34:電気椅子
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ノーラのもとに送り込まれた五人の男たち。彼らはハナが秘密裏に結成したテロ組織のメンバーだった。
拳銃やナイフといった武器を所持している。メイド一人では抵抗することもできない相手だろう。だが、クレアがノーラの身を案じることはなかった。
「その余裕そうな態度は何ですか? あなた、ノーラさんがどうなってもいいのですか?」
「はっ。できるものならやってみろ」
クレアは馬鹿にするような顔でハナを見ていた。
「ちっ。この小娘がっ……」
怒り心頭のハナは、とうとう部下たちに命令を出すことにした。彼女が作った特製のトランシーバーを使って。
ノーラを殺せ。
今からそう指示をする。
こうなったのはクレアのせいだ。
彼女がノーラを見捨てたのが悪い。
そう思いながら、ハナはトランシーバーを口元に近づけた。
「私です。聞こえますか?」
部下に呼び掛ける。
だが、返事はない。
彼女の声は届いていないのだろうか。
「もしもし。応答を願います」
何度も呼びかける。それでも反応はなかった。
なお、トランシーバーは壊れていない。電波が悪いわけでもない。
ただ、応答する人間がいないだけだった。
それもそのはずだ。すでに部下の男たちはこの世にいないのだから。
彼らは全員、逝ってしまった。ノーラの「特別サービス」によって……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
茂みの奥へ連れ込まれたノーラ。
彼女は男たちの相手をすることになった。
一人ずつ順番に……。
「では、まずはあなたから……」
「おう。へへ、気持ちよくしてくれよな」
「はい。すぐに逝かせてあげます」
ドスッ!
「がはっ……!」
男の腹を一本の刃が貫いた。
何が起こったのか、誰にも理解できなかった。
よく見ると、ノーラの右手の甲から赤い光を帯びた銀の刃が浮かび上がっていることがわかった。
メイドさんの手からいきなり飛び出した謎の武器。まるで手品のようである。
「ひ、ひぃぃぃっ!」
「何なんだこれは?!」
それを見た他の男たちは逃げ出した。
「あら? まだご奉仕は終わっていませんよ?」
彼らを追いかけるノーラ。
すぐに追いつき、瞬殺する。
一人残らず、順番に。
男たちはあっという間に屍となった。
「どうでしたか? 私のテクニックは。本当にすぐ逝けたでしょう?」
転がる死体を見下ろしながら、ノーラは独り言のように呟いた。
愚かな人間だ。相手の正体も知らぬまま、調子に乗ったことをするから、こんな目に遭うのだ。
「さて、クレア様との『かくれんぼ』はまだ終わっていません。続きを再開しましょう」
ノーラはそう言うと、どこかへ向かって移動を始めるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「そんな……」
「どうやら、貴様の作戦は失敗のようだな」
部下との通信ができない。これでは命令することも不可能だった。
よって、ノーラを襲わせてクレアを脅す作戦は実行不能となるのであった。
「仕方ありません。ならば次の手です。今度はあなたに痛い思いをしていただきましょう」
ハナはさらなる作戦を用意していた。
念には念を。一つの作戦が失敗しても、他の作戦が機能すればいい。彼女の計画はまだ破産したわけではない。
「カトリン。アレの用意はできていますか?」
舞台袖に向ってハナが呼びかける。
「はいはーい! バッチリできてますよぉー」
意気揚々と出てきたのは、ハナの後輩メイドであるカトリンだった。
彼女は椅子が乗っている台車を押しながら現れた。
「ここにクレアちゃんを座らせるんですよね?」
「そうです」
カトリンは台車から椅子を下ろす。次に、クレアをお姫様抱っこした。
ロープで手首と足首を縛られたクレアは抵抗することができなかった。
「このイスにお座りしましょうね~、クレアちゃん」
「やめろ! 何をする!」
謎の椅子に座らされ、固定されるクレア。
もう自力でそこから立ち上がることはできない。
「くっ……! 離せ! 何のつもりだ、貴様ら!」
「次は電気椅子です」
ポチッとリモコンのボタンを押すハナ。
すると、椅子から電気が流れ始める。
「んあっ?! ああああああっ!」
クレアの全身にビリビリと電流が走る。
「どうですか? これも私がスキルを使って作ったものです。なかなかよくできているでしょう。ちなみに、電流はもっと強くできますが、試してみますか?」
「うっ……。くだらんものを作りおって……」
凄まじい刺激だった。味わったことのない痛みと熱さに襲われる。
電気に焼かれ、クレアの服は焦げ臭くなっていた。
「ハナさん凄いです! 私もやってみていいですかぁ?」
「ええ、どうぞ。このボタンを押してください」
リモコンをカトリンに手渡すハナ。
「これですね。えいっ」
「うああああああああああっ!」
再び電流がクレアを襲う。
さっきよりも勢いが強くなっていた。全身を激しく震わせながら、クレアは悶え苦しむ。
「あはははは! クレアちゃん面白いです!」
楽しくなってきたカトリンは、リモコンのボタンを長押しするのであった。この電気椅子はボタンを押している間、ずっと電流が流れ続ける仕組みとなっている。
「や、やめろ……。もうやめてくれ……」
ボロボロになったクレア。皮膚の一部には軽い火傷を負っている。
この電流で死ぬことはない。だが、かなりの苦しみを伴う。まさに相手の心を折るために作られた機械だった。
「私の要求を呑むと言うのなら、その椅子から解放して差し上げます」
「ぐっ……」
焦げたクレアの衣服はシューシューと音を立てている。お気に入りの服がボロボロになってしまった。また、彼女の美しい黒髪も電気に焼かれて傷んでいる。
これ以上は身も心ももたない。この苦しみから逃れたい。そのような気持ちが徐々に強くなっていく。
だが、ここで屈するわけにはいかない。クレアの野望はまだ果たされていない。
こんな相手に負けることは許されないのだ。
「何とか言ってみたらどうです? それとも、もうおしまいですか? 大人しく言うことを聞く気になりましたか?」
ハナはしゃがみ込み、クレアの目線に合わせながら語り掛ける。
「クレアちゃん、大丈夫ですかぁ? 私、ちょっとやり過ぎちゃいましたぁ。てへぺろ」
反省する気のない表情で謝罪するカトリン。彼女はクレアの無様な格好を見て楽しんでいる。
地獄の苦しみは続く。クレアの身体はハナによって支配されている。
抗うことができない。手も足もでない。それこそクレアが最も嫌う状況であった。
ノーラが……。ノーラがいれば……。
そう思いながら、意識を失いかけた時だった。
ドスン!
大きな音が劇場のホールに響き渡る。
何かが天井を突き破り、ステージの上に落下してきたのである。
それは……。
「見つけましたよ。クレア様」
ノーラだ。
捕らわれた主を救うため、彼女はここに現れた。
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