで<槍聖>を与えた貴族がいたのです。
その貴族は、複数のパーティーを渡り歩き、自分と合うパーティーを探しているとの事。
やがては何処かのパーティーに正式に所属し、英雄になるんだそうです。
ですが、私はこの話の中にある鍛錬の内容を聞いて、至急獣神であるソレイユを呼び寄せました。
そう、ダンジョン攻略をする事が修行だと言うのです。
万が一、本当に万が一我が君に危害を与えるような魔獣がいてはなりません。
しかし、我が君だけに攻撃が行かないのも不自然。
場合によっては魔獣の仲間と思われてしまうのも不本意です。
そうすると、最も魔獣の扱いに長けたソレイユが対応するのが自然の流れなのです。
「ソレイユ、我が君が他の面々とダンジョンに潜るそうです。何とか不自然にならない様に確実に安全を確保してください」
「もちろんです。我が主が過ごしやすいようにします。お任せください」
これで大丈夫でしょう。
後日聞いた話によると、自我のない魔獣は力を制限し、万が一にも我が主に害がないよう、スライムの力を一時的に開放したとの事。
そして、更には我が君が向かわれるダンジョンを攻略、制圧し、細かいケアも行うようです。
我が君は、ホールとリルーナ、フラウ、そして教官と共にダンジョン攻略を続けています。
ソレイユは、次の攻略先であるダンジョンを既に制圧し、最下層にいた上位の悪魔を配下にしています。
既にこれまでに多数の魔獣を配下にしているソレイユ。
わざわざ制圧しなくとも配下にできるでしょうに、自分の手足で制圧してダンジョンの様子を直接確認したいのだそうです。
これも全て我が君の為ですな。
当然制圧された高位の魔獣、悪魔達は自我がありますが、あの種族は強者には従順になります。
ここは扱いやすくていい所です。
我が君が攻略予定となるダンジョン最下層では、ソレイユに対して多数の魔獣達が跪いています。
「皆さん良いですか?あと数日もすると我が主がこのダンジョンの攻略にまいります。我が主はスライムを纏っておりますので、すぐに判別がつくでしょう。それと、御友人お二人と妹君、そして教官?と言う名の者が一名同行しています。そのパーティーに対して、負傷させることは禁止します」
「と言う事は、今現在このダンジョンに入っている者達は除外されると言う事で宜しいでしょうか?」
そうです、丁度このダンジョンにはカンザと言う<槍聖>持ちと、暫定的なパーティー一行が侵入しているのです。
もちろん我が君に関連するお方でなければ配慮の必要は一切ありません。
それは、ソレイユも同じ気持ちです。
「ええ、構いませんよ。大切なのは我が主、そしてその一行です」
先ほども言いましたが、魔族や悪魔は強き者には絶対服従なのですが、行き過ぎた忠誠心がある者も中にはいます。
一体の上位悪魔が跪いた状態で言ってはいけない一言を言ったのです。
「あの何の力もない人族に配慮するなど・・・・・・」
私はこの言葉を聞いて、血が沸騰するかと思った物です。
ですが、今あの場を支配しているのはソレイユです。
ソレイユにはソレイユの考えがあるでしょうから、私が余計な口出しをするのは控えようと思い、グッと堪えます。
主神としては辛い所です。
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