46:目指すもの
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クレアはノーラと共に帝都議会の議事堂前にやって来た。
今朝は少しばかりドタバタがあったものの、急いで支度を行ったため遅刻せずに済んだ。
今日もクレアの帝都議会議員としての一日が始まろうとしている。
ウィリアムの意志を継いだ彼女は、そびえ立つ議事堂の姿を目にする度に、自らに課せられた使命を思い出すのであった。
身が引き締まる。議員になったからには、その責任をしっかりと果たさなければならない。これは決して軽い気持ちで務まる仕事ではないのだ。
彼女の左胸にはエメラルドグリーンの議員バッジが付いている。
このバッジの重みを忘れることはないだろう。
帝都議会は帝都の議決機関であり、地方議会として位置づけられる。
各区で選挙を実施し、その当選者によって構成されている。
議員定数は百名。任期は四年である。
議事堂の入り口でノーラと別れる。関係者以外は議事堂に立ち入ることが禁止されているのだった。
「では言ってらしゃいませ、クレア様」
「うむ」
クレアが勤めを終えるまでの間、ノーラは議事堂の外で待機することになっている。もし主の身に何かがあったとしても、すぐに駆け付ける用意ができている。
議事堂の入り口とその周辺には複数人の見張り役が配置されており、厳重な警備体制が敷かれているのだが、議事堂内でクレアが何者かに襲撃される可能性がゼロであるとは言い切れない。クレアの護衛役であるノーラは片時もこの場を離れるわけにはいかないのだった。
買い物や洗濯、掃除などの仕事はエリーの担当である。彼女がいてくれるおかげで、ノーラは四六時中、クレアに付き添うことが可能となった。
これまでメイドとしての仕事はノーラ一人で十分間に合っていたのだが、帝都議会議員になったクレアは外での仕事が増えたため、ノーラが屋敷にいる時間も少なくなった。したがって、屋敷での仕事はエリーに割り振られることになったのだ。
エリーの働きぶりは非常に優秀であった。元々は農家の娘ということもあり、力仕事も難なくこなしている。
クレアに仕える前の彼女は、ローラント・ザックスという乱暴で醜悪な男の下でメイドとして働いていた。その時に鍛えられた精神力と家事スキルが今も活かされているのであった。
クレアの命とプライドを守ることがノーラの仕事であるとするならば、エリーの仕事はクレアの生活環境を整えることだといえるだろう。
二人のメイドによって暮らしを支えられているクレアは、父が生きていた頃の生活に少しずつ近づいてきているような気がしていた。
彼女は恵まれている。いきなり帝都に飛び込んできた者が、これほど安定した生活を送れていることは珍しい。とても運が良いといえる。
それに対して、この世界の住人の多くは、貧困や圧政に苦しめられているのだった。
今日を生きることで精一杯。そんな状況に置かれた者たちを救うためにも、クレアはこの世界を変える必要がある。
革命。それが彼女の目指すものだ。
いずれ自分がこの帝国を支配する。そして、ゆくゆくは神の座に登り詰める。
クレアにとって、神は理不尽な存在だった。
父を奪われ、富を奪われ、名誉を奪われた。もし神が慈愛に満ちた存在なのであれば、彼女がこのような不幸に遭うことなどなかったのではないか。もし神が平等に人を愛する存在なのであれば、この国の者たちが格差に苦しむこともなかったのではないか。
クレアは自らが神となり、この世界のすべてを正すつもりなのであった。
ノーラと契約を交わした時、彼女はクレアが望むならば神になることも可能だと言った。
魔人の力があれば、どんなことでもできるような気がしていた。だから、神になってすべてを思うがままの形に変えてみせようと思った。
だが、その前に倒すべき敵がいる。
それは民に圧政を強いる帝国政府だ。
若き女王による「愚策」が帝国に混乱と絶望を招いている。
女王の抹殺と新政府の樹立。もちろん、トップに立つのはクレア自身だ。
帝都議会議員という役職はスタートラインに過ぎない。彼女はここから更に上を目指す。
まずは議会に巣食う「害虫」を駆除することから始めなければならない。
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