40:事実確認
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「はい、そうなのです! 急にお空が光ったのです!」
メイド服姿の少女は新吉の方を向きながら大きな声で言った。
忘れかけていたものを思い出したらしい。
「やっぱりそうか。辺り一面がえらい眩しい光に包まれたのをワシも覚えとる。でも、そこから後の記憶がないんや」
新吉と少女は、どうやら同じものを見ていたようだ。
天から落ちてきた正体不明の発光物体。失われた記憶。
浜見市で何らかの異変が起きたことは間違いない。
「おや。どこかで聞き覚えのある声がしたかと思えば、アリスさんではないですか。君もここへ来ていたのですね」
黒縁眼鏡をかけた燕尾服姿の男が近づいてくる。彼は少女に声をかけた。
「と、虎岡さん……。お久しぶり、なのです……」
アリスと呼ばれた少女は、少し怯えた様子で男に挨拶を返した。
「何や? あんたら知り合いなんか?」
「は、はいなのです……」
「ええ。元同僚といったところです」
虎岡という男はにこやかな表情で新吉に説明する。
ハンサムで爽やかな顔立ちをしており、物腰も柔らかい。だが、新吉はこの男から何か怪しげな空気を感じ取っているのだった。
「わかったで、お嬢ちゃん。君、やっぱりいかがわしい店でバイトしてたんやな。そんで、この男はそこのオーナーか何かなんやろ? 虎岡はん、この子は未成年なんやで。お前さんは、それを知ってて雇ったんか?」
虎岡を問い詰める新吉。未成年であるアリスに違法な労働をさせていたのではないかと疑っている。もしそうであれば、許せないと思った。彼は妙なところで正義感を発揮するのだった。
「何をおっしゃいます。私はいかがわしい店など経営しておりませんよ。アリスさんと私は使用人として同じ屋敷で働いていた間柄です。私は執事で、彼女はメイド。別に怪しい関係ではございません」
あくまで笑みを崩さない虎岡。ますます胡散臭い。だが、嘘を言っているようにも見えない。
アリスも隣でコクコクと頷いている。
これ以上疑っても仕方がないので、新吉は彼の言うことを一旦信じることにした。
「……まぁええわ。ところで、虎岡はんも空から光る物体が落ちてくるのを見てへんか? デカい流れ星みたいなヤツ」
「そのようなものは見ておりませんね。私はずっと建物の中にいましたから。ですが、大きな爆発音のようなものは聞こえました。その先のことは覚えていません。気づけばここに来ていました」
虎岡は謎の落下物に気づかなかったようだが、何かが爆発する音を聞いたのだという。
それは新吉たちが見た巨大な流れ星と関係があるのだろうか。
「それにしても、我々はなぜここへ来たのでしょう? 何の目的があったのでしょうか?」
辺りを見渡す虎岡。謎の空間に閉じ込められ、困惑している人間たちの姿が見える。
彼らは誰も何も知らされていないようだ。
この空間に集められたのはおよそ二十人。彼らは皆、どこか闇を抱えているようだった。
それは新吉も同じだった。働くべきだとわかっているのに、それができずに酒浸りの日々を過ごしている自分に後ろめたさを感じている。現実から逃げ続けてしまう癖は、新吉の心の闇が生み出した負の性質なのだ。
「そもそも、ワシらは本当に自分の意志でここへ来たんか? 誰かに無理矢理連れてこられたんとちゃうか?」
こんな何もないところへわざわざ来る理由がわからない。最初から目的などなかったのではないか。何者かによって運ばれたと考えるのが妥当ではないのか、と新吉は考えた。
「ま、どちらにせよ、どうすればここから脱出できるのか、その方法を探すべきでしょう。こんなところでじっとしているわけにはいきませんから」
虎岡は冷静だった。
アリスも先程より随分と落ち着いていた。慌てても仕方がないということを悟ったようである。
「はいはーい。どうやら皆さんお揃いのようですね」
どこからともなく声がした。無邪気で弾んだ声だった。
「……な、いきなりどこから現れたんや!」
木製の杖を持った一人の少女が新吉たちの目の前に立っていた。
長い赤髪の可憐な少女だった。彼女はニコニコと笑っている。
ざわつく人々。誰一人として、今まで少女の存在に気づいていなかったようだ。
「何者や君は?」
「女神です」
「女神やて?」
おかしな子だと誰もが思った。
彼女が女神だと信じる者はいなかった。
「ふざけたらあかんで。ワシらは大人や。大人を揶揄うのはやめとくんや。そんなことより、ここはどこなんや? さっさと帰らせてくれへんか?」
「いえ、それはできません」
「何でや! 君がここへワシらを連れてきたんとちゃうんか?」
女神を名乗る少女はさらに信じがたいことを彼らに告げるのだった。
「元の世界には帰れません。なぜなら、皆さんはもう死んでいるからです」
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