44:西へ
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先陣を切った新吉。水晶玉に手をかざした結果、彼は火力魔法という特殊能力を手にすることになった。この様子を見ていた他の者たちは、水晶玉が危険な物ではないということを知り、「じゃあ自分も」と言って水晶玉の前に押し寄せた。
彼らは全員、一つずつ特殊能力を享受した。他人と能力が被ることはなく、それぞれが異なる力を手にしたのだった。
それから、女神は異世界へとつながるゲートの扉を開いた。能力を手に入れた二十人のクズたちは一斉にゲートをくぐり、新たな世界へその足を踏み入れる。
「いってらっしゃいませー」
ゲートの向こう側で女神が笑顔で手を振っている。新吉はそちらを向いて「おう! いってくるで!」と元気よく手を振り返した。
直後、扉が閉じた。それと同時にゲートは消失した。
それはもう後戻りできないことを意味していた。
辺り一面は草原が広がっている。
新吉たち以外に人の姿はない。
青く澄んだ空。新鮮な空気。かつて暮らしていた世界の環境と何ら変わりないといえる。
新吉は思い切り息を吸った。空気が美味い。
「そいで、これからどうするんや? ワシらはどこへ向かえばいいんやろか」
「ここには何もないのです。右も左もわからないのです!」
「スマホのGPSも使えないし、地図も持ってない。あたしらマジで詰んでるじゃん」
見知らぬ場所に放置されてしまった。これでは完全に迷子である。異世界生活どころではない。
「何だか急にお腹が減ってきたのです……。コンビニはどこなのです?」
アリスは空腹に襲われていた。
「あたし喉渇いたんだけどぉ」
ギャルは水が飲みたいと言い出した。
「ワシはビール飲んどったから、ションベン行きたくなってきたわ」
さっきまで「死んでいた」新吉たちだったが、ゲートをくぐった瞬間に生身の肉体を取り戻し、生命活動を再開させることになった。そのため、生物としてのあらゆる欲求が復活したのだった。
食料も水も住居もない。それに加え、この世界の治安は非常に悪いという。このままでは女神から与えられた特殊能力を発揮する間もなく死に絶えるのではないか。
どうするべきか、と新吉たちが頭を悩ませていた時だった。
「皆、聞いてくれ。西に行けば人がいるかもしれない。しかも大勢。街があるんじゃないか?」
首から白いタオルを下げた作業着姿の男が言った。
年齢は三十代後半だろうか。帽子を深く被っており、口周りには無精髭が生えているため、人相がわかりづらい。
「なぜそんなことがわかるのですか? 地図もコンパスもないのに、どうやって方角まで特定したのです?」
虎岡が真っ先に問う。
「水晶玉でゲットした特殊能力を使ったんだ。ソナーを飛ばして生命体の居場所を探知する。それが俺の能力さ」
「探知した生命体の正体が人間であるという根拠はあるのですか? 野生動物の群れという可能性は?」
鋭い質問を投げかける虎岡。
男の言っていることを簡単に信用する気はないようだ。
「根拠ならあるぜ。あっちの生命体はアンタたちと同じ色をしているからな」
「……色?」
「レーダーマップが脳内に浮かんでくるんだ。レーダーでは赤、青、緑の点があちこちに散らばっているんだが、俺のすぐ近くには赤色の点が固まっている。これは多分アンタたちのことを表しているのだろう。そして、ここから西へ進んだ先にも赤い点が散らばっている。とんでもない数だ。あくまで俺の予想だが、赤は人間で、青や緑は他の動物を意味しているんじゃないかな」
この男がどこまで本当のことを言っているのかはわからない。すべてデタラメということもあり得る。だが、この状況で彼が嘘を吐く必要などあるだろうか。
新吉の記憶では、確かにこの男は水晶玉に手をかざした時、探知能力を手にしていた。女神が能力の名称をはっきりと口に出して言っていたのだ。
「まぁ、とりあえず西へ進んでみようや。この兄ちゃんが言う通り、ホンマに街があったらラッキーやろ。こんな場所で立ち往生してても時間の無駄や。さっさと行くで。はよ便所も見つけたいし」
「わかりました。ではそうしましょう」
虎岡は新吉の提案に従うことにした。
その他のメンバーもゾロゾロと新吉の後をついて歩き始める。
ここにいる全員は行き先がないのだ。帰る場所もない。
どこに何があるのか。それさえもわかっていない。だから、一人だけ別行動をするわけにもいかなかった。
まずは街を探す。それから警察または役所へ行って、事情を説明するしかないと新吉は考えていた。
二十人のクズたちは西へ向かってひたすら進むことになった。
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