41:気持ちの整理
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女神による突然の死亡宣告。この場に集められた二十人の男女は絶句するほかなかった。
呆然と立ち尽くす彼らの前で女神がいたずらな笑みを浮かべる。彼女は困惑する人々の様子を見て、どこか楽しんでいるようだった。
「ふふふ。まさにフリーズ状態ですね。まぁ、無理もありません」
笑い事じゃないやろ、と新吉は心の中で呟いた。
だが、今はそれどころではなかった。思考を整理することで精いっぱいだった。
「皆さんの身に一体何が起きたのか。当然気になりますよね。では私の口から説明いたしましょう」
女神は生き生きとした表情で、彼らが死に至った経緯について話し始める。
彼女はまず、ここにいる二十人は全員、浜見市の住人であると言った。
その次に、隕石が浜見市に落下して、大きな被害が出たということを告げる。
そして、彼らは隕石衝突による爆風に巻き込まれ、一瞬にして命を落としてしまったのだという。
「まさか、あの光が隕石やったとは……。しかもワシらが住む町は壊滅してもうたんか! それはあんまりやで、女神はん!」
新吉は納得できなかった。こんな呆気ない最期を迎えるなんて、予想もしていなかったのだ。まだ自分が死んだという事実を認める気にはなれない。何かの冗談だと思いたかった。
アリスの方を見る。彼女は「あわわ……」などと言いながら唇を震わせている。まだ十五の少女だ。大人ですら気持ちの整理ができていないのだから、こうなってしまうのも仕方がない。
一方、虎岡はこの状況でも冷静さを保ち続けている。アリスとは正反対のリアクションを見せているが、なぜこんなに落ち着いていられるのか新吉には理解できなかった。彼の目には、この男が異常者として映っているのだった。
動揺する人々。やり残したことや愛する者のことを思い出しながら、後悔の念に駆られていることだろう。
新吉も彼らと同じだった。今はもう後悔しかない。自分の人生を全うすることができなかったからだ。
何より心残りなのは、やはり家族のことだった。死ぬ前にもう一度、別居中だった妻と娘に会っておきたかった。
街に隕石が落ちたらしいが、あの二人は無事なのだろうか。それとも死んでしまったのだろうか。死後の世界で自分たち家族は再会できるのだろうか。仮に会うことができたとしても、二人は死んでもなお自分を「ダメな夫」「情けない父親」だと軽蔑し、まともに取り合ってくれないのではないか。
不安と悲しみの混ざり合った感情が、胸の奥底から込み上げてくる。新吉は泣きたい気分だった。
「あらら……。何だかとてもしんみりとした雰囲気になってしまいましたねぇ。この様子だとオリエンテーリングを開始するのは、もう少し後になってからの方がいいかもしれません。しばらく待つことにしましょう」
そう言い残し、女神は煙のように姿を消した。
お通夜のような空気感が漂う。陰鬱で湿っぽい。
沈黙を貫く者。すすり泣く者。俯いたままため息を吐く者。自らの「死」に対して、彼らは多種多様な反応を見せている。
「ワシらはこれからどうなってしまうんや? 天国へ行くんか?」
「それはどうでしょう。もしかすると、地獄へ落ちるかもしれませんよ」
虎岡はニヤリと笑った。
なぜか彼だけは、この状況を楽しんでいるように見える。
どこにそのような余裕があるというのだろう。この男は何か企んでいるのか。
新吉はますます虎岡という人間が不気味に思えてくるのだった。
「洒落にならんわ、そんなもん! 地獄なんてあるわけないやろ」
「地獄行きは勘弁してクレメンスなのです……」
虎岡のジョークを一蹴する新吉。縁起でもない話をする彼に腹が立つのだった。
アリスはすっかり怯えてしまっている。青ざめた顔をしており、視点も定まっていない。
新吉は死後の世界についてなど、今まで真剣に考えたことはなかったが、死んだ後はできるだけ平穏に過ごしたいという思いがあった。
だが、もし本当に天国と地獄が存在するというのなら、高確率で後者へ行くことになるだろうと半ば諦めかけていた。自分は善人か悪人かと問われれば、悪人に分類されるはずだという自覚があった。
地獄はきっと恐ろしい場所に違いない。
死んでもなお苦しみ続けるのは嫌だった。
「そんなこと気にしててもしゃあないで。ワシらはいつもドンと身構えていこうや。な、お嬢ちゃん」
そう言って新吉はアリスの肩に手を置く。気を落とす彼女を精一杯励まそうとした。
アリスは「はい、なのです……」と力のない声で返事をした。
彼女は若い。まだまだこれからも、やりたいことがたくさんあったに違いない。
こんな若さで死んでしまうなんて本当に可哀想だ。
新吉はアリスを哀れんだ。
しばらくすると、女神が再び現れた。
彼女はまたしても張り切った様子であった。急な死を迎えて落ち込んでいる人たちの気持ちなど、まるで理解していないようだと新吉は思った。
「そろそろいいですかね? 次行きますよ、次」
女神はウズウズとしている。これから何を始めるつもりなのか。
どうせロクなことではないだろう、とここにいる誰もが予感していた。
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