42:オリエンテーリング
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「クズの皆さま、お待たせいたしました。これより、オリエンテーリングを開始します」
女神は奇妙なことを口走った。
オリエンテーリングとはどういうことなのか?
新吉は疑問を抱いた。
一方、虎岡は眉をピクリと動かし、静かに言った。
「クズ……? 我々が、ですか?」
至ってクールな表情の虎岡であったが、彼はクズ呼ばわりされたことを快く思っていないようだ。他の者たちもムッとしている。
虎岡の問いに対し、女神は挑発するような笑みを浮かべて答える。
「はい。あなた方は正真正銘のクズです。生前の行いをよーく思い返してみてください。色々と悪事をはたらいてきたでしょう? まさにゲスの極み人間でしたよねぇ?」
新吉は女神に何の反論もできなかった。自分はまともな人間ではなかったということを認めるしかなかった。
「ああ、そうや。姉ちゃんの言う通りや。ワシはクズな男やった。えらいたくさんの人に迷惑かけてもうたわ。でもな、今はホンマに反省しとる。せやから、地獄行きだけは勘弁してくれへんやろか?」
クズと呼ばれても仕方がない。どんな罵倒を受けても構わない。新吉は自らの非を認め、女神に最後の救いを求めるのだった。
「ああ、それはご心配なく。皆さんは地獄へ行くわけではありません」
女神は優しく微笑んだ。
それを聞いた新吉はホッと胸を撫でおろした。最悪の結末は免れることができそうだ。
が、肝心なのはここからであった。
「その代わり、新しい世界で新しい人生を送っていただくことになります」
新しい世界。新しい人生。
想像もしていなかった言葉が女神によってもたらされた。
それを聞いたクズたちはざわつき始める。
「もしかして、あたしらをもう一度生き返らせてくれるってこと?」
一人のギャルが反応した。
その表情は明るい。敗者復活のチャンスを与えられたことに希望を感じているように見える。
新吉も同じだった。彼は人生をやり直したいとこれまで何度も願っていた。これは絶好の機会といえるのではないか。
「ホンマかいな! そりゃええわ。今度こそ、ワシはしっかり真面目に生きたるで。酒もタバコも、もちろんやめる。仕事もちゃんと続ける。新しいワシに生まれ変わるんや!」
だが、新吉のように喜ぶ者ばかりというわけではない。それ以上に困惑している者が多くいた。
「つまり、転生するってことかよ……」
「来世があるの?」
「何がどうなっているのか、さっぱりわからないのですぅ……」
アリスは再びオロオロと慌てふためく。死んだ人間が生き返ることなど、果たして可能なのか。にわかに信じがたいと感じているのだろう。
「新しい世界って……。俺たちはどこへ行くんだよ?」
「どうせなら元の世界に戻してほしいんだが」
感じる内容は人それぞれだった。
「ええ話や。女神はん、早くワシを生き返らせてくれへんか」
「興味深いですね。私もお願いします」
「あたしもあたしも!」
新吉と虎岡、そしてギャル風の女子高生は乗り気だった。
その様子を見た女神は満足げに頷く。
「ですよね! ワクワクしますよね! 喜んでいただけると思っていましたよ」
それから、こう付け加えた。
「ただし、その世界はとても荒れています。殺人や強盗、誘拐などは日常茶飯事です。皆さんの命も危険に晒されることがあるでしょう」
その瞬間、すべてのクズたちが表情を曇らせた。一瞬にして空気が凍り付く。
新吉の喜びも束の間であった。
冗談じゃない。
誰もがそう思っていることだろう。
一体、この女神は何を考えているのか。何が目的で、そのような世界へクズたちを転生させようとしているのか。
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