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革命のクレア ~魔人と契約したワガママお嬢様は異世界で無双する~  作者: 平井淳
第四章:ドジっ子メイド

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最終話

 樽型のジョッキがテーブルの上に二つ置かれた。

 泡がこぼれる寸前まで注がれたビール。クレアが思っていたよりも量は多かった。


 果たしてこれを全部飲み干すことができるのだろうか、と不安になり始める。


「では乾杯しましょう」


 ジョッキを手にしたアメリアが言う。


「……ああ。そうだな」


 左手でジョッキを持ち上げると、なかなかの重さがあることに気づいた。片手だけでは腕がプルプルと振るえるほどであった。


 生まれて初めてのビールだ。もし美味しくなかったら、全部飲むのは苦痛だろう。不味くて吐いてしまう恐れもある。最悪の場合、酒が原因で命を落とすこともあり得るので、まさに命がけの挑戦だといえる。クレアは急性アルコール中毒で大学生が死亡するニュースを思い出した。


「ではでは。クレアさん、今日もお疲れ様でした。乾杯!」


 カツン、とジョッキ同士をぶつけ合う。

 その直後にアメリアはググっとビールを喉へ流し込んだ。


「ぷはぁっ~! やっぱり仕事終わりのビールは最高です!」


 口元に白髭を生やしたアメリアが唸る。

 彼女は心の底からビールの美味さを感じているようであった。


 対するクレアはジョッキに口を付けようともしない。

 この期に及んで、未だに心の準備ができていなかった。


「そ、そうか。そんなに美味いのか。それはよかったな、アメリアよ」

「声が震えていますよ、クレア様。やはり無理しない方が……」

 

 ノーラが小声で言う。

 大量のビールを前にして怖気づいていることがバレているらしい。


 だが、自分はいずれこの世界を支配する存在だ。たった一杯のビールごときで手を焼くわけにはいかないのである。


 とうとうクレアは覚悟を決めた。


「ははは! このくらい軽く飲み干してやるのだ!」


 両手でジョッキを持ち、ぐびぐびとビールを飲む。

 

 麦の香りが鼻を突き抜ける。また、その後から遅れて苦味がやって来るのを感じた。


 舌が捻じれるような感覚に襲われる。はっきり言って美味しくない。


「ごへぇっっっ!」


 クレアは勢い良くビールを吐き出した。

 テーブルの上がビチャビチャになってしまった。


「クレアさん?!」


 驚くアメリア。

 

「だから忠告したのですよ」


 ノーラはクレアの背中をさすりながら言った。


「おいおい、大丈夫かよ。うちのビール、そんなに不味かったか?」


 ガウスが気まずそうな顔をする。


「そういうわけでは……ない、ぞ? 勢い余ってむせてしまっただけだ。この店のビールは美味い。今まで飲んだ中でも一番だ」


 涙目になりつつも、強がりを見せる。

 ビールの苦味にビックリしたなどとは恥ずかしくて言えない。


 とはいえ、もう二度と飲みたくないというのが正直な気持ちだった。

 アメリアはどうして、こんな変な味がするものを美味しそうに飲むことができるのか。それが謎で仕方がなかった。


「あー、とても素晴らしいビールだな。これはなかなかお目にかかれないだろう。よし、そうだ。ノーラよ、せっかくだからお前も飲むといい。今日は特別だ。残りは全部お前にくれてやろう。うむ、全部だ。遠慮はいらん。しっかり味わいたまえ」


 まだ半分以上ビールが残っているジョッキをノーラに押し付ける。

 こんな苦いものをたくさん飲めるわけがない。もう無理だった。


「ありがとうございます、クレア様。頂戴いたします」


 ノーラはジョッキを受け取ると、コクコクと上品に飲み始めた。

 息継ぎをすることなく、そのまま最後まで飲み切ってしまうのだった。


「ごちそうさまでした。とても美味でございますね」


 彼女は顔色一つ変えることなく、いつものように爽やかな微笑みを浮かべている。

 やはり魔人はどんなものを飲んでも平気であるらしい。


「えっと……。ノーラさんは普段からお酒を飲まれるんですか?」


 平気な顔でビールを一気飲みしたメイドの姿に戸惑う様子のアメリアが尋ねる。


「いいえ。私はメイドでございますから」


 ノーラは笑顔を崩さなかった。


「うむ。たまには飲んでみてはどうかと思い、今日は特別に許可したのだ」


 クレアは胸を張って言う。

 ここは威張るところでも何でもないのだが……。



本作品は今回を持って打ち切りとさせていただきます。

大変申し訳ございません。

クレアとノーラをメインとした物語をリメイクという形で、いずれ投稿したいと考えております。その際は何卒よろしくお願いいたします。

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