31:消えたクレア
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クレアがなかなか戻ってこないので、トイレまで様子を見に来たノーラ。
我慢できずに漏らしてしまい、動けなくなっている可能性もある。もしそうだとしたら大変だ。今すぐ屋敷に連れて帰らなくてはならない。
服を洗濯し、クレアを風呂に入れることも必要だ。彼女に恥をかかせることなく、事態を収拾させるべきだろう。主の失態はどんなことがあっても隠し通す。屋敷で留守番をしているエリーにも知られてはならない。彼女の目を誤魔化しつつ、クレアを綺麗な姿に戻すことが求められる。
主のプライドを守る。それもノーラの重要な役割であった。
「クレア様ー?」
個室に向って呼びかける。しかし、返事はない。
そこに彼女はいないようだ。
おかしい。用を済ませて戻ろうとしていたクレアと途中で行き違ったのだろうか。しかし、現場と公衆トイレは一本道で繋がっているため、すれ違った時に気づくはずだ。距離もそれほど離れていないので、彼女がどこかで迷子になっているというのも考えにくい。
「もしかして、かくれんぼですか? 私が鬼ということでよろしいのでしょうか?」
クスッと笑うノーラ。
お茶目なところもあって可愛い……などと考えている場合ではない。
これは緊急事態だ。
「動くな」
ノーラがトイレから出てきた時だった。
五人組の男が彼女に銃を一斉に向けてきたのである。
男たちは全員、スーツ姿でサングラスをかけていた。まるでマフィアの手先のような風貌である。
「これはこれは……。私に何の御用でしょう?」
「悪いが今から俺たちの言う通りにしてもらうぜ、メイドさん。でないと、あんたのご主人様はあの世行きだ。オーケー?」
無精ひげを生やした一人の男が言った。
他の男たちもニヤニヤと笑いながら、ノーラを取り囲んでいる。
品の無い連中だ。「レディ」にいきなり銃を向けるなんて。
まぁ、それは別にいいとして。
この男はクレアについて何か知っているようだ。彼女の身に何かが起こり、彼らがそれに絡んでいると思われる。
「主人は今、どこにいるのですか?」
ノーラは問う。クレアの居場所を教えてほしい。
「それは言えないねぇ。でも安心しな。アンタが変な真似さえしなければ、あのお嬢ちゃんを殺したりはしない。こちらの要求に従えば、五体満足で返してやるよ」
「なるほど。では、あなた方の要求とは何でしょう?」
「まずは俺たちについてきてもらおうか。話はそれからだ」
ノーラは男たちに連れられ、茂みの方へ入っていく。
人通りはなく、ちょうど陰になっている場所だった。
「よぉーし。この辺でいいか。なぁ、メイドさん。俺、最近溜まってるんだ。ご奉仕してくれよ」
「いいねぇ」
「俺も頼むわ」
男たちはいやらしい目でノーラを見てくる。
やはり言動も中身も下品な奴らだった。
すると、ノーラは笑みを浮かべながら、こう言うのだった。
「……かしこまりました。今日は特別サービスですよ? お一人ずつ、順番にお相手いたしましょう」
「へっ。なかなか気が利くメイドさんじゃねぇか。わかってるねぇ」
面倒ごとは嫌いなので、ノーラは仕方なく男たちと戯れることになった。
それが一番手っ取り早い方法だと判断したためである。
ここでグダグダしていても仕方ない。さっさと終わらせてしまおう。
「では、まずはあなたから……」
ノーラはギラリと牙を剥いた。
さぁ、捕食の時間だ。
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