43:僅かな望み
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「ふざけんな! どうしてわざわざそんな危ないところで暮らさなきゃいけねぇんだよ。もっと安全な世界へ行かせてくれ」
「そうよそうよ。あたし、殺されるとか絶対ヤダ」
当然ながら嫌がる声が噴出した。せっかく生き返ったとしても、すぐに死んでしまうようでは意味がないからである。
だが、女神もそこまで鬼ではなかった。
「もちろん、このまま転生するのは不安でしょう。ですので、皆さんには特殊能力を授けたいと思います」
「特殊能力? 何だそりゃ?」
「自分の身は自分で守る。それが鉄則です。ですが、そのためには能力が必要となります。よって、皆さんにはそれぞれ一つずつ、スキルをお受け取りいただきます」
女神は肩から下げた赤いポーチから透明なガラス玉を取り出す。
転がらないようにクッションを敷いてテーブルの上へ置いた。
「こちらの水晶玉に手をかざしてください。お一人ずつ順番にどうぞ」
新吉は水晶玉をマジマジと見つめていた。表面は滑らかで傷一つなく、その内部は宇宙に散りばめられた星たちのようにキラキラと光り輝いている。
とても綺麗だと思った。
これは高値で売れるのではないか。その金を生活の足しにすれば、しばらく働かなくて済むのではないか。
……などと、新吉はいつもの癖で自堕落な生活を送るための手段を模索していた。彼はもう死んでしまったのだ。元の世界での生活について今さら考える必要はない。
手をかざせと女神は言った。そうすれば何が起こるというのか。
怪しい儀式が行われようとしている。言われるがままに水晶玉へ手を近づけても大丈夫なのだろうか。新吉は微かに恐れていた。
第一、この少女が本物の女神だという確証はない。その正体は詐欺師あるいは悪魔、地獄からの使者だという可能性もある。
彼女は自分たちを生き返らせてくれると言っているが、本当にそんなことができるのかも不明である。この少女が信用できる相手とは限らない。
自分は何か恐ろしい陰謀に巻き込まれようとしているのではないか。女神を自称する少女の誘いに乗ることが、果たして正解といえるのか。
疑心暗鬼になる新吉。アリスや虎岡もまた訝しげに水晶玉を見ている。
誰も水晶玉には近づこうとはしない。
「大丈夫ですよ。別に怖くありませんから。この水晶玉は皆さんにスキルを授ける魔法の道具なのです。これに触れると、こちらのモニターにあなたが取得したスキルが表示されます。とても面白そうでしょう? ワクワクしてきたでしょう? さぁさぁ、早くやりましょう!」
女神が急かしてくる。なぜこんなに彼女は張り切っているのか。彼女の狙いは何なのか。
新吉たちが女神に従うメリットは何か。彼女に協力して何が得られるというのか。
でも、もし彼女の言っていることがすべて本当なのだとしたら。
人生をやり直すことができるのならば、次こそは悔いのない生き方をしてみせる。新吉はそう思っていた。
ここで何もしなければ、そのチャンスはもう訪れないかもしれない。これが最後かもしれない。
クヨクヨしていても意味はない。
たとえ僅かな望みであったとしても、それにすべてを懸けるしかないだろう。
女神の言葉を信じて、新しい人生に挑戦するのか。それとも、未知の恐怖に怯えて何もせずに終わるのか。
どうせなら、ダメ元で挑戦してみるべきだと新吉は思った。
失敗と後悔だらけの人生だった。何も残すことができなかった。一方、今の自分は何も失うものはない。
人生をやり直す機会が目の前に転がっているのだ。それさえ自ら手放すというのか。
新吉は己のプライドに問いかけた。
そんなマヌケなこと、できるわけがない。
――上等や。やったろうやないか。
新吉は決断した。
女神の誘いに乗る。一か八かで再起をかける道を選ぶことになった。
「お? なんや、誰もやらへんのかい。もしかして、ビビってるんか?」
そう言って、新吉は水晶玉の前にやって来た。
他の者たちは臆病だ。でも、自分は違う。
自分が真っ先に、この閉ざされかけた運命を切り開いてみせる。
新吉は水晶玉に手を伸ばした。
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